介護・福祉

2015年4月7日

フォーカス 私たちの実践 タクティールケア 富山協立病院 言葉でないコミュニケーションで不安なくし患者と信頼築く

 昼夜問わず奇声をあげる、不安が強く繰り返しナースコールをする…。認知症やターミナル(終末期)の患者さんが多く入院している富山協立病院療養病棟では、こうした患者さんに少しでも穏やかな気持ちで過ごしてもらえるよう、タクティールケアを導入しました。

 タクティールケアとは、患者の手足や背中に撫でるように触れたり、やさしくマッサージすることで、患者のストレスや不安を軽減するケアです。
 同院療養病棟は六〇床。認知症の患者さんが多く、がんのターミナルでの入院もあります。不安感を抱える患者も多く、不穏な行動にどうかかわっていくか、病棟の課題でした。「タクティールケアを始めるきっかけは、研修で体験した介護職員の“うちの病棟でも導入してみては?”という提案でした」と、看護師の丸山宏美さん。
 当初は、その効果について半信半疑だったものの、事前に学習を重ねる中で効果を発揮した事例などを学び、スタッフの意欲も上がっていきました。

「奇声やむ」「発語した」

 はじめに、認知症の高齢者四人(うち一人は肺がんターミナル)に対し、週五日、一カ月(計二一回)のタクティールケアを実施。「睡眠」「夜間の行動」「感情の表出」「言動」の四項目を設定し、観察しました。マッサージに使用するオイルは無香料のものを選び、ゆったりした雰囲気で片手で約一〇分、両手で二〇分程度を目安に行いました。

【Aさん、九四歳、女性】認知症、腎ろう、胃ろう造設。昼夜問わず奇声を発する
〈目標〉奇声の緩和
 寝たきりで会話はできず、絶え間なく「あー」「いー」という奇声を発していた。タクティールケア四回目以降、奇声がほとんどなくなった。下肢の拘縮があり、手指も握りしめていたが、ケアで指の緊張が緩み、握り返すようになった。最初は身体に触れられるとビクッとしていたが、回を重ねるごとにそれもなくなった。
【Bさん、八四歳、男性】認知症、複数の褥瘡、夜間の不眠が続く
〈目標〉夜間の良眠
 感情失禁、ベッドの柵はずしが頻繁にあり、車いすに乗りナースセンターで過ごすことが多かった。職員の声かけにも返事はせず、うなずく程度。ケアを始めると、初回から「気持ちいい」「手が柔らかくなった」と言葉を発し、職員も驚くほど。ケアのたびに昔話などをするようになり、柵はずしも徐々に減った。午後九時半には入眠するようになり、車いすで過ごす時間も減少。

コミュニケーションが鍵

 「認知症には、非薬物療法も組み合わせて対処することで症状が改善されると言われています。タクティールケアなら、言語的コミュニケーションが難しい患者さんとも信頼関係が築けると気づきました」と丸山さん。
 肺がん末期で薬物での疼痛コントロールをしていたCさんは不安感が強く、ナースコールも頻回でした。一対一で向き合い、タクティールケアを行っていると、ポツリポツリと不安な胸のうちを語り始め、若い職員がいっしょに涙を流したこともありました。次第に不安が軽減し、ナースコールの回数も減りました。
 「タクティールケアに限らず、人とのコミュニケーションが鍵だと痛感した事例もありました」と丸山さん。ターミナルで入院していたDさんは引きこもりがちで、部屋で食事をとっていましたが、すすみませんでした。他院に入院していた時は夜間に身体拘束されていたほど不穏だったことも。あるとき、「食堂でみんなと食事しませんか」とスタッフが誘うと食がすすみ、次第に自分からおしゃべりしたり、トイレにも自分で行けるようになりました。

“触れるケア”若手も学ぶ

 患者の家族にも積極的にタクティールケアの方法を教えています。ターミナルの患者の家族は「家族ができることはもうないと無力感があったが、タクティールケアをすると気持ちよさそうで、できることがあるとわかった」と語りました。
 この試みは、職員が「触れる」ケアの重要性に気づくきっかけにも。丸山さんは、「実習生や新人職員は、認知症の高齢者との会話が苦手。タクティールケアを通じて会話できるようになったり、一生懸命さが伝わったり、信頼関係が築けています。改めて寄り添う看護・介護の力を感じています」と話しています。

(民医連新聞 第1593号 2015年4月6日)

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