いつでも元気

2002年6月1日

診療報酬ひきさげ 患者にはプラスってホント? ――とんでもない。「患者の命にかかわる」大マイナスがこんなに

 四月に実施された診療報酬の改定は史上はじめての「マイナス改定」といわれています。診療報酬とは医療機関の診療にたいして保険から支払われる報酬です。一つひとつの医療行為の値段が厚生労働省によって決められており、今回その価格が引き下げられたわけです。
 医療機関の収入は減るけど、患者にとっては医療費の値下げになっていい、という声もありますが、そうでしょうか。

リハビリでは…

各地に縮小の動きが…

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入院患者さんのリハビリの指導をする渡辺幸彦さん(北病院・リハビリ室にて)

撮影・若橋一三

 「今回の改定は医科全体の収入ではマイナス一・三%になると、厚労省は発表しましたが、私の病院のリハビリ科では三〇%のマイナスなんです」と東京・北病院の理学療法士(PT)の渡辺幸彦さん(表1)。
 「この改定によって、各地の病院でリハビリを縮小する動きがあります。民医連外ですが、PTの採用内定をとり消した病院もあるそうです」
 同じ指導に対しての診療報酬が引き下げられただけでなく、一単位二〇分とする単位制が導入されたことが特徴です。
 一日あたり、一人の患者が指導をうける限度は個別療法で三単位(六〇分)まで、集団療法で二単位(四〇分)までとなりました。集団で四〇分を超える指導 をしても、医療機関への指導料収入は二単位しかありません。ゆっくりと時間をかけて行なう「水中ウォーキング」などは大幅に減収となるため、廃止の検討を している病院もあります。

表1 こんなに下がった!(老人・施設基準理学療法?の場合)
 
改定前
改定後
1対1の場合
40分以上で580点
1単位(20分)で180点、40分だと
360点 (1日3単位まで)
集団の場合
15分以上で185点
1単位(20分)で80点
(月8単位まで)
(1点=10円)  
表2 改定後の点数比較
老人患者の急性発症後の90日の理学療法(?)

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期間が長びけば減収

 このほか、今回の改定の大きな点は、逓減制と「まるめ」の拡大です。逓減制とはリハビリの期間が長くなればなるほど、診療報酬が減っていくこと。
 「今は脳卒中などで倒れると、時間をおかずにリハビリをはじめます。こうした急性期のリハビリも、入院して二週間を超えると点数が減りはじめ、一四日、 三〇日、九〇日と下がっていきます(表2)。要するに国は”入院でリハビリやってもいいけど診療報酬は減らしますよ。だから早く退院させたほうが得じゃな いですか”というのです。
 でもまだ急性期の場合は、減収が一割程度ですが、深刻なのは慢性期のほうです。こちらは一人一カ月あたり一一単位以上のリハビリをすると、七〇パーセントの減算となってしまうのです」
 ある程度回復してから、もう一段階よくなるまでのリハビリに時間がかかるのは、多くの人が経験していることです。「一カ月間に二〇分を一一回」では、よくなるものもよくなりません。
 もうひとつの特徴は「まるめ」です。慢性期の患者が入院する療養型病棟の集団リハビリ施行を、入院基本料に包括(まるめ)したのです。その入院基本料自体が大幅に減額されています。
 大病院や大学病院などは急性期患者がほとんどですが、民医連に多い、地域に密着した中小規模の病院や療養型病棟のある病院ほど、打撃は大きいのです。
 「経営的にきびしいからと、必要な医療を削ることは医療人としてしたくない。でもそれでは経営がなりたたない。まさにリハビリ室そのものの存続の危機なのです」と渡辺さんは頭をかかえます。
 「今回の改定によって、地域の医療機関のリハビリ部分の縮小や廃止がすすみ、このままでは患者は、大病院に行くか、在宅で訪問リハビリを選ぶかということになってしまいます」と危惧します。

通いやすい病院がいい

 北病院のリハビリ室で利用者に話を聞いてみました。
 「一日おきにリハビリに通っている」という七六歳の女性。「以前は大学病院に行っていましたが、老人健診以後、こちらに通っています。職員の方も親切だし通いやすいので…」といいます。
 「八七歳の母が腰を痛めたのでリハビリに」という六〇歳の男性。「近くに住んでます。北病院にはずっとお世話になってます。母は高齢なので、いまさら大 きな病院に通うのでは本人も疲れるし、在宅ではなく、こうしてみなさんと一緒にリハビリができたほうが、励みになると思います」と。今回の改定がめざす方 向とは逆に、地域の通いやすい病院を利用者は望んでいるのですが―。

透析では…

長時間透析が消えていく

 人工透析でも大きな改定がされました。ひとつは腎臓病治療としての透析中の食事加算が廃止されたこと。ひとつは時間評価廃止、指導料の引き下げです(表3)。

透析食が食べられない

 透析は、時間をかけてゆっくりしたほうが体への負担が少ないので、四時間以上かける場合がほとんどです。 当然、食事時間にかかるので、透析中の食事は治療食として病院が出すのが当たり前になっていました。その分、診療報酬も加算されていたのですが、今回この 食事加算が廃止されたのです。
 これは、患者さんにとっては保険の対象外になるということであり、医療機関にとっては、患者さんに食事を提供できなくなるということなのです。提供する場合は病院の負担となってしまいます。
 民医連のいくつかの病院・診療所に、対応をどうしているのか聞いたところ、多くは患者会と話し合いながら、今後の対応を検討しているといいます。まだ方向を決めきれず、とりあえず病院の負担にしているところもありました。
 東京・すながわ相互診療所は、新設の診療所で、当初から透析食は業者に委託していました。患者さんと相談し、今回の改定以降はその業者にお弁当を作ってもらい、患者さんが四七〇円で購入しているそうです。
 事務長の後藤千恵子さんは「週三回なので、月六一一〇円の負担になります。生活保護を受けている人も、全額自己負担です。その上、たべやすくきざんだ 『きざみ食』やおかゆがなくなったので、六〇人の透析患者のうち、三〇人しか利用していません」と語ります。一〇人は弁当を持参し、二〇人は空腹をがまん し、自宅に帰って食べているというのです。

表3 診療報酬新旧対照表(透析関係)
 
現    行
改 定
時間の評価の廃止
・入院外の血液透析(1日につき)
 
4時間未満
1630点
→1960点
4時間以上5時間未満
2110点
5時間以上
2210点
・その他の場合の血液透析(1日につき)
 
4時間未満
1335点
→1590点
4時間以上5時間未満
1770点
5時間以上
1870点

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患者会の運動で、必要な人は誰でも安心して受けられるようになった人工透析。
「その努力の歴史をうち砕く改悪は絶対に許せません」と代々木病院腎友会会長の山崎旦夫さん

大切なことが削られる

 時間の評価も廃止され、これからは透析が長時間に及べば、その分病院の収入が減ります。
 「患者さんの体の負担を考えれば、時間を短くすることはできません」と後藤さん。しかし、いつまでもその状態が続けば、経営を圧迫することは必至です。 経営効率上、短時間透析に切り替える医療機関も増える可能性もあります。そうなると、まさに命にかかわる事態です。
 「今度の改定は患者さんの生存権を奪うもの」と、後藤さんは憤りをかくせません。  
 今、民医連だけではなく、全国の医療現場から、診療報酬の再改定要求がだされています。
 医療改悪反対の声をもっと大きくしていかなければ、国民の命は守れない!

文・斉藤千穂記者

いつでも元気 2002.6 No.128

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