いつでも元気

2002年5月1日

全日本民医連 第35回総会を終えて 座談会 医療・福祉・平和が優先される時代に 民医連と共同組織の真価を発揮して

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全日本民医連35回定期総会を終えて語りあう長瀬事務局長、肥田会長と、共同組織連絡会の高橋会長、山口副会長(左から)


 

 全日本民医連第三五回定期総会が、二月二一~二三日、北九州市で開かれ、運動方針、民医連の「医療・福祉宣言」などが採択されました。
 激動の二一世紀を、医療・福祉・平和が優先される時代にしたい。共同組織とともに、民医連運動を発展させよう……新たに選出された肥田泰会長、長瀬文雄 事務局長と、共同組織全国連絡会の高橋孝治会長、山口格副会長が話しあいました。

下りと上りが交差して

出席者

肥田 泰さん
全日本民医連会長

長瀬 文雄さん
全日本民医連事務局長

高橋 孝治さん
全日本民医連共同組織全国連絡会会長

山口 格さん
全日本民医連共同組織全国連絡会副会長

肥田 今回の総会は、昨年九月からの「医療改悪阻止」と「共同組織拡大」の大運動のなかで開かれました。各院所や現場で活動してきた中身がそれぞれ豊富に出されて、非常に意気高く、いい総会だったのではないかと思います。
 国民も大変、医療機関も大変というきびしい状況は、今後も続きそうです。しかし国民のなかにあった小泉改革に対する期待は、急速に失われてきていますね。
 小泉首相の支持率が高かったときでも医療の改悪には六〇%の反対があったわけですから、状況を変える可能性は大きくなってきたかと思います。
山口 この間やってきた大運動の成果がじわじわ効いてきているのは間違いないですね。外務省や鈴 木宗男の問題も加藤紘一の問題も、もともと自民党政治にあった問題だから引き金にすぎませんが、むこうの支持が下ってくるのと、医療改悪は困る、許すこと ができないという改悪反対の世論がもり上がっていくのと、いまちょうどそれが交差するところにきていると思うんですよ。半年間運動してきて、ここまでき た。いよいよこれから収穫の時期だと。
高橋 去年四月に森から小泉政権にかわって以来、異常な小泉旋風にわれわれがたじろいだのは事実 です。しかし医療改悪反対の運動が上り坂になって、2・14国民大集会に結集して、あの大成功で、もういっぺん対決できるなと自信がわいた。そのなかでの 総会で、確信をもって方針討議ができたんじゃないかな。

フランス代表が驚いたこと

長瀬 総会にみえたフランス共済組合の代表団が民医連について驚いたことが三つあるというんです。
 一つは革新的な医療運動に医者が参加している、しかも三千人も。フランスではこんなことはありえないと。
 もう一つは青空健康相談会です。京都の上京病院の横にあるくぎぬき地蔵で、定例でやっているのを見学されたんですが、医療従事者が病院の外に出て、こう いう保健・予防活動をやるのは、フランスでは見かけない。しかも友の会の方がいっしょに活動している。この二八五万人の共同組織と民医連の関係が、三つめ なんですね。消費者運動と生産者の運動が合体したような運動ですばらしいと。
 ぼくらは、医者が少ないとかあれが弱点だと議論しているわけですが、外の人からこういうふうに客観的に民医連を見ていただくと、なるほどなと思いますね。

医師養成にどうかかわるか

山口 なかなかいい着眼ですね。
 医師養成、後継者獲得は民医連にとって最重要課題です。この課題で、民医連の方針では共同組織は重要な位置づけを与えられているけれど、共同組織の幹部の皆さんがみんな知っているかというとそんなことはない(笑い)。
高橋 そうなんだ。方針には書いてあっても、こっちになかなかお声がかからない。千葉では医学生対策委員会を友の会でつくったんですけどね。
山口 北海道では、民医連から各友の会に話しにきてもらいました。無産者診療所にはじまる民医連の原点や医学教育の現状などをきいて、自分たちの体を診てもらう医者を自分たちで見つけてくる、育てるというのは当然のことじゃないか、という話になってきています。
 埼玉で生協の組合員さんがSP(模擬患者)をやっていますね。民医連で研修したいという医学生はプライマリケア、地域での初期・救急医療や保健予防など に関心があるんじゃないか。そこで成長するためには、SPのような活動も大切な要素になってくるのではないか…。
肥田 埼玉では医者に限っていないんです。看護婦も薬剤師も事務も、みんなそれぞれ患者さんにどう対応するかという体験学習で、SPに活躍してもらい、職員全体の育成に非常に役立っています。
 後継者確保で共同組織の人たちに期待しているのは、地域がどういう医者を求めているかを、医学生や医系学生に語ってもらうことです。高度先進医療を担う 医者も必要だけど、それは医者のなかでほんのわずかです。圧倒的多数は地域で活動する。地域の人たちがどういう医者を求めているのか話してもらうことは、 学生にとってどんな医師になりたいのかを考える非常にいい機会になります。

魅力ある医師研修とは?

