いつでも元気
2015年11月30日
(得)健康教室 女性の尿もれ外来
せきやくしゃみをしたときや妊娠中など、尿もれを経験したことのある女性は少なくありません。当院の調査では、妊娠中に尿もれを経験した人の割合は七〇%を超えていました。女性の尿道は三〜四センチと短いので、尿がたまっている時にくしゃみをしてもれてしまっても不思議ではありません。当院の産婦人科外来ではこのような悩みを持つ女性を対象に、いわゆる「尿もれ外来」を開設しています。
また、「尿もれ」と同様に、頻尿の訴えも多く、その原因としては、子宮脱などの骨盤臓器脱もあります。当外来ではこれらの治療も広くおこなっています。
尿もれの原因
尿もれ(医学的には「尿失禁」と言います)にはさまざまなタイプがあります。尿失禁には主にせきやくしゃみなどで腹部に力を入れたときに尿がもれてしまう「腹圧性尿失禁」と、急に尿意をもよおし、トイレまで我慢できずにもれてしまう「切迫性尿失禁」の二つがあります。尿失禁の方のなかには、もれないように早め早めにトイレに行き、結果的に頻尿になってしまう方も多くみられます。
また、過活動膀胱や骨盤臓器脱が原因のこともあります。過活動膀胱とは、急にトイレに行きたくなって我慢できなくなり(尿意切迫感)、頻尿・夜間頻尿や切迫性尿失禁がある状態を言います。
骨盤臓器脱とは、骨盤内にある膀胱・子宮・腸などが腟から身体の外に飛び出してしまう状態です。骨盤の底には骨盤底筋という筋肉があり、膀胱・子宮・腸などの臓器を支えています。この骨盤底筋が出産によって損傷したり、加齢や肥満により緩んで臓器を支えられなくなると、骨盤臓器脱になって頻尿などの尿トラブルが生じます。
診察と検査
頻尿を訴える方に骨盤臓器脱がみられたり、尿もれだと思ったら子宮がんだった、ということがあります。そのため、当外来ではどんな症状の方にも、まず共通したいくつかの検査を受けていただきます。特に子宮がん検診は必ず実施します。検査項目は以下の六つです。
(1)子宮がん検診(頸がん・体がん):子宮脱などの下垂度(本来の位置からどれだけ下がっているか)も調べます。
(2)経腟超音波検査:子宮・卵巣・膀胱の状態をみます。
(3)残尿測定:排尿後の膀胱内に残っている尿量を調べます。
(4)尿細胞診:尿の中にがん細胞がないかどうか調べます。
(5)ストレステスト:腹部に力を入れて咳をしてもらい、尿もれの程度を調べます。
(6)尿流検査:尿の勢い・排尿の方法などを調べます。
検査は主に診察室の内診台でおこないます。基本的には初回の診察で実施し、その後は医師が必要と判断したときか、特に問題がなければ一年に一回の検査となります。
当院での治療
当院ではまず、間違った排尿の習慣を直していきます。骨盤底筋が緩んでいる場合は、正しい骨盤底筋体操を覚えて実践していただきます。さらに、排尿をがまんして膀胱を大きくするトレーニング(膀胱訓練)もおこないます。これらの方法により七〜八割の方は症状が改善します。
症状の改善がみられないときは、腹圧性尿失禁ではテープを使い尿道を正しい位置で支える手術を提案しています。手術は下腹部や内股の付け根などに小さな穴を空けてテープを通すので、二泊三日の入院でおこなえます。切迫性尿失禁や過活動膀胱では膀胱の収縮を抑え、緊張をやわらげる効果のある抗コリン剤などの内服薬による治療をおこないます。
骨盤臓器脱の場合は頻尿や排尿困難などの症状もみられます。これらに対しても、骨盤底筋体操・膀胱訓練などの指導で改善しないときには、臓器を正しい位置に戻すための手術をおすすめしています。子宮を残すマンチェスター手術、子宮全摘術+骨盤底形成術、医療用のメッシュで骨盤底筋を補強するTVM手術などがあります。どの手術も腟からおこないます。入院期間は約一週間です。
治療のポイント
治療をすすめるにあたって、患者さんへの指導のポイントがあります。
1.間違った生活習慣を直す
たとえば「尿がもれないように早め早めにトイレに行く」という習慣の方がいます。早めにトイレに行くと膀胱が小さくなり、さらに回数が増えます。尿量が少ないため自然とお腹に力を入れて腹圧で排尿することになり、結局は腹圧性尿失禁・頻尿となります。
早め早めにトイレに行くのではなく、逆にがまんして膀胱を大きくする膀胱訓練を実施すると改善されます。
2.排尿日誌をつけてもらう
受診された方全員の宿題にしています。日誌をつけることで、日常的な水分の取りすぎ・寝る前の水分のとりすぎ・頻尿・夜間頻尿などがわかり、自分の生活習慣を振り返ることができます。これにより症状がかなり改善されます。
3.骨盤底筋体操を覚えてもらう
医師の指導のもとで、正しい方法(お腹に力を入れずにおこないます)を覚えると、頻尿・尿もれ・軽度の骨盤臓器脱が改善されます。
◆
症状が軽い方のなかには、自己流で改善を試みたことが裏目に出て、症状を悪化させてしまう方もいます。尿もれの治療方法は生活指導から薬物治療や手術まで、患者さんの症状に合わせてさまざまです。症状が気になる方は、軽度でも遠慮なく受診してください。
当院を受診される場合は予約制となっておりますので、まずは電話(〇四四─二九九─四七八一)でご連絡ください。
イラスト・いわまみどり
いつでも元気 2015.12 No.290
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