いつでも元気

2002年7月1日

元気スペシャル 「この町に住んで得した」といわれるよう 京都 西新道商店街 ITも活用してふれあうまちづくり

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なつかしささえ感じる古びた商店街。
ここで最先端技術を使った商いが
 
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店先のコンピュータ端末機。
エプロンカードで買い物の支払いをする

 「安心して住みつづけられるまちづくり」をめざして、さまざまな団体や人びとががんばっています。
 京都四条大宮から西へ約一キロのところにある西新道錦会商店街もその一つ。近くに一八店も大型店がありながら、地域の高齢者を中心に広く支持され、地域との共生をめざして奮闘しています。
 小泉首相がいう「構造改革」は、規制をなくしてすべてを市場原理にまかせ、強いものが生き残ればいいという議論です。まちの小さな商店街など亡びてもし かたがないという流れに抗し、どっこい元気な西新道錦会商店街を訪ねました。

● ひと味ちがう昼食サービス
 四月下旬、八百屋の店先には掘りたてのタケノコがみずみずしい切り口を見せて並んでいました。
 この日は、商店街が週一回行なっている高齢者への昼食サービスの日。空店舗を利用した食堂に、予約した利用者が訪れていました。一食六〇〇円で、きょう のメニューは、和風豚カツ、山菜袋煮と切干大根の宝煮、長いもの磯辺揚げ、青菜と油揚げの煮浸し、厚焼き卵、豆ごはん、つけもの、みそ汁。
 食材は商店街で購入し、調理は近くの精神障害者授産施設「朱雀工房」に委託しています。この日の利用は五五食で半分は配達。最高齢の利用者は九四歳でした。食堂でのサービスや配達も、朱雀工房OBの人が手伝っています。

● エプロンカードが大活躍
 西新道錦会を有名にしたのは、エプロンカードと名づけた商店街プリペイドカード(代金前払いカード)です。加盟店は七五店。カードは約六五〇〇枚購入され、一日の利用は一五〇〇回、カードの年商は三億円になります。
 「最近は消費税のせいで細かい支払いが多いやろ。カードならお金を数えんでええし気楽です」と買い物のお年寄り。
 カードにはICチップが埋めこまれ、いろいろな働きをしています。
 各店にとっては会計業務がぐっと簡便になりました。その日のカードでの買い物データが、閉店後、店の端末機から電話回線で自動的に商店街振興組合事務局 (以下・商店街事務局)のコンピュータに送られ、売上を集計し、日次・月次のデータが各店に送信されます。
 代金は、商店街事務局のコンピュータが、銀行のコンピュータとやりとりをし、一〇日、二〇日、三〇日と月三回、銀行から各店の口座に振り込まれます。

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西新道錦会商店街の
ホームページアドレス
http://www.nscpa.or.jp/

見栄えより住民のニーズをつかむのが先

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中学生の売り子体験。修学旅行で人気のコースに
 
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朝10時から夜9時まで営業。この商店街独自の「コンビニ」。
あちこちの店を回らずとも一通りはそろう

● インターネットでお年寄りも
 買い物に出るのが大変という人に喜ばれているのがインターネット機能です。
 商店街のホームページを自宅のテレビで見て、リモコン機の操作で注文できます。写真のテレビの上に乗っている小さい黒い箱がコンピュータの端末で、エプロンカードを入れると、テレビにホームページ画面が出てきます。
 注文した品物は、商店街事務局を経由して各商店にファクスされます。買い物は基本的に無料で配達。支払いはエプロンカードからの引き落としです。
 これならお年寄りでも、すぐにインターネットで商品が注文できます。

● 大学生が商店を訪ねて
 このインターネット機能を、西新道錦会では「生活支援ネット」と呼んでいます。通産省に申請し一九九八年に援助金一億四〇〇〇万円をもらい、フナイ電機、大日本印刷などと組んで開発しました。
 「生活支援ネット」を支えているのは大学生のグループです。京都産業大学経営学部の山本ゼミのテーマの一つが「IT(情報技術)を生かした地域商店街の活性化」。研究の実践でもあるのです。
 学生たちは「生活支援ネット」に参加するお店を一軒一軒訪ね、ホームページにのせる商品を聞いてまわります。さらに店のおすすめの素材を使った献立を紹 介したり、「保育園のバザーがあります」などまちの生活情報まで入れています。

● 商店街の役割は?
 もう一つ、西新道錦会商店街の事業で有名なのが「ファクスネット」。エプロンカードを利用する家庭にはファクスを貸し出しています。
 各商店が宣伝したいことをメモ書きして商店街事務局に届けておくと、事務局が見やすくまとめて、お買物情報としてファクスでお客に流します。お客もファクスで事務局に注文します。
 事務局が注文を整理し、各店に発注。品物は指定の時間に届けられます。配達は、地元の主婦がパートでしています。
 ファクスネット事業の運営は、買物金額の五%の手数料で支えています。
 「ファクスネットはお得意さんとの結びつきを確実にすることが目的です。お客さんが、この町に住んで得したなと思えるようにしたい。そこに商店街の役割もある、思うんです」と西新道錦会商店街振興組合事務局長の原田完さん。
 ファクスは貸し出しますが紙はお客さんもち。だからむやみに宣伝ばかり流したら怒られます。商売はきびしい。つねに知恵を絞っています。

● 若い人の声にこたえて
 四月からは夜九時まで営業する、通称「コンビニ」を商店街事務局の向かいに開店しました。いわゆるコンビニチェーンとは違い、商店街の各店が「コンビニ」に置きたい商品を持ち寄った店です。
 「商店街は閉まるのが早い」「何軒もまわるのが面倒」などの若い人たちの声にこたえたもので、注文しておけば受けとりにいくまで、豆腐一丁でも預かっておいてくれます。
 修学旅行のメッカ京都。最近は名所旧跡だけでなく、この商店街でのお店屋さん体験も人気です。かわいい中学生の売り子さんに、お客の気持ちもなごみます。
 「何でもチャレンジせんなあかん」が原田さんのモットー。「住み続けられるまちづくり」という課題に、商店街がどのように積極的な役割をはたしていけるか、挑戦がつづきます。
 多くの商店街との違いは、カラー塗装など見栄えをよくするのにお金をかけるより、地域住民のニーズにあった、心のこもったふれあいをめざしていること。それで地域住民の支持を得ています。

● なみなみでない努力で
 西新道錦会商店街を訪ねて感じたのは、四〇年ぐらい前には全国どこにでも、こんな町があったなあということでした。
 人なつっこくにぎわう商店街、手押し車のお年寄り、自転車の主婦、幅五?ほどの道の両側にびっしりと並ぶ間口のせまい商店、焼き魚や刺身が並べられ、天 井からザルがぶらさがり、お惣菜一人分が気楽に買える。「このごろあわへんかったな」「お母さんお元気ですか」といった会話がとびかう。
 そんな下町の商店街が、いま生き残っていくために、IT利用などなみなみでない勉強と努力をしていたのです。私たち民医連と共同組織にとっても学ぶべきことがたくさんつまった町でした。

文・山口 格  写真・豆塚 猛

いつでも元気 2002.7 No.129

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