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2015年8月18日

「改悪」現場から問う 介護報酬引き下げ(下) 良心的な事業所は閉鎖 取り残される利用者

 前回(八月三日付)の本欄で、実質四・四八%もの介護報酬引き下げが、事業所閉鎖などの深刻な影響を現場にもたらしていることを見ました。今回は、利用者や地域への影響について考えます。

 「私たちが把握しているだけでも、長野県内では今回の報酬改定を機に一〇カ所以上の事業所が閉鎖しています。深刻なのは、閉鎖した事業所の多くが、小規模ながら利用者と家族に寄り添い、献身的に事業を行ってきたところだということです」。長野・上伊那医療生協介護部長の山口とよ子さん(全日本民医連理事)は、改定の影響をこう述べました。
 例えば、小規模多機能型居宅介護が介護保険法で制度化される前から、利用者や家族の要望に応えて泊まりや訪問などのサービスをきめ細かに提供していた事業所などです。「利益が出なくても地域のニーズに応えてきた事業所が、利用者さんに迷惑をかけないうちにと、事業の継続を断念しています。これは、地域にとっても大きな損失です」と山口さん。
 生活をささえる訪問ヘルパーが頻繁に入れ替わることは、高齢者には大きなストレスです。認知症高齢者の場合、混乱し、症状の悪化にもつながりかねません。山口さんは、「小回りがきき、ニーズに応える小規模事業所が減り、サービスをマニュアル化した大手の事業所だけ残ることになれば、困難を抱えた高齢者ほど取り残されてゆくのでは」と言います。

利用者に転嫁?!

 報酬引き下げを目前にした今年三月、ある民医連職員のもとに一通のお知らせが届きました。家族が入居しているグループホームからで、「介護報酬改定に伴う減額分を利用者にご負担いただく」という内容。毎月一万五〇〇〇円の負担増でした。このグループホームの運営元は、全国展開している大手チェーンです。
 同二五日には、衆院厚生労働委員会で堀内照文議員(日本共産党)がこの問題をとりあげ、「報酬減額の影響額を、そのまま管理費として徴収していいのか」と質問。厚労省の三浦公嗣老健局長は「減収分を補填する目的での引き上げは認められない」と答弁しています。報酬引き下げ分を利用者に転嫁するような事態は、今後も危惧されます。
 全日本民医連の林泰則事務局次長は、「制度変更に合わせて加算を算定できる事業所だけが生き残ることになる。介護事業所が“競争と選別”に放り込まれ、利用者に寄り添った介護を行うことより、競争で生き抜くことが目標になってしまう」と指摘します。

信頼関係損なう

 事業所が加算算定をためらう理由の一つが「利用者への負担増」につながることです。加算を算定すれば、その分、利用料も上がります。一方、利用限度額は変わらないため、受けるサービスを減らすしかない場合もあります。
 利用者の負担増は目白押しです。六五歳以上の保険料(全国平均)は、制度スタート時の二〇〇〇円台から五〇〇〇円台に。八月からは、所得に応じて利用料が二割に引き上げられる人も。
 山口さんは、「利用者や家族の中には、“介護報酬引き下げ”という報道を聞いて、利用料が下がると期待している人もいました。ところが利用料が上がり、『事業所が儲けているのでは?』と疑われてしまった、という報告もあります。ケアマネやヘルパーが板挟みになったり、利用者と事業者の信頼関係を損なうことにもなりかねません」と言います。(丸山聡子記者)

(民医連新聞 第1602号 2015年8月17日)

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