いつでも元気

2002年4月1日

つぶそう!小泉医療改悪 2・14国民大集会に15000人

さいたまスーパーアリーナを埋めた全国の参加者

 

 「安全・安心の医療を守ろう 2・14国民大集会」。バスで飛行機で、全国から1万5千人が結集しました。
 全日本民医連会長の高柳新医師が「命を守る共同、統一戦線が、いま幕を開けました」と開会あいさつ。日本共産党・志位和夫委員長の「国民の圧倒的な世論 と運動で医療改悪を中止に追いこみ、小泉政権の命取り″にしよう」とのあいさつに、大きな拍手がわきました。
 主催は医療団体連絡会議、中央社会保障推進協議会、国民春闘共闘委員会。


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 いま、リストラや失職で保険を失う働きざかりの人が激増しています。さらに保険料を滞納し、国民健康保険証を取りあげられる例も急増して……

 「五四歳男性、肺炎。パン工場をリストラされ一年ほどホームレス。入院し翌日死亡」「五三歳男性、アルコール依存。市内でホームレス化。転帰不明、医療費は行路(ゆきだおれ)」「二四歳男性、栄養失調。関東一円を転々」……。
 長野県民医連の医療ソーシャルワーカー部会では、昨年一年間、「受療権侵害」事例の調査をしました。自分たちが関わった事例で、医療を受ける権利が侵害 されているというケースを集約したところ、中間集計で一二五例にものぼったのです。
 ここには、必要な医療を受けられないだけでなく、仕事も住む家も失う人たちが激増しているという悲惨な実態が克明にきざまれています。その背景に浮かび上がってくるのは、国民皆保険制度を崩壊させる、小泉「改革」です。

  三年ほどまえから急増
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相談を受ける鮎沢さん

 調査には、県内五法人の医療ソーシャルワーカー二一人が参加しました。
 部会責任者の鮎沢ゆかりさん(下諏訪町在宅介護支援センター)は全体の傾向をこう述べます。
 「男女比は三対一で男性が多かったです。年齢は五〇代が三分の一の四二人で最も多く、ついで四〇代の二四人、六〇代の二三人。思ったとおり、失業、リストラがらみの人が多かったですね。失職したばかりの人が三四人もいました」
 いまの職場にきて一一年になる鮎沢さん。毎日の仕事で、医療費が払えなかったり生活費にもことかく人たちに接していますが、あらためて深刻な実態に圧倒されたといいます。
 「会社をリストラされた二〇代の男性がアパートも追い出され、病気の父親を車に乗せて公園で水だけ飲む生活を二カ月続け、警察への通報でこの病院に運ば れてきたのが三年ほど前。昨日までふつうに生活していた人がホームレスのようになっちゃうようなケースは、そのころから急激にふえてきましたね」

  都市ほど多いホームレス

 ホームレス事例がいちばん多いのは、県内ではやはり長野市。特徴は東京や大阪で見られるような定住型のホームレスより、失職などで県外から流れてきた人が多いことだと、長野中央病院のケースワーカー小巻佳人さんはいいます。
 「救急で搬送されたホームレスの人は、過去二年間に長野市で約四〇人。去年の一〇月には一カ月で六人が搬送されたというのが私たちの調査結果です」
 群馬県出身という五四歳の男性。市内で勤務していた工場をリストラされ、アパート代も払えず半年間ホームレス生活に。昨年一月に、極寒のなか公園で倒れ ているところを救急搬送されましたが、すでに栄養失調がすすんでいて入院翌日に死亡してしまいました。
 「この方のように、失職すると無保険になるケースがほとんどです。本来なら社会保険から国民健康保険に切りかわるのですが、国保は保険料が前年の収入で きまるので高くて払えないとか、すぐに再就職するつもりで手続きをしないとか。そういう人への行政のていねいな対応はないですね」と小巻さん。
 今回の調査では、無保険のまま入院しすぐに死亡した人が六ケースもありました。栄養失調や肺炎、あるいはがんであっても倒れるまで病院にいけない。それが「無保険」の現実です。

  同様のケースが100万人も

 一方で、国保加入者で保険料を滞納し保険証を取りあげられるケースも深刻なものになっています。
 厚生労働省は毎年、国保の滞納世帯数と短期保険証、資格証明書の発行数を発表しています。昨年六月付けのその数字は、滞納世帯が三七〇万、短期保険証が約四〇万、資格証明書発行が一〇万となっています。
 しかし、昨年九月以降、各地で短期保険証と資格証明書がいっせいに出されているという報告があり、中央社会保障推進協議会では昨年一一月一日現在の状況 を調査しました。その結果について、事務局次長の相野谷安孝さんはこう語ります。
 「二〇数県から回答があり、いずれも厚労省発表の倍ぐらいという結果です。短期と資格証明あわせ、ほぼ一〇〇万人に出されているのが事実。前年に比べる と、どちらも二倍にふえていますね。目立つのは、不況のため高い国保料を払えなくなる人たちです。一方で、失業による無保険(未加入)も大きな問題になっ ています」

