MIN-IRENトピックス

2015年3月31日

特集1 “共同組織はHPHの大使になれる” 国際HPHネットワークCEO ハンヌ・ターネセンさんに聞く

すばらしい活動・実績を“秘密にしないで”

 一月一八〜一九日に東京で開かれた「第二回HPHセミナーin JAPAN」の記念講演のため、国際HPHネットワークCEO(最高経営責任者)のハンヌ・ターネセンさん(3月号表紙に登場)が来日しました。同セミナーは、全日本民医連と同ネットワークの共催でおこなわれました。
 地域の健康づくりのために活動する医療機関などが加盟する同ネットワーク。「民医連と共同組織のとりくみこそHPHのすばらしい実践」と語るターネセンさんに、話を聞きました。(多田重正記者)

協同の広がりにびっくり

ハンヌ・ターネセンさん デンマーク出身の医学博士。国際HPHネットワークCEO(最高経営責任者)。スウェーデン・ルンド大学教授。

ハンヌ・ターネセンさん デンマーク出身の医学博士。国際HPHネットワークCEO(最高経営責任者)。スウェーデン・ルンド大学教授。

─HPHとはどのような意味ですか。
 HPHとは、ヘルスプロモーション(健康増進)を推進する病院や施設のことであり、WHO(世界保健機関)が推奨する国際ネットワークの組織です。病院や診療所の医療サービスを、総合的に人々の健康増進のためにおこなっています。
 ヘルスプロモーション(健康増進)は、病院の中だけではなく、外でもおこなわれることが大事です。自宅や職場、学校、社会施設などにもヘルスプロモーションの思想が浸透することが重要です。
─今回の来日では、東京保健生協も視察されたとか。
 「柿の木ハウス」(東京保健生協学園通り支部)を訪問しました。地域にたまり場にしている家があって、いろんな人たちが集まれるようになっていました。組合員さんはとても元気で、病院と地域住民との協同の広がりにびっくりしました。
 民医連の“共同組織”という活動の形は、他の国にはないユニークなものです。ヨーロッパには患者会はありますが、患者・家族・関心を持っている人たちの集まりで、地域ぐるみではありません。
 民医連には全国で約三六〇万の共同組織のみなさんがいます。これだけ大規模なものは、独特のものだと思います。
─地域住民あげての健康づくりというスタイルは、国際的にめずらしいのですね。
 もちろん、病院に来る患者さんの八〜九割は不健康な生活習慣を送っていますから、病院の中での活動も重要です。

ヘルスプロモーションで劇的な効果

 ヘルスプロモーションを治療過程に取り入れると、手術の成果が飛躍的に改善されます。脊椎の手術を受ける患者さんに、身体運動を取り入れると術後の回復期間が三分の二に短縮されます(グラフ)。手術にヘルスプロモーションを取り入れることで、劇的な効果が得られることが明らかになっています。
 このようなエビデンス(医学的根拠)が得られたことで、喫煙者に手術をしてはいけないことになっている国もあります。スウェーデンでは、禁煙しないと、手術を受けてはいけないことになっています。
 喫煙者は、術後に肺炎や敗血症などの感染症を発症する率が二倍になることもわかっています。医師であれば、誰でも自分の患者が合併症を起こしてほしいとは思いません。だからこそ消毒をおこなったり、抗生物質を使ったり、さまざまな医薬品や技術を取り入れる。すべて「患者の安全のため」です。
 喫煙者には手術をしないというのは、世界的な流れになっています。

図1

─術前に、喫煙による合併症の危険について説明されているのですか。
 必ず説明しなければいけません。外科医には説明する責任があります。
 ただ、責任の度合いは、どんな手術をするかによっても違ってきます。がん患者は違います。骨折など、すぐに手術が必要な場合も違います。
 現在、がんや外傷で手術を受けた患者さんが、術後に禁煙・禁酒をおこなった場合、どういう成果が上がるかという調査をおこなっています。

内科・心療内科でも大きな効果

 内科でも、ヘルスプロモーションは効果的です。たとえば糖尿病の患者さんが禁煙・禁酒・運動・食生活の改善をおこなえば、健康が大きく維持されます。
 また昨年、HPHの科学ジャーナル誌で発表しましたが、心療内科でも禁煙でうつや不安感が大きく改善されることがわかっています。こうした効果は短期間で、目に見える形で現れます。家族を亡くしてうつ状態に陥った方が、禁煙で大きな気分の変化を感じることができる。私たちは、実践すればいいだけなんです。
 こうした例をあげているのは、エビデンスがあるからなんですね。禁煙、禁酒、運動、食生活の改善が健康にいいことは、誰でも知っています。でも、それをやらなかったらどれだけ健康に悪いのか、手術と組み合わせるとどれだけの効果があるのかという具体的なことはまだ知られていないと思います。
─健康づくりにとりくむ共同組織の出番ですね。
 三六〇万の共同組織の方、一人ひとりがヘルスプロモーションの効果を具体的に学んで実践することで、地域の健康が飛躍的に改善されるでしょう。だからこそ私は「共同組織のみなさんはHPHの大使になれる」と思います。