長瀬 そのことは、民医連が地域の要求にこたえられる医療構造をどうつくっていくかという問題とも結びついているんですね。
 医師養成でのポイントは民医連での研修をどれだけ満足度の高い研修にするかです。医学生にとって魅力があれば集まってくる。本来民医連の医療はそういう 魅力に溢れたもののはずです。医学生の意識動向は確実に変わってきています。山口さんがいわれた地域医療、家庭医学を指向する学生は増えてきている。
 その人たちが民医連のいろんな地域医療や、病院・診療所・訪問看護ステーションなどが連携した医療にふれることによって、あるいはそこに関わる医者の姿を見て、こういうところだったら自分は医者になれるという確信を持っていく。
 いま成功している例に、東京のほくと医療生協のとりくみがあります。拠点である王子生協病院は一四九床の病院ですが、去年五人入って、いきいきと地域に密着した医療・研修をしています。その研修医の姿をみて今年も五人入った。
 ここには何かヒントがある。規模の大きさでもない、症例数でもない。民医連は臨床研修指定がとれる規模の病院は全国でも十数カ所です。病院は一五四あり ますが、ほとんどが一〇〇床、二〇〇床台なんです。しかしそこの医療やそこで働いている医師がいきいきしていれば、医学生にとっても魅力なんですね。
肥田 近畿では、民医連の臨床研修指定病院は京都の民医連中央病院と大阪の耳原総合病院の二つで す。兵庫も奈良も和歌山も全部一五〇床規模の病院ばかりです。厚生労働省は二年の研修といっていますが、民医連は二年で区切る必要はないということで、一 年目は学生の出身県連、兵庫なら兵庫、奈良なら奈良で研修しよう。二年目を臨床研修指定病院で研修し、また出身県連に帰る。
 一つの県連だけあるいは一つの院所だけではなかなかむずかしいけれど、民医連のよさを十分生かせば、近畿とか中国・四国とか、私たちがいっている「地協」レベルで、連携することもできるんじゃないか。そんなことを考えています。
高橋 いま「地協」という単位を重視しておられるようですね。地協の活動と討議がどう深まるか注目しています。

キーワードは「地域」

山口 青空健康相談も大事ですね。民医連の院所・共同組織が地域に出ていって地域の健康度アップに寄与すること。
 いま現実に保険証をとり上げられたり短期証しか持っていない人がたくさんいる。でも無理して食べるものも削ってなんとか保険証だけはもらっているけど、自己負担の分が払えないから病院にいけないという方もたくさんいらっしゃる。
 地域に出て、そういう病院に来れない人を発掘する活動がとても大切ですね。
高橋 共同組織の構成員を三百万にという目標は残念ながら達成できませんでしたが、病院利用者を対象にしているだけではもう限界ですね。病院・診療所に来ない人たちに働きかけていくという意味でも、青空健康チェックは共同組織の活動の主要な分野だと思う。
 健康チェックはどこの商店街も喜んで場所を貸してくれる。地域との提携、町おこしの面でも重視したいですね。
肥田 厚生労働省が新しい健康づくり対策として「健康日本21」を策定しましたが、あのままでは「生活習慣病」は自己責任ということになってしまいます。地域や自治体をまきこんで、保健予防を確立させていこうということを総会方針では提起しています。
 健康相談などもっと旺盛にくり広げて、困っている人たちをどう守るか、健康を守るとりくみにもどう参加してもらうかがいま問われているかと思います。
高橋 三年前の共同組織活動交流集会で「安心して住み続けられるまちづくり」という提起があっ て、これがみんなの要求にピタッとはまったんですね。俄然、視野と活動が広がった。キーワードは「地域」です。この三年で、共同組織は猛烈に変わってい る。数も増えましたが、活動の中身が、民医連の病院や診療所の応援団という枠を出て、地域と結びついた住民運動として成長してきています。
 ここで改めて、われわれにとって一番頼りになる存在である民医連と、どう共同していくのか、地域からの目線で要求もし、民医連の方針と共同組織のあり方をすり合わせていく必要があるなあということを強く思いました。
山口 全国連帯基金、地域協同基金の制度が提起されましたね。銀行がお金を貸さなくなっているな かで、資金の問題は重要です。民医連の経営を守ることはすごく大事だし、守りたいからみんなお金を出すんですが、それにふさわしく運営されているかどう か、出した人たちがきちんと確認できるような仕組みをつくっていく責任があるんではないか。そのことも早く提起してほしいですね。

