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2015年6月16日

4月からスタートした生活困窮者自立支援法 問題点は? 自立生活サポートセンター・もやい理事 稲葉剛さんに聞く

 今年四月から生活困窮者自立支援法が施行されました。地方自治体は「生活困窮者」の自立支援事業を行わなければいけなくなりました。当初は「生活保護の手前のセーフティーネット」として議論されていた同法ですが、「社会的孤立者」への支援が削られるなど、問題もはらんでいます。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事の稲葉剛さんに聞きました。

 民主党政権(二〇〇九~一二年)時、「生活保護の手前のセーフティーネットを充実させよう」と議論が始まりました。一二年暮れに自民党が政権に返り咲くと、法制化される過程で内容が縮小していきました。
 民主党の「生活支援戦略」では「経済的困窮者・社会的孤立者を早期に把握し、必要な支援につなぐ」と書かれていました。しかし「社会的孤立者」という文言は削除されました。支援内容を就労支援に限定し、支援の対象も「就労できそうな層」に絞り、就労が見込めない高齢者や障害者は排除しています。

■経済給付は一部のみ

 事業には、自治体が行わなければならない「必須事業」と、やってもやらなくてもいい「任意事業」があり、必須は「自立相談支援事業」と「居住確保支援」のみ。家計相談や子どもへの学習支援などは任意事業になります。支援内容に地域格差が生じるでしょう。
 「中間的就労」をすすめていることも問題です。これは就労訓練の一つで、最低賃金以下で働いてよいことになっています。生活困窮者が最賃以下の劣悪な労働環境に置かれ、労働市場全体の劣化も招きます。
 同法には経済的な給付はほとんどありません。生活に困窮している人たちにとって、最低限のお金は必要不可欠です。しかし、政府の方針は「社会保障費を減らす」ことですから、「支援にはつなげるが、お金は渡さない」内容なのです。

■機能しない住宅支援

 唯一の経済給付は「住居確保給付金」ですが、家賃補助(三カ月)の対象を離職者に限定しており、非常に使い勝手が悪いのです。
 ネットカフェや脱法ハウスで暮らす人の多くは仕事をしています。収入は低く、せいぜい月一四~一五万円程度。敷金や礼金を用意できず、劣悪な脱法ハウスなどで暮らさざるをえません。生活困窮者ですが、仕事をしているため、給付金は利用できません。
 給付金の前身である住宅手当・住宅支援給付の実績を見ると、制度開始時の二〇〇九年に三二九〇件だった新規利用は一三年には九〇一件に激減。一方で常用就職率は七・八%から七五・四%に上昇しました。自立支援事業に変わっても同じことが危惧されます。

■就労に偏った支援

 相談窓口業務は民間委託が可能です。受託した事業者は実績を求められます。新規利用を減らせば就職率は上がるので、再就職ができそうな人にしか給付金の利用を認めないなどの運用になりかねません。
 すでにパソナなどの人材派遣会社に委託する自治体も。派遣会社が福祉的な対応をするとは考えにくく、自社で安い労働力として働かせる危険まであります。
 もともと自治体には、困窮者のための生活保護の窓口があります。それと別に新しい窓口を作ることで、生活保護を受けるべき人が自立相談窓口に回され、「就労支援」しか受けられず、帰されかねません。同法からは「仕事さえ与えれば貧困から抜け出せる」という発想が透けて見えます。

■雇用と住居の充実を

 同法が主な対象としている若年層の現状から、あるべき支援を考えてみましょう。こんなデータがあります。二〇~三〇代で未婚・年収二〇〇万円未満の人の七七%が親と同居。一方、四人に一人は親と別居で、うち一三・五%が「定まった住居がない」経験が「ある」と回答。広い意味でのホームレス状態です。
 若年層に貧困が拡大しているのは、度重なる法改正で低賃金で不安定な派遣労働を拡大し、非正規労働者が急増したためです。雇用の劣化と住居確保へのアクセスの悪さこそ解決しなければなりません。
 生活保護につなぐべき人がつなげられないなど、制度の問題点が浮き彫りになってくると思います。ぜひ医療や福祉の現場で働く人たちが発信してほしい。それが制度改善の力になります。(丸山聡子記者)


いなば・つよし 1969年、広島市生まれ。被爆二世。立教大学准教授。東京大学在学中から平和運動や外国人労働者支援に関わり、94年から路上生活者支援。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立。09年、「住まいの貧困にとりくむネットワーク」を設立。11年から生活保護改悪に反対するキャンペーンを展開。

(民医連新聞 第1598号 2015年6月15日)

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