いつでも元気

2015年12月29日

新 認知症 Q&A (問) 主人が病院に行きたがりません (答)まずは健康診断の名目で受診を お答え 大場敏明さん(医師)

 「最近、夫のもの忘れがひどいけれど、認知症かな? でも、本人は病院に行きたがらないし。どうすればいいの?」―。認知症の高齢者の中には受診を嫌がる方もいて、ご家族が大変お困りになります。なぜ受診を嫌がるのでしょうか。
 近年は認知症急増時代です。マスコミ報道やネット情報、関連本が増え、早期診断、早期治療の必要性が説明されています。以前のように「認知症は不治の病で、進行して痴呆状態がひどくなり廃人のようになる」との“誤解”は少なくなっています。「自分はそうなりたくない」「認知症では決してない」と頭から否定する風潮は、薄らぎつつあります。
 しかし、新しい情報に接することが少なく、「認知症=人生をあきらめるしかない痴呆」と“誤解”したまま過ごしてきた方は、「もしかしたら認知症の始まり」との疑いから受診を勧められると反発し、頭から拒否してしまうわけです。
 「家族は自分を認知症だと決め付けようとしている」とか「ぼけたとバカにしている」「施設に入れようとしているのでは」など、被害者意識をもっている可能性もあります。

受診を嫌がる3つのケース

 私が院長を勤めるクリニックふれあい早稲田は一三年前から「もの忘れ外来」を始め、地域で一般医(かかりつけ医)として認知症診療を続けてきました。認知症の方が受診を嫌がり、拒否するケースは主に三つに分類できます。それぞれで対処の仕方が違い、一人ひとりの状況に合わせた個別的な対応が必要です。今回はそのうち、一つのケースを紹介しましょう。

早期の受診ほど効果

初期認知症の場合

 認知症を“誤解”しているために受診を嫌がっている場合です。ご本人は、「最近忘れっぽくなってきてね」とか、少しはおかしいと思っている場合が多いでしょう。「年のせい」「仕事をしなくなったから」など、他の理由づけをしている場合もあるかもしれません。この場合は、「最近、忘れっぽくなっていますね」「その原因を確かめるために、もの忘れ外来(あるいはかかりつけ医)の健康診断を受けませんか」と、勧めてください。ご本人も気になっている場合がほとんどですので、“誤解”を解くことが重要です。
 この“誤解”は、かつての認知症治療の悪いイメージ(痴呆は治らない、精神科の治療が必要で悪くなれば入院など)からくるものです。現代のもの忘れ外来では、もの忘れの原因と程度の診断、そして重症度に応じた治療とケアがおこなわれています。
 MCI(軽度認知障害)なら、脳トレと健康管理で認知症への進行を止める対策をとります。初期認知症なら、その原因に応じた治療法が多様に進歩しており、適切な薬の服用と脳トレ・健康管理にとりくむことで進行を予防することが可能になってきています。認知症の初期ほど効果があります。
 「年相応のもの忘れ状態と健康状態」に近づけていけば、生理的な老化現象に近い高齢期を過ごせるようになります。そうすれば「天寿を全うする人生に近づける」と、“誤解”を払拭し、受診につながるのではないでしょうか。次回は受診拒否の別のケースについてお答えします。


 新コーナー「認知症Q&A」を始めます。認知症について、読者のさまざまな疑問に大場敏明さんらがお答えします。質問は編集部へ。

大場敏明さん
 民医連のクリニックふれあい早稲田(埼玉県三郷市)院長。グループホームやデイサービスも運営し、『ともに歩む認知症医療とケア』を出版(現代書林・保健医療研究所でも販売)。医療、介護、家族のチームによる認知症ケアを実践している。

いつでも元気 2016.1 No.291

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