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2015年8月31日

特集1 日本の地下で何が ──地震、火山と原発

 口永良部島の噴火や地震の頻発など、東日本大震災以降、日本の地殻が不安定な状態が続いています。今は「地震の活動期」にあると言われながら、政府は原発再稼働の準備をすすめています。地震が起こるメカニズムや地震と火山の関係について、さらに電力会社や原子力規制委員会の問題点など、新潟大学名誉教授の立石雅昭さん(理学博士・地質学)に聞きました。(聞き手・井口誠二記者)

地震と噴火は繋がっている

──地震はなぜ起こるのですか?
 地震が起きるメカニズムは、大きく分けて三つあります。
 地球の地表は十数枚の硬い岩石の板からなるプレートで覆われています。海のプレートと陸のプレートが互いに逆方向に動いてぶつかり合うと、海のプレートは陸のプレートを引きずり込むような形で、地下に沈み込んでいきます。陸のプレートが一定以上引きずり込まれると、前の位置まで戻ろうとして急激に動くことで地震が起こります(図1)。このような地震をプレート境界型地震といいます。プレート境界型地震は三つのメカニズムの中で、最も規模が大きく、関東大震災(一九二三年)や東日本大震災(二〇一一年)がこのタイプです。
 次に、地下深く潜ったプレートの先で破断などが起こった時に発生する地震がプレート内地震です。プレート内地震は地下深くで発生するため、規模が大きい地震でも地表の揺れはあまり大きくなりません。
 三つ目に、プレート同士が押し合う力や、プレート境界型地震により引っ張られる力にプレートが耐えられず破断することで起こるのが、内陸直下型地震です。これは他の二つに比べて、地震の規模は小さいものが多いのですが、地表近くで発生するため揺れは大きくなります。阪神淡路大震災(一九九五年)や新潟中越地震(二〇〇四年)がこのタイプです。

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──日本に地震が多いのはなぜですか?
 日本は四つのプレートが接している地球上でも珍しい位置にあります(図2)。地震はプレート同士が干渉し合うことで発生するため、プレートが別のプレートと接している場所やその周りで多く発生します。日本は四つもプレートが接しているので、「地震が多くて当然」と言えます。世界で起こるマグニチュード(以下、M)5以上の地震のうち、一割は日本周辺で発生しています。

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──地震と火山の噴火は関係ありますか?
 歴史をみれば、巨大地震と火山噴火は連動しています。しかし、そのメカニズムがよくわかっているわけではありません。火山が噴火するということは「地下からマグマが噴き出す」ということです。マグマはプレートが沈み込む先のマントルの岩石が溶けたもので、周りの岩石より軽いので上昇します。プレート境界型の大地震が起こると海のプレートの沈み込みが早くなり、摩擦熱が高まって、溶けるマグマの量が増えるのではないかと考えられています。 またプレートが沈み込む際に、陸のプレートには大きな圧縮の力が働いているので、マグマはなかなか上昇できません。しかし、プレート境界型地震が発生し、マグマの上昇を阻んでいた力が弱くなると、マグマが上昇しやすくなり、火山活動が活発になると考えられています。
 またマグマが上昇するときには、周りの土や岩と擦れ合って、砕いたり割れ目を作ったりします。これにより発生する揺れを火山性地震または火山性微動と言います。火山性地震は、大規模な地震になることはあまりありません。

現代科学で予知は不可能

──火山の噴火は予知できますか?
 予知とは「いつ・どの火山で・どんな規模で・どのくらい続くのか」が、少なくとも数年前にはわかっていることをさしますが、現在の科学では、そのようなことはできません。できるのはもっと長期的な予測です。
 噴火予知に欠かせないのが、地中のマグマの挙動の計測です。気象庁や火山噴火予知連絡会ではマグマ溜まりの規模や位置の変化を継続的に調査することで、事前に「そろそろ噴火しそうだ」と予知し、住民避難を呼びかけることを目指しています。
 ただし、これはある程度の精度で継続的な計測がされている場合であり、かつ絶対ではありません。戦後最悪の死者数となった昨年九月の御嶽山の噴火のように、予知が難しいケースもあります。火山ごとの特性の違いや、噴火のたびにその様式も変わりますし、ここ一〇〇年噴火せず、噴火の前兆現象がよくわからない火山も多いのです。

──地震は予知できますか?
 こちらも現代の科学で予知は不可能です。今のところ「この地域で数十年以内に地震が起きる確率は何パーセント」という予測なら可能です。
 予測の精度は、プレート境界型地震と内陸直下型地震では異なります。プレート境界型地震については、発生するメカニズムや、発生地点もある程度わかっていますし、比較的頻発しているので、今後三〇年以内に起こる確率が何十パーセントというように、予測がたてやすくなります。
 地震の予測は過去の地震の歴史を知ることが基本ですが、内陸直下型地震の場合は規模も小さく、頻度も少ないので、その予測は難しく、今後一〇〇年以内に起こる確率が何パーセントという程度しか予測できません。予測には、活断層の調査が不可欠になります。

──原発の審査でよく聞く“活断層”とはなんですか?
 先にお話ししたように、プレート同士が押し合う力や引っ張る力が陸側プレートの一部を破断させることで、内陸直下型地震が発生します。このときプレートが破断して生まれる地層や岩石のズレが断層です。
 一度生まれた断層は、内陸直下型地震が起こるような力がプレートに働いたとき、他の場所より「動きやすい」場所になります。つまり同じ断層を起点にして、何度も地震が起こりやすいと言うことです。特に一二~一三万年前までに数回動いている断層で、現在でも地震の起点になりやすいと考えられるものを活断層と言います。
 地震予測の研究では、この活断層を調査し、「今まで何回動いたか」「前に動いたのはいつ頃か」を推定し、「これから動く確率はどれくらいか」を予測します。ただ断層の動く間隔はまちまちで、二〇〇〇年で動いている断層もあれば一万年以上動いていない断層もあります。
 そもそもプレートの動く早さや方向も常に一定ではありません。また地表で発見できる断層はある程度大きい地震で生まれるものであって、規模の小さい地震では地下で断層はできても、地表ではほぼ見つかりません。

