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2015年5月7日

里子・里親 文・朝比奈 土平 (3)初対面の日

 「片目のまぶたが垂れているんですが、ちゃんと見えてるんですよ。こども病院の眼科にも定期的に行ってますし」「ほんとうにかわいい子なんですけど目が…」
 そんな風にちょっと申し訳なさそうに、児童相談所(児相)の人が何度も言うので、夫婦で「ほんとは見えているかどうか、わからんのかね」なんて言いながら初対面の日を決めた。
 里親研修の中で「里親登録されても実際の紹介までの期間には個人差があります」と聞いていたので、一二年の一月に里親登録されてもゆったり構えていた。それが二月には「紹介したい子どもさんがいます」と連絡があった。登録申請の紙に「希望する子ども」を書く欄があったが「ペットじゃないからねえ」とあまり書かなかったのがよかったのかもしれない。
 それから子どもの出身地域の児相で一度話を聞いた。産前産後の状況や、健康状態、実親が出産前から養子縁組を希望されていることなどだった。名前がアキラであることを知った。
 二〇一二年三月上旬、彼が暮らす乳児院での初対面の日が来た。生活訓練室という、僕らがそれから何度も通った六畳間に、県と出身地の児相の人たち、乳児院の園長先生など、スーツの大人がたくさんいた。縁起は悪いがまるでアパートのお弔いのような風景だった。
 乳児院の豊かな体格のセンセイにしがみついた一歳四カ月のアキラ君が登場した。ふだんの“子どもたくさんとセンセイ”というシチュエーションとはまったく違う異様な雰囲気の中、見覚えのないオッさんとオバちゃんが少し緊張して座っている。センセイはその夫婦らしい二人に顔を向けさせようとする。
 アキラ君は乳児院のセンセイにギューッとしがみついたままだった。何度かセンセイが立たせようとしたが、その都度泣き顔になり腕の中に戻っていった。時々肩越しにちらっと視線をくれた。
 手をのばすこともできないまま、三〇分程で初対面は終わった。
 眼瞼下垂があるとかないとか、かわいらしさにはなんにも関係はない、とその時に思って、それはずっと変わらない。

(民医連新聞 第1595号 2015年5月4日)

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