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2015年6月2日

「被爆者の医療記録の保存を」民医連に要請 ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会

 NPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」が、全日本民医連に被爆者の医療記録に関する要請を行いました。病院や診療所などが管理する被爆者のカルテや検査データ、相談記録などを破棄せず保存してほしい、というものです。全日本民医連理事会は要請に応じることを確認しました。いまなぜこの要請なのか、同会に聞ました。(木下直子記者)

 ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会は、二〇一二年に発足した特定非営利活動法人です。被爆者の平均年齢は、今年で八〇歳を超えると言われます。年々被爆者が亡くなってゆく差し迫った状況で、国内外の次世代に遺そう、と被爆者の全国組織・日本被団協(被爆者団体協議会)と協力し会を立ち上げました。目的は、広島・長崎の被爆者たちが長年訴えてきた「ふたたび被爆者をつくるな」という願いの実現です。

資料収集と継承の事業

 会では、原爆被害の実相や被爆者が遺した証言や記録、資料の収集・保存・発信をする作業と、それら「記憶遺産」を継承するための事業を行っています。
 「被爆の記録は、広島・長崎の原爆資料館などでも収集していますが、私たちが集め、保存するのは全国の被爆者の運動に関わる記録や資料など、他施設では扱わないものです」と、事務局長の伊藤和久さん。
 収集対象の資料は、主に四分野(表)。「被爆者の生と死、たたかい」の記録を網羅的に集めようとしています。
 これらに加え、専門家の協力を得て検討していく分野の一つとして、被爆者健康手帳やカルテ、問診記録などの医療分野の資料が挙がっています。

今回は緊急避難的に

 「原爆被爆者の医療記録は人類史的な貴重な資料です」と、資料収集の担当事務局・栗原淑江さん。「一九五七年に医療法ができるまで、被爆者は国に放置されてきました。その間十数年、被爆者医療を担ったのは民間の医療機関。本来、こうした医療記録は国などの公的機関が保存すべきですが、保存方針さえ立てられていません。一般の病院にかかっている被爆者のカルテなどは、通常どおりの保存期間(五年)が経てば、廃棄されてもおかしくありません」。
 とくに、被爆から時が経つに従い、被爆者医療を行ってきた被爆地の病院でさえ、貴重な医療標本などの保存が継続されるのか、懸念される状況も生まれています。会から民医連への要請はそうしたことを背景に行われました。
 「今回の民医連へのお願いは第一弾で、緊急避難的に『被爆者に関わる記録や資料は捨てないでいただけませんか』というものです」と、伊藤さん。「医療関係の資料については何をどのように収集・整理するか、検討チームづくりに着手したところです。民医連医師も会のメンバーに入っています。代々木病院(東京)の中澤正夫医師は副代表理事を、静岡の聞間元医師(生協きたはま診療所)も会の理事をつとめてくれています。今後は被爆者医療に長年関わってきた皆さんの知恵もお借りできればと考えています」。
 代々木病院では、被爆者のカルテは永久保存扱い。伊藤さんたちは同院の倉庫の見学にも行っています。

資料は「死蔵」でなく

 会の代表理事の岩佐幹三さん(金沢大学名誉教授)は、「私も広島の被爆者です。八六歳になるいままで、がんなどを患いつつ生きてこられたのは、医療のおかげ。こうした医療データは死蔵させず活かしてほしい」と語ります。
 被爆者の医療データはアメリカが自国に持ち帰り、核兵器の研究・開発に使われた歴史もあります。
 「今後、誰の手によって、どう使われるか、日本の医療界の課題としても議論していってほしいと思っています」(栗原さん)。


 継承センターが収集する主な資料とは?

(1)原爆体験記録:
   手記、語り・講話、自分史、聞き書き
(2)原爆を(とりわけ被爆者が)描いた小説・詩歌、絵画・写真
(3)被爆者運動史資料:
   会報・会議緑、メモ・ノート・草稿類、会員からの手紙、行動・イベントの記録、国内外での証言活動、国会請願・政府交渉・訴訟等の記録、被爆者対策史資料
(4)原爆被害・原爆体験実態調査研究資料:
   被爆者団体、連携団体、政府・自治体、メディア、研究者・研究機関等が実施した調査研究。原票・報告書・実施メモなど
 (a)原爆に関する主要文献
 (b)核開発・核実験等による被害関係資料

※検討項目…個人の資料/カルテなど医療的な記録/原爆症認定など、裁判関係資料/被爆者の証言を聴いた人の感想文

(民医連新聞 第1597号 2015年6月1日)

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