日本HPHネットワーク結成を

 日本でHPHを始めるにあたって、民医連は非常に大きな役割を果たしました。今回のセミナー(第二回HPHセミナー in JAPAN)では、日本病院会、全国自治体病院協議会、プライマリ・ケア連合学会、日本ヘルスプロモーション学会、全国保険医団体連合会も後援してくださっていると聞いています。
 HPHの支援者は増えつつあります。今年中に日本HPHネットワークの設立にこぎつければと、期待しています。
─最後に読者へのメッセージを。
 民医連と共同組織のみなさんがなさっている、すばらしい活動や実績を秘密にしないで。国際的な場に出てきて、私たちにも教えてください。

写真・酒井 猛


HPHとは
 「Health promoting hospitals & health Services」(健康増進活動拠点病院・ヘルスサービス)の略。加盟施設はへルスプロモーションを基本理念・実践に位置づけ、地域を含めた施設内外で活動。医療機関だけでなく介護施設も加盟可。2014年4月時点で43カ国・約1000施設が加盟。現在加盟している日本の施設は22施設(すべて民医連=今年2月末現在)。


日本のHPH加盟施設(今年2月末現在)

・千鳥橋病院(福岡)
・東京健生病院(東京)
・大泉生協病院(東京)
・みさと健和病院(埼玉)
・上伊那生協病院(長野)
・たたらリハビリテーション病院(福岡)
・健生病院(青森)
・広島共立病院(広島)
・札幌病院(北海道)
・耳原総合病院(大阪)
・秩父生協病院(埼玉)
・吉田病院(奈良)
・埼玉協同病院(埼玉)
・利根中央病院(群馬)
・上京診療所(京都)
・熊谷生協病院(埼玉)
・埼玉西協同病院(埼玉)
・西淀病院(大阪)
・城北病院(石川)
・東葛病院(千葉)
・あおぞら薬局(大阪)
・寺井病院(石川)


住民が主人公のヘルスプロモーションを世界に

 第2回HPHセミナー・ポスターセッションから

 第2回HPHセミナーでは、各地のヘルスプロモーション活動を発表するポスターセッションがおこなわれました。73演題が発表され、7人が優秀賞を受賞。優秀賞のなかから3演題を紹介します。

熱中症は予防できる!! 2014年作戦

千葉・東葛病院

 熱中症予防のとりくみを報告したのは、東葛病院。熱中症が猛威をふるった二〇一三年、東葛病院のある流山市では、熱中症での救急搬入が八九件ありました(五月三一日~一〇月一四日)。東葛病院に搬入された熱中症患者では、大半が軽症でしたが、死亡が一例ありました。
 そこで「熱中症は予防できる」「地域から重症者を出さないようにしよう」と、二〇一四年六〜八月、熱中症予防のとりくみを展開。病院の機関紙「東葛の健康」一面で熱中症予防と応急処置を紹介して、通常より三割増の一万三〇〇〇部を印刷し、宣伝・啓蒙活動にも活用しました。
 このほか「街頭宣伝カー作戦」やスーパー前での街頭医療相談会、自宅訪問調査などをおこない、職員と共同組織一〇〇人以上が参加。ヘルスプロモーション活動への理解が深まり、同病院のHPH加盟へとつながったことが報告されました。

地域の高齢者の栄養障害を調査

東京・大泉生協病院

 大泉生協病院からは、栄養状態の悪化で運動機能低下などが起きていないか調べたアンケート調査の結果が報告されました。在宅医療部・大泉訪問看護ステーションや組合員の協力で、地域住民九〇〇人に配布、回収率は四八・三%でした。回答者のうち、七五歳以上を「要介護群」(往診・訪問看護などを受けている)、「自立群」(介護保険未申請/介護サービスの利用なし)にわけ、栄養状態やサルコペニア(筋肉量などの低下)の有無などを比較(下図)。要介護群は「低栄養」「at risk(危険な状態)」七六・三%、サルコペニア六二・一%だったのに対し、自立群の栄養状態は七四・三%が「良好」でしたが、サルコペニアは五一・四%でした。
 報告では、高齢者の健康を維持するためには、適切な栄養管理と運動の双方が必要であるとの考察が示されました。

図

笑顔の「ふれあい喫茶」「男のキッチン」で料理上達

医療生協さいたま

 医療生協さいたま西部地区Aブロック松井支部からは「ふれあい喫茶スマイル」と「男のキッチン」のとりくみが報告されました。ふれあい喫茶は毎月第二土曜日、男のキッチンは毎月第三土曜日に開いています。
 男のキッチンは、毎回二〇人以上が参加。はじめは包丁も持ったことのない男性たちも顕著に上達し、「夫が料理をしてくれるようになった」「夫がご近所さんとかかわるようになった」などの変化が生まれたことが紹介され、「地域に頼りにされるたまり場活動」を続けていく抱負が語られました。

いつでも元気 2015.04 No.282

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