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2015年8月18日

フォーカス 私たちの実践 糖尿病患者のフットケア 東京・中野共立診療所 足病変「もう見逃さない」 学習会やケア強化にとりくむ

 東京・中野共立診療所では、通院していた糖尿病患者が合併症を発症し、足の切断に至ったケースを機に、「再び足の病変(潰瘍・壊疽)を見逃さない」と患者のフットケアを始めました。それとともに、栄養指導や糖尿病学習会にも意識的にとりくんでいます。同診の看護師長吉井孝代さんに聞きました。

 糖尿病による足の切断は糖尿病の三大合併症の一つです。切断後は死亡率も上がるなどリスクは高いですが、腎症、網膜症など定期的な検査でチェックできるものに対し、フットケアは十分にケアできていないのが実情です。

発見遅れ、 足切断も

 きっかけは昨年のこと。足の病変が進行し、一人は膝下を切断、一人は治療に相当期間を要する患者さんが出たのです。
 切断に至ったAさんは、六〇代後半の男性で一人暮らしでした。定期通院していたものの、アルコール摂取量も多く、HbA1cは一〇・八と、コントロール不良でした。しびれと痛みを訴え、初めて足を診ました。かかと部分の潰瘍、蜂窩織炎、右四趾が壊疽。入院中、四趾は完全に壊死し、切断目的で転院しました。
 Bさんは六〇代の男性、経済的に困難で、通院も滞りがちでした。インスリン治療をしていましたが、「お金がない」と受診を遅らせ、親族のインスリンを使用したこともあったと判明しました。
 昨年一月から生活保護となり、受診できるようになりましたが、五月に体調を崩して受診。診察台にあがるために靴を脱ぐと、足がパンパンに腫れ上がった状態でした(写真)。膝下の感覚が麻痺し、自覚症状がなかったため、本人は気付いていませんでした。その日のうちに入院となり、治療開始。退院後、皮膚科につなぎました。足は切断に至らず済みました。
 「日常診療の中で『足を清潔に』などの声かけはしていましたが、患者さんの足を意識的にみてはいませんでした。もっと早く気付けていればと悔やみ、スタッフで話し合い、医師とも相談のうえ、外来でのフットケアにとりくむことにしました」と吉井さん。
 ケアの対象は、▼糖尿病罹患から五年以上でHbA1c八%以上、▼罹患年数にかかわらずHbA1c一〇%以上、の患者です。問診とともに足を出してもらい、チェックリスト(下表)に基づいて、皮膚病変や、タコ・ウオノメ・水虫などの有無、爪の状態、しびれ、感覚鈍磨について観察します。
 対象者は九二人。電子カルテにフットケア対象者であることを記載し、フットケア手帳も手渡します。足病変についての説明や、足の観察ポイント、日常のケアについて説明します。半年に一度は足の観察をし、職員と患者でフットケア手帳に書き込みます。必要があれば皮膚科受診をすすめます。
 「とはいえ、対象者全員はチェックできていないのが現状です」と吉井さん。診察室が全てふさがっていたり、看護師が多忙だったりして、足を観察する場所や時間が確保できないためです。また、同診の皮膚科の診療は週二単位のため、皮膚科の受診につながりにくいという悩みもあります。

背景にある生活と仕事

 フットケアのほかにも、一年を通じて患者、職員ともに糖尿病への理解を深めるとりくみをすすめています。ふた月に一回、「糖尿病とは」「糖尿病の合併症」「糖尿病と歯科疾患」などのテーマで学習会を開催。栄養指導と合わせて調理実習も行いました。約二〇人が参加し、質問も多く出ました。糖尿病患者会「なでしこ会」への入会希望もありました。
 外来の一角には、アルコールや清涼飲料水のカロリーと糖分量、季節ごとの食品(夏場はそうめん、スイカ、アイス類)のカロリーを表示しています。ペットボトルにグラニュー糖を入れ、具体的な糖分量を目で見て確認できるようにしています。
 吉井さんは、「診療所は繁華街にあり、飲食業で働く三〇~四〇代の糖尿病患者が受診します。フットケアのできるシステム作りと、患者さんの生活や働き方について職員間で共有し、学習していきたい」と話しています。

チェックリスト

〈所見〉
乾燥・ひび割れ・やけど・水疱・白癬・タコ・ウオノメ・外傷・靴擦れ・変形・巻爪・陥入爪・その他
〈検査〉
●腱反射
 アキレス 右(+・±・-) 左(+・±・-)
 膝蓋 右(+・±・-) 左(+・±・-)
●触圧覚(タッチテスト)
●振動覚低下 右(+・-) 左(+・-)   
●足背動脈の触知 右(有・弱・なし) 左(有・弱・なし)
●後頸骨動脈の触知 右(有・弱・なし) 左(有・弱・なし)
〈処置〉
指導・足浴・爪きり・研磨・切除・マッサージ・薬剤湿布・医師連絡・その他

(民医連新聞 第1602号 2015年8月17日)

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