──「日本は今、地震の活動期だ」と言われています。活動期とはどういうことですか?
 研究者の間で「活動期」が注目されたのは、阪神淡路大震災(一九九五年)がきっかけでした。福井地震(一九四八年)以降、大規模な内陸直下型地震は起こりませんでしたが、阪神淡路大震災以降、鳥取西方地震(二〇〇〇年)、新潟中越地震(二〇〇四年)とM6・8?7クラスの内陸直下型地震が次々と起きました。そして東日本大震災(二〇一一年)は、これまで予想されていた規模をはるかに超えたM9・0という巨大なものでした。
 歴史を振り返ってみると、一九二三~四八年までは大規模地震が頻発し、その後一九九五年までは比較的静穏な時期があったことが注目されました。そこで「地震の次々と起こる活動期と、あまり発生しない静穏な時期が数十年間隔で交互にめぐってくるのではないか」という視点で研究されるようになりました。その視点で見ると、一九九五年以降の日本列島は地震の活動期にあると言えます。
 同時にこれは日本列島だけの問題なのか、という疑問も出てきます。二〇〇四年のインドネシア・スマトラ沖地震(M9・1)、二〇一〇年のチリ地震(M8・8)と環太平洋地域で巨大な地震が発生しています。環太平洋地域もしくは地球規模で地震の活動期に入っていて、日本は特に地震が多い地域だからさらに高い頻度で地震が起きている、という見方もできるでしょう。
 地震の活動期というのは、大地震のあとに余震が続く現象とは別のものです。

──この活動期はいつまで続くのでしょう?
 研究者の間でも「五〇年は続く」「二〇年で終わる」と、見解がわかれているところです。私は、大体四〇年程度続くと考えています。
 また「世界規模での地震の活動期がある」という視点で見ると、世界最大の地震と言われる一九六〇年のチリ地震(M9・5)以降、環太平洋地域でM9前後の地震が何回も起こり、最近起こったのが東日本大震災です。これから先も、環太平洋地域でM9クラスの巨大地震が起こる可能性は残っています。
 地震の活動期の仕組みは、解明されていません。

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危険を無視する安全調査

──日本各地の原発が再稼働にむけて動いています。電力会社や原子力規制委員会は「安全性は確保された」と説明しますが。
 日本で、電力会社や原子力規制委員会が科学的な検証を踏まえて「安全だ」と主張した原発は、ただの一基もありません。日本の原発の敷地や、敷地のすぐ近くには、活断層や地震で隆起したと思われる地形があります。
 伊方原発(愛媛県伊方町)がその典型です。伊方原発の目の前には、日本最大の活断層である中央構造線が走っています。また岬の方には中位段丘と呼ばれる地形があります。これは一二~一三万年前に隆起した地形です。また、私は伊方原発のある佐田岬半島が、そもそも中央構造線が動いた際の地震性隆起によって形成された地形だと考えています。
 しかし、私が指摘をしても電力会社や原子力規制委員会は「目の前に中央構造線があって、中位段丘が近くにある」ことは受け入れても、中央構造線が動いたときはどういう影響が出るのかという科学的推定や、中位段丘がどのように隆起してきたのか、ということにはまったく触れず、都合の悪い事実は全て無視して、「再稼働を認める」という結論ありきの議論をすすめてきました。国民を欺いているのです。
 川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働を決定する際には、九州電力は「噴火の前兆があれば、核燃料を運び出し退避させる」としましたが、すべての核燃料を取り出すには、一年以上かかると言われています。多くの火山学者は今の科学レベルでは、こうした予知をおこなうことはできないと危惧を示しています。
 政府は「日本の原発は世界最高の安全基準」と説明していますが、そんなことはありません。スリーマイルやチェルノブイリの原発事故を経て、世界では「事故は必ず起きる」という考えのもと、深層防護という五段階の基準を設けています。
 しかし、日本は「われわれの技術力は優れているから、その対策は必要ない」と三段階目までしか対応しませんでした。福島第一原発事故後、安全性の高い新基準が設けられましたが、それでも深層防護の四段階目までしか対応していません。
 たとえば、深刻な事故の一つ「メルトダウン」が起こった時のために、コアキャッチャーと呼ばれる装置があります。これはヨーロッパでは新しい原発に設置が義務付けられており、中国の原発にも導入されています。しかし、日本では一基も備えていません。これで“世界最高の安全基準”と言うのは、詐欺でしかありません。

──最後に、日本に原発があることについて、どう思われますか?
 日本の原発は、電力会社や関連企業の経済的要求を満たすため、安全対策は中途半端、周辺調査は形だけになっている、というのが私の考えです。そんな原発の稼働なんて認められません。
 ですが、国のエネルギー政策は、「二〇三〇年には、電力全体のうち原発の割合を二〇パーセントにする」となっています。これは、今ある原発を全て稼働させるだけでは到底足りず、より大型な原発への立て替えも含めた計画をすすめようとしていることのあらわれです。再稼働に反対するとともに、国のエネルギー政策も見据えた視点で考えていかなければならない問題だと思います。

いつでも元気 2015.09 No.287

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