いつでも元気

2002年10月1日

元気スペシャル 地域の要求にこたえる診療所づくりへ ●福岡・中友診療所 ●奈良・とみお診療所

無床診療所にグループホームを併設

高齢社会を迎え、診断・治療が中心だった病院・診療所の役割も大きく変化。医療と「介護・福祉」の連携や、安心して住み続けられるまちづくりへの関わりが必要とされるようになってきました。二つの診療所のとりくみを紹介しましょう。 

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「きれいに撮ってね」中友グループホームひまわりで

●福岡・中友診療所(医療法人親仁会)
「おかえりなさい。すいかも冷えてるし、おやつにしましょうか」。温泉から帰ってきたグループホームの入居者に、中友診療所の看護師長でケアマネジャーの宮田真由美さんが声をかけます。
中友診療所は福岡県西端の大牟田市にあります。二階に昨年一一月にオープンした「中友グループホームひまわり」。入居者や職員・ボランティアが食堂でワイワイおしゃべりしながらのおやつのあとは、お昼寝タイムでしょうか。

●市の高齢化がすすむなか
 中友診療所はもともとは五〇床の病院でしたが、いまから一〇年前、市内にもう少し 敷地をゆったりとした痴呆専門病院を開設することになり、病床をそちらにうつして、無床診療所として再スタートしました。それ以来二階の元病室部分は、資 料などを保管する倉庫状態となっていました。
二〇〇〇年に介護保険がスタートして、新しい時代に対応した事業を検討するなかで、この・遊休資産″を活用し、少ない投資ではじめられるグループホームを開設する構想がうちだされました。
「グループホームは介護保険の施設。診療所と連携することで経営的にも介護収益と医療収益をいっしょに確保でき、運営の効率化が期待できると考えたのです」と診療所事務長の北園敏光さん。  
「大牟田市の高齢化率は二五パーセント、市としては全国一高く、四人に一人は高齢者なんです。その上、一人暮らしの高齢者も多い。亡くなってから一〇日も 放置されていたという、悲しいニュースもありました。それでも市のグループホームは三~四年待たなければ入れません。グループホームの開設は地域住民のね がいでもありました」と友の会中友明治支部長の松尾宗二さん(77歳)はいいます。  

 

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中友診療所。右奥がグループホームの玄関
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●地域の人も案内して
現在入居者は女性八人、男性一人。月一回は温泉など少し遠出をし、週一回はお弁当をもって、近くをお散歩。看護学生がボランティアで付き添うそうです。
「グループホームでは、入居者ができることは職員の援助をうけながら自分でやります。
個室でプライバシーも守れるし一歩部屋を出ると話し相手もいます。だから比較的、介護度もすすまないのです」と施設長の根本佐智子さん。
友の会もときどきここで班会をしたり、いっしょに食事をするなど、交流をしています。ホーム内にも友の会会員が二人。班をつくることも検討中です。

オープン前には、地域の人たちを招いてホーム内の見学会をしました。参加者からは「私も入りたい」との声も。オープンしてからは、近所の人から「病院の二階が暗くなってさびしかったけど、いまは電気がついていて、通りも明るくなった」と歓迎の声がきかれます。

●生活の悩みは深刻
 中友診療所は病院時代も含め、三〇年以上地域に密着した医療を続けてきました。
「いま友の会員は四八〇世帯。診療所は生活のことも含めて患者や友の会員の相談にのってくれますので、班会では率直な悩みが話されます」と松尾さん。
サラ金、失職、生活苦…。低所得者、障害者、高齢者などの悩みは深刻で、「なんとかしなくては…」と、診療所の職員や友の会が中心になって、九九年八月に ″ 緑と健康を守る町づくりの会「サンサン中友」″をつくり、相談活動をはじめました。
まず「地域の″ どういう人がどういう状態か″知ろう!」と、アンケートをとることになりました。

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「ヘルパーセンターサンサンなかとも」のスタッフのみなさん。右から2 人目が松尾さん
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北園事務長

●市にも直接交渉
 大牟田は鉱業で栄えたまち。診療所の近くには、炭鉱の最盛期にできた市営住宅があり、かなり老朽化しています。アンケートをとってみてわかったことですが、トイレなど雨漏りがひどくても、個人で交渉したくらいでは市は積極的には営繕をしてくれません。
「サンサン中友」では、市の住宅課の担当者に、実際に現状をみてもらったうえで交渉し、改修してもらいました。これが会としてのはじめてのとりくみとなりました。
昨年六月にはNPO(非営利の民間組織)にし、ことし二月には「ヘルパーセン2002.10 いつでも元気 MIN-IREN 6ター・サンサンなかとも」を開設しました。いま三〇人の利用者があります。

●地域・企業とも連携して
 診療所はあるタクシー会社の健診も行なっていますが、最近はタクシー会社も不況 で、いろいろな経営転換をはかっているといいます。診療所は介護保険の「身体介助」にあたる「介護タクシー」を走らせる協力をしました。一方、診療所の遠 方の患者さんが安く利用できるように提携もしました。
この「介護タクシー」は月五〇人の利用者があり、そのうち二〇人は中友診療所の患者さんということです。
ことし二四回目をむかえた「中友盆踊り大会」も診療所がはじめたものですが、徐々に地域に浸透し、いまでは公民館や町内会で実行委員会をつくってまちぐるみで開いています。ことしの参加は一五〇〇人もありました。
「ここは、本当に地域になくてはならん診療所です」と松尾さんは診療所で作ったという盆踊りのきれいなカラーポスターを広げてみせてくれました。
文・斉藤千穂記者
写真・酒井猛

