いつでも元気

2002年6月1日

ビバ!キョードーソシキ 医者と住民がいっしょに「健康相談会」なんてびっくり

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京都・上京のくぎぬき地蔵で毎月行なっている無料健康相談を見学するFMF代表団。
「体脂肪率が高いなあ、機械が壊れているんじゃない?」と笑うローランさん、吉中さん、ピエールさん、通訳の片岡さん、上田さん(右から)


 全日本民医連第三五回定期総会に来賓として出席したフランス共済組合連合会(FMF)のピエール・ベルトランさんとローラン・エヴェイヤールさん。
 総会後、上京健康友の会が、病院の隣にあるくぎぬき地蔵の境内で毎月行なっている「青空無料健康相談会」を見学し、友の会会長の上田靖子さんと吉中丈志全日本民医連副会長と話しあいました。

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ピエール・ベルトランさん
FMF会副会長/国鉄職員共済組合連合会会長
ローラン・エヴェイヤールさん
FMF歯科部門担当/ギルドフランス地方FMF事務局長
吉中丈志さん
全日本民医連副会長/上京病院院長
上田靖子さん
京都・上京健康友の会会長

吉中 FMFと私たち民医連の交流もあしかけ一〇年になりますね。お二人ははじめての日本だそうですが、印象は?
ローラン 非常に秩序正しくうまく機能しているという印象です。車の運転も信号を守ってるし、一言でいうとお行儀のいい国だと。トイレも電車もきれいだし。
吉中 FMFの総会に参加したとき私は逆の感想を持ちました。なかなかはじまらないしお酒は飲むしたばこは吸うし、本当に総会をやっているのかな(笑い)。
ローラン 私たちは国民的な伝統があるんです。規律とか嫌いなんです(爆笑)。
ピエール 民医連の病院をいくつか訪問させていただきましたが、人間関係が非常に温かいと感じました。

ともにたたかう強い意志

吉中 民医連の総会はいかがでしたか。

ピエール 代議員のみなさんの発言から強く感じたのは、今度の医療改悪に断固反対する、その運動を住民といっしょにやっていくんだ、という強い意思です。
吉中 医療改悪問題は政治上の大きな争点です。民医連としては、上田さんたちのような共同組織の人たちと力をあわせて、なんとか社会保障の縮小を食い止めたいと決意を固めた大会でもあったわけです。
ピエール フランスでも数年前から歴代政府が医療費の削減をすすめています。九五年の社会保障大 改悪では、政権が倒れるほどの大きな反対運動をし、かなりの改悪をくい止めたのですが一部は実施されてしまいました。この改革で、社会保障基金の収支バラ ンスがとれるようになったと政府はいうんですが、増えたのは被保険者の負担です。被保険者の負担がどんどん増えている。
吉中 日本の政府も同じです。被保険者・患者の負担を増やして収支バランスをとろうとしています。
上田 医療費が高くなって病院にいけなくなったいう話をよくききます。ある方は高血圧で体調悪い けど、お金がない、病院にお薬だけもらいにいったら、「前の診察から一年もたってますから、受診していただかんとお薬は出せない」といわれたいわはるんで す。すぐ友の会の部屋にきてください、上京病院は公益減免(無料低額診療事業)が適用されていますから、いうて…。

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くぎぬき地蔵の加藤広隆住職(左端)と

吉中 収入が低い人が受診したとき、一部負担が免除される制度です。国民健康保険にも減免制度がありますが。
上田 これで病院に通えるようになったと喜んでおられました。

国民皆医療保障を実現(仏)

ピエール フランスでも、お金がなくてかかれないということをなくそうとたたかってきて、二〇〇〇年に国民皆医療保障制度(CML)がはじまりました。
 フランスに住んでいる人なら誰でも保険料を払わなくても社会保障を受けられ、自己負担もいらない制度で、重要な前進です。ただし月収三六〇〇フラン(約六万九千円)以下の人に限られてますが。
ローラン 医療機関にとっては問題もあります。CMLの適用を受けている人には、保険外の治療などはできないんです。
吉中 制限があるということですか。
ローラン ええ。治療上必要だが、保険適用外でできないものがある。とくに歯科や眼科がそうです。それをこえてやると医療機関の持ち出しになる。
 一般の開業医はそういうことをやりたがりませんから、CMLの患者さんがくると、公的病院や共済の病院にいきなさいという。公的病院や共済の病院ではCMLの患者がたくさん回ってきて、対応しきれないということがおきています。
吉中 日本でも公的保険制度でカバーされる範囲が縮小していってます。日本は、国民皆保険制度が 一九六〇年からできているんですが、八〇年代以降は患者負担がどんどん導入されています。いま小泉内閣が出している社会保障の改革というのは、国民皆保険 制度をほんとうに骨抜きにする中身です。この改悪に、医療機関だけで反対してもだめだし、患者さんたちだけでもだめだ。ともに大きく手をつないで阻止しよ うと決意しています。