  医療も収入も家もなく

 医療の現場で「無保険」のケースは、同時に収入も住む家さえもまともにない場合がほとんどです。前出の鮎沢さんが出会ったなかに、こんなケースもありました。
 五六歳の男性。六年前に栃木県在住中、脳出血を発症し仕事を休みがちになり解雇。離婚もして収入もなくなり、四日間歩いて実家まで帰ってきました。とこ ろが、実家には軽い痴呆のある八三歳の母親ひとり。月額七万五千円ほどの母親の年金だけを頼りに、家賃四万を払った残りで生活してきました。
 「一切れの鮭を二人で三日間食べるような暮らしを、何年も続けていたんです。その間、何度も市役所に『生活保護にしてくれ』と訴えたんですが、『まだ若 いから働け』と。『こんな不自由な体で』といっても、『新聞配達ぐらいできるだろう』とまでいわれあきらめたとか」
 一昨年の暮れ、ようやく鮎沢さんのもとに相談にきたときは、脳出血の後遺症がありながら長く医者にもかからず、栄養も悪く歩けない状態ですぐに入院となってしまいました。
 「市役所の担当者に病院へきてもらい、ようやく生保を認めさせたんです。部会の調査では、生活保護がとれた人はわずか二五人。行政の対応は厳しいのですが、とにかくまず実態を知らせる必要性があると感じます」

  行政を動かす働きかけを
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これが資格証明書。「この証で診療を受けるときには、診療費用の全額を支払ってください」とある

 松本協立病院のケースワーカー赤坂律子さんも、患者さんに対する行政の対応について何度も役所にかけあった経験をもっています。
 四七歳男性。胃がんの手術を協立病院で受けましたが、入院費六五万円が未納のまま。その状況を知って赤坂さんたちが訪問すると、仕事もできず国保料は滞納。短期保険証を交付されているとわかりました。

(注)1カ月に同じ病気で、医療費の一部負担が6万3600円(住民税非課税世帯は3万5400円) を超した場合、申請すれば超えた額は戻ってくる(高額療養費制度)。いったん窓口で全額支払わねばならないところ、病院が戻り分の受けとりを委任されるこ とにより、患者は一部負担の支払いだけですむという制度。

 「入院費の支払いに高額療養費の委任払い制度(注)を使いたいと交渉したんですが、市は『滞納があると使えない』の一点張り。でも、経済的に困っているからこそ滞納もするし、委任払い制度も利用したいのに、おかしいですよね」
 その患者さんは数カ月後、入院したまま胃がんで死去。赤坂さんは黙っていられず、再度、市役所に電話しました。
 「亡くなりました。悲惨でした。仕事もお金もなく滞納した人に、市役所は何十万円も払わせるんですか。責任者を出してくれって強く迫ったらしばらくして、前年にさかのぼって委任払いを利用できるとなったんです」
 松本市では昨年九月、民主商工会と協立病院で国保証交付について市と交渉しています。多重債務で国保料も滞納中の人が、市から「弁明の機会の付与通知書」が送られてきたと、民主商工会に相談にきたのがきっかけです。
 資格証明書は、国保料を滞納し保険は使えないということの証明です。資格証明書の発行に関して国は、国会でも「ていねいな対応をする」と答弁しています。
 滞納の理由を書いて送れという「通知書」送付は、市役所にすれば「ていねい」な対応なのでしょう。しかし、その文面もやり方も、受け取る市民にとってはきわめて威圧的で一方的なものでした。
 「国保証は命に関わる大事なもの。国民皆保険の精神を崩さず、資格証明書は発行しないでほしい。生活困難な世帯の実情を把握し、支援する立場で相談にのってもらいたい」
 民商と民医連の交渉の結果、行政からは一定の理解が得られ、個別の相談にのるようになっています。
 「資格証明書は、一度出されると雪だるま式にふえていくおそれがあります。それを阻止する意味で、個別のケースを行政に持ち込んで交渉し、ストップさせる運動も重要です」
 相野谷さんは松本の事例をそう評価します。

  「構造改革」政治の歪みとして
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ほっぺにシール「こんな値上げは
NO!」。2・14集会で

 「一年にわたって受療権侵害事例を調査してみて、日々の仕事に追われるだけでなく、行政を動かす運動の必要性を痛感しました」と鮎沢さん。
 「そのためには、広いネットワークが必要だ。それはわかるんですが、どこに働きかけていったらいいのか……」
 では、受療権侵害問題ではどのような運動が必要なのか。あらためて、中央社保協の相野谷安孝さんに伺いましょう。
 「資格証明書や無保険は、実態がつかみにくいのがまず問題です。福岡県の保険医協会の調べでは、資格証明書を持っている人の受診率は一般の一二〇分の一。ほとんど病院にこないわけですから、医療関係者にはつかみにくい。
 生活と健康を守る会や民主商工会、教職員組合(子どもの保険証をみる機会がある)など、地域のさまざまな場面に接している人たちのネットワークや、日常 的な相談活動などから現実を敏感につかむことが大事です。その視点からも、地域社保協づくりが重要です。そして、市民の実態を知らない行政に、現実を突き つけていくことです」
 小泉内閣は「医療費がふくらむ」「高齢者医療費がふえる」を口実に、「医療改革」をすすめようとしています。しかし、現実の背景には、経済政策の失敗からくる長期不況、大失業による保険財政の逼迫があると相野谷さん。
 「企業の雇用べらしで健保加入者は減少の一途。国保も滞納者激増。保険財政悪化の真因は、小泉不況、リストラ推進政策にこそあるんです」
 受療権侵害、無保険の問題は、国の失政を背景とする大きな問題。その視点をしっかりともち、地域で大きなネットワークをつくる運動を積み重ねていかなければなりません。

文・矢吹紀人
写真・若橋一三

いつでも元気 2002.4 No.126

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