地域の健康づくりセンターへ

●奈良・とみお診療所(医療法人平和会)

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友の会のボランティアも大活躍

昨年三月に新築移転した奈良の平和会とみお診療所。新しい診療所活動の柱には、これまでも力を入れてきた 在宅医療と介護の総合展開などとともに、「住民の健康づくり」があります。診療所では、今年から「健康づくり外来」や「禁煙支援外来」「心のケア外来」に とりくみ、地域の健康づくりセンターにしていこうと考えています。

●薬にたよらず運動と食事で

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「健康づくり外来」での運動指導。自転車エルゴメーターで体力を測定し、効果的な運動のしかたをマスターします。右が健康運動指導士の増田さん
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健康づくり外来は「薬の治療にたよらず、生活習慣を改めることから、楽しく、根本的に治療」(案内リーフレット)していこうというもので、高脂血症・高血 圧症・糖尿病の患者さんが対象です。通常の診察のほか運動療法や食事指導が毎回組み込まれます。
「医者のいうとおりに薬を飲み続けているけど、少しも健康になってる気がしないという患者さんの思いに、いままでセンターへ耳を傾けてこなかった気がしま す」と話すのは、平和会理事長の市川篤医師。「医師が一方的にその病気を治しきろうとすることより、患者さん自身の健康づくりを本気でサポートすることが 求められているのではないか。そう考えて、設備投資やスタッフ養成にふみきりました」と健康づくり外来のねらいを語ります。
薬中心・医者中心の治療から、運動や食事の指導で患者自身が生活習慣を改善することによる治療へ。医療の考え方の転換です。

●継続していくことに苦心

健康づくり外来は月一回の予約制。患者さんはスタッフと相談して、基本の一二のメニューを自分の状態にあ わせて組み、年間計画をたてます。九月は自転車エルゴメーターをこいで汗を流しながら体力測定、一〇月は「バイキングテスト」で食生活の傾向をチェックし て栄養士がアドバイスというように。
毎月、患者さんは自分にあった運動や食事の正しい知識を得、家に帰ってそれを実践、次の外来でその成果をチェックするしくみです。
増田美也子さんは健康づくり外来で活躍する「健康運動指導士」のひとり。ふだんは拠点病院である吉田病院の臨床検査技師です。
「患者さんには、まず窓口負担の説明からします。患者さんにとってはけっこうな負担ですから」と増田さん。「その人にあわせて、どのように、やる気を引き出し続けてもらえるかにも苦心します」

看護師長の村上栄子さんは、「予約外でも増田さんにあれこれと相談に来られる方も多いんですよ。患者さんの熱心な質問にはスタッフがとことん相談にのって ます」。健康づくり外来は、医師とスタッフが同じ立場で、患者さんとむきあっています。
「運動や食事が大切とわかっていても、いままではひとことで終わっていた」という真弓健治所長は「系統的なフォローが、やっとこの外来でできるようになりました」と喜びます。
もちろん重篤な方や薬でのコントロールが必要な方には必要な検査や指導も行ないます。

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念願のデイケア室もひろびろオープン。きょうはデイケアの夏まつり

●行政にもアピールしていきたい

健康づくり外来は五月から月二回開かれ、七月現在患者数は二三人。
スタッフをふやし回数もふやしていく予定です。
「いまのところ、これが経営的に貢献するというものでもありません」と市川理事長。いまの制度では、スタッフを養成し設備をととのえて、なかみを充実させ ても、保険からは「生活習慣病指導管理料」できめられた額しか支払われません。
「国は、生活習慣病は患者の自己責任だとして、負担を国民に押しつけています。しかし健康づくりは国民のつよい要求であり権利です。かつて地域の要求を背 景に、訪問看護を制度化させたように、健康づくりをまちづくりの課題のひとつとして、国や自治体にアピールし、制度も改善していきたい」(市川理事長)

●在宅医療も強化

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真弓所長

富雄地域は、大阪のベッドタウンとして三〇年前から急速に開発されたまち。
「当時からこの地域に住みだした住民が、いま高齢期を迎えて、在宅医療や介護が切実な問題になってきています」というのは室内インテリア業を営む渋谷寛さん。
平和会健康友の会とみお支部の支部長です。「診療所のリニューアルに関わっても、これまで以上に在宅を重視してもらいたいと要望してきました」
これまでも、訪問看護ステーションやホームヘルプステーション、在宅介護支援センターが協力しあってきましたが、リニューアルを機に、これらをワンフロアに集め、「在宅総合ケアセンター」として業務を開始しました。
とみお診療所では、在宅総合ケアセンターと連携して、フットワーク軽く、まめに往診にいくことにしています。「なにかあればすぐにいく」がモットー。臨時往診が日に七件になることもあります。

●なんでも相談できる診療所に
 友の会が集めた建設協力資金は約五千万円。建設に大きな力を発揮してきました。どういう診療所をつくっていくかも診療所管理部と協議を重ねてきました。
「建物も広く明るくなり、会員さんの評判はよくなった」と役員の東博巳さん。友の会の事務所も同じ建物の中に。
リニューアルは建物にとどまりません。
もっとかかりやすく、もっと安心できる診療所を。職員と友の会の努力は続きます。一〇月からの医療費負担増は患者さんにとっても大きな不安です。事務長の 菊池高波さんは、悩みながらも「なんでも相談できる診療所にして地域の医療・介護を守っていきたい」と語っていました。

文・八重山薫記者
写真・豆塚猛

いつでも元気 2002.10 No.132

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