権利はたたかいの成果。それを伝えるのが難しい。

「連帯」と「営利」との競争です

吉中 FMFも、今回ほかの共済組合と大統合されましたね。統合の意味は?
ピエール 一言でいって、民間の保険会社との競争に勝つためです。公的保険の患者負担分を補完するのに、私たち非営利の共済組合と、民間の保険会社とがあるのですが、この間の競争で、民間保険のほうがシェアを拡大しているのです。
 共済は、もともと連帯にもとづく保障制度です。お金のある人は出すし、ない人は出さない。民間保険はもともと営利ですから、お金を出せる人だけを相手に しているわけで、一定の収入以上の人にとっては有利な面があるわけです。そのため連帯の根底が切り崩され、いっそアメリカ式に、みんな自分で保険に入れば いいという意見まで出てきました。
 いろいろ議論があって、まだそれが続いていますが、ここは大同団結して民間保険の一〇倍ぐらいの組合員数になってやろうと統合に踏みきったんです。
吉中 それはすごい。

地域になくてはならない病院

ピエール 統合によって、組合員がかかれる共済の医療機関が一〇倍に増えました。できるだけ質の高い医療を、なるべく社会保障の料金でやっていきたい。
吉中 自分たちの医療機関は自分たちで持とうという話は、上田さんたちの共同組織の考えと一緒ですね。
上田 私、民医連と最初のかかわりは夫の病気です。あちこちの病院を転々としてどんどん悪くなっ てきて、ここにきたとき、ちょうど吉中先生が外来にいらっしゃった。夫はなんでも癇たててすごく気むずかしい人でしたが、はじめて先生をものすごう信頼し て。それから亡くなるまで、四年近くお世話になりました。
 うちは自営業でしたが夫が倒れていっぺんに収入がダウンして、私も心筋梗塞と脳梗塞がいっしょにきて倒れる寸前でした。それ以来、私はどこにいっても民 医連は私の宝や、民医連がなかったら私らはどうなっていたかわからないというてます。地域になくてはならない病院なんです。何かご恩返ししたいと、いまボ ランティアをさせてもらっています。

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広島で原爆資料館を見学。
慰霊碑に献花した(撮影・吉田一法)

吉中 そんないわれたら面はゆいんですが、医師・医療従事者と患者さんたちとの信頼関係は、いまの社会保障改悪とたたかう基礎になると強く思います。
上田 大学病院とか大きい病院なら院長先生とこうして席を同じにして話しあう機会はないと思うんです。先生と身近で親身になって話ができるのは、やはり民医連であればこそと誇りに思ってます。

患者を症例としてみる教育が

ローラン お話をきいて、私たちがまだやれていないことが二つあると思いました。一つは患者と医師の関係です。
 フランスでは患者が、医者と気軽に話すということはありません。医師は養成の段階から、患者を一つの症例としか考えないように教育されるんです。患者を 人間全体としてとらえることを学んでいない。そのため患者とそんなに深くつきあうことは必要ないと思っている。これは医師の側の問題です。
 もう一つは患者の側の問題です。おもに共済の病院など非営利の病院にかかる患者さんですが、いま自分がしてもらっていることが当然の権利だと思っている んです。してもらって当然と思っている。でもそれは、多くの人びとがたたかい、かちとってきた成果なんですね。そういう歴史の成果だということをなかなか わかってもらえない。上田さんのように、自分も参加してがんばろうという意識がなかなか生まれないんです。それを伝えるのがむずかしい。
上田 日本もフランスも一緒や。患者は自分中心、私もふくめてわがままですよ。しかたないんですけど。私ら、患者さんに病院のことを少しでもわかってもらい納得してもらおうと、声かけしています。

医学教育への住民参加を

吉中 歴史をどう伝えるかということは私たちも大変苦労しています。共同組織のかたにというより、職員にですね。
 医学教育は日本もフランスと同じように症例中心で、家族や地域のことを学ぶ機会は非常に少ないんです。私たちは、医学生を本当に育てる、私たちと一緒に 活動してくれる医師たちを育てるという意味で、共同組織の協力を得て、医学教育への住民参加という形をつくってきました。先ほど見ていただいた青空健康相 談に、学生の参加を呼びかけたり、共同組織のかたに、どんな医者になってほしいかを語ってもらったり。民医連としては二〇年以上相当の力を注ぎ込んで努力 している分野です。それでも医師不足で困っていますが。
ピエール 青空相談は驚きました。フランスでは医者が病院の外に出て活動することはほとんどありません。しかも上田さんたち地域の人といっしょにやっている。共同組織の人たちが病院をつくるための募金活動もしているということもきき、すごいなあと思いました。
ローラン 私たちにとっても病院経営はこれから大きな仕事になってくるので、たいへん刺激になりました。
吉中 日本では、いま実は自殺が大変多くて年間三万人以上自殺をしています。もちろん、不況が背 景にありますが、交通遺児よりも自殺遺児のほうが多いという状況です。そのなかで私たち自身としては助け合いをしながら、政治や社会も変えていこう、とが んばっています。日本とフランスは遠いですが、同じ気持ちでこれからも連帯をしていきましょう。

写真・豆塚 猛

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FMF(フランス共済組合連合会)
世界大戦中のレジスタンス運動の伝統を受け継ぐ共済組合の連合体。組合員は四百万人。今回FMNF(フランス共済組合全国連合)に加盟する形で合同。これによりFMNFは仏国民の半数三千万人を組織する一大共済組合になった。

いつでも元気 2002.6 No.128

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