診療報酬は安全・安心の保障

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全日本民医連の「医療・福祉宣言」

職員・共同組織の人たちが、名刺代わりに持ち歩いて、「私たち民医連はこういうことをやるつもりです。医療・福祉をよくするために、いっしょにがんばりましょう」という訴えを全国で広げようと、リーフもつくりました

長瀬 今度の診療報酬改定で、医療本体部分に差額がもちこまれました。六カ月を超す患者の入院基本料が一五%カットされて、不足分は差額で患者からとれという。月四~五万円の患者負担増になります。外来再診料も二〇〇床以上の病院は二回目からは五〇%カットです。
 率直にいってこの改定は、医療機関つぶしを狙ったものですよ。差額ベッド料をとらないということでがんばってきた民医連が、差額をとらないでやっていけるのか問われています。

肥田 無差別平等が私たちの原則ですから、何とか差額をとらずにがんばろうというのが基本姿勢なんですが。
山口 やっていけなくなったから一部いただきますというのでは、民医連よお前もか、となるわけで、信じていた者に裏切られたとなると深刻ですから。
高橋 かといって、民医連がうんとがんばって経営を成り立たせたら、厚労省はもっと絞れるという話になるしな。
肥田 多くの病院で差額ベッド料をとらないと経営がなりたたない状況に追いこまれているなかで、民医連がとらずにこれたのは、「お金のあるなしで差別しない」という理念にもとづく運営と、何といっても地域の支え、共同組織の資金や患者結集のおかげです。
 診療報酬は、安全・安心の医療をするうえでの保障です。安全・安心を奪うような診療報酬の引き下げが許されるのか。むしろ上げるべきだという論理をはっきりさせていかなくてはと思います。
長瀬 耳原総合病院の医療保険の収益が年間一〇〇億円です。今度の改定で四億円下がる。セラチアの院内感染があって、感染防止をきちんとしたら患者一人当たり一日八〇〇円かかっているんです。診療報酬の十数倍の持ち出しです。
 一番かかっているのは水道代です。手洗いをきちんとすることを徹底したら水の使用量が七五〇〇トン増えた。その分だけ感染は激減しています。診療報酬が 下がれば、この維持も困難になる。看護婦の数も確保できなくなる。診療報酬の引き下げというのは安全や安心を削ることなんだということを、もっと具体的に 話していかなくてはと思っています。
山口 民医連が「患者の立場に立つ」という姿勢を貫いていくことによって、日本の医療の質を高めていることは間違いないと思いますよ。
 支配層は医療費の削減を真剣に提起して攻撃を強めてきているわけで、小泉がかわったらなんとかなるという問題じゃないわけです。医療は大事なことなの に、予算を減らすことにこだわっているのはなぜなのか。もっと日本の経済全体との関連で論議しないとなりませんね。

人権を守る医療を広げよう

肥田 われわれは人権を守る医療と一生懸命いっていますが、患者さん自身あるいは地域の人た ち自身がそういう立場に立って医療参加してこない限り、なかなか実現しない課題なんですね。そういう主張のできる共同組織の人たちが、どれだけ量的にも質 的にも向上していくかが大きな課題だと思っているんです。
 この薬はどういう効き目の薬なのか、治療に対して自分がどう参加しているのか。そういうことを、医療側と患者がお互い納得しながらすすめる医療を、共同 組織の人たちが中心になって広めてほしいんです。他の医療機関にはまだまだ広がっていかない課題だと思いますから。
長瀬 民医連は来年結成五〇周年です。日本の医療のなかで二%前後を占め、共同組織が約三〇〇 万。一世帯二人として六〇〇万人、ざっと日本人の二〇人に一人が共同組織とかその家族ということになります。そんな民医連と共同組織が、日本の医療や福 祉、まちづくりに果たしていく役割は大きいですね。
高橋 大いに真価を発揮していきましょう。

写真・五味明憲

いつでも元気 2002.5 No.127

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