いつでも元気

2002年11月1日

特集1 「社会で支える介護」の看板どこに? 「現実に起きていることはサギです」 介護保険2年半、立ち上がった2つの運動

  介護保険が発足して二年半。「とぼしい年金から保険料を取るな」「特養ホームの入居、もう待てない」――怒りをこめて行動している人たちがいます。 (中西英治記者)

乏しい年金から天引きするな

●関東・介護保険料に怒る一揆の会●
  八月二八日。東京都庁の一室におおぜいの人が集まっていました。「高い介護保険料に異議がある」と不服審査請求の手続きにやってきた「関東・介護保険料に 怒る高齢者一揆の会」のみなさんです。八月一日につづく、第二次集団請求です。
 「第一次とあわせて不服申請をした人は東京で一一九人。関東全体では二百人をこすでしょう。大いに手応えがあります」と代表の城田尚彦さん(67歳)。
 介護保険ができる前は、保険料は徴収されず、所得の低い人はただでサービスを受けられました。それが、公費負担は五〇%に半減、残りの五〇%は四〇歳以上の国民が保険料を払い、利用者は利用料を払うしくみに変わりました。
 

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怒りをこめて不服審査請求の手続きをする人たち(8月28日、都庁)

 「保険料は、収入によって徴収額が違いますが、東京は、最低の第一段階『月一万五千円以上の老齢・退職年金』の受給者で月千五百円の保険料です。無収入 や住民税非課税の人も無慈悲に徴収されます。ところが最高の第五段階は年収二五〇万円以上で保険料は四五〇〇円。何千万円の高額所得者もこれが上限。こん な不公平がありますか」(城田さん)
 会が発足したのは、ことし二月。介護保険法一八三条(不服があれば通知から六〇日以内に審査を請求できる)にもとづいて、集団で自治体の処分取り消しを もとめています。東京、神奈川、千葉、埼玉など関東各県から集まった二四〇人は、年金生活の退職者が中心でした。
 新聞をみて「お仲間にいれてください」と連絡してきた横浜市の女性、Tさん(71歳)は「私の障害は戦争中、工場動員で勉強もできず体をこわしたのが原 因です。収入は年金だけなのに、月六三〇〇円もの保険料を引かれ、食べるのがやっと。来年は年金を下げ保険料は上げるという。戦争で苦しんできた年寄り に、さっさと死になさいというのでしょうか」。

ペン一本でできる「直訴」
 「一揆の会」が最初にできたのは大阪。二〇〇〇年一一月、六五歳の誕生日を迎えた福井宥さんは、堺市長から送られてきた「介護保険料決定通知」にただ一 人、不服審査請求。「ペン一本でできる直訴」を訴えて各地をまわりました。昨年九月、大阪・介護保険料に怒る一揆の会を結成、現在まで一三〇〇人をこす人 が不服審査請求をしています。「不服審査請求は現代の『直訴』、これを高齢者が集団でおこない、理不尽な介護保険料に抵抗するのは現代の『一揆』です」と いう福井さん。
 「不当な介護保険料をとられているのは抵抗する組織をもたない人たちですよ。無抵抗な人にねらいをつけて社会保障に保険主義をうちこんできた。そこに一 番腹たってますね。これを許すと社会保障全体に保険主義が貫かれる。それをぶっつぶす一揆です」
 「たった一人」で始まった一揆は、福岡県から熊本県、佐賀県など九州各県へ、奈良県へ、関東へと大きく広がりました。福井さんは、請求が棄却された二〇 〇一年五月、「保険料額は無収入者と高額所得者の差がわずか三倍で、憲法一四条の『平等原則』に反し、年金からの天引きは年金受給権と生存権をおかす」と 違憲訴訟を提訴、運動は発展しています。

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むしろ旗をかかげて集団不服審査請求をする関東・介護保険料に怒る高齢者一揆の会のみなさん(8月1日、都庁前)

介護保険制度の実態はサギです
 来年度に予定される介護保険料の見直しは、軒並み「値上げ」の形勢です。中間試算値を公表している県についての新聞報道によると、月額の平均は現行(二 九一一円)より一一・三%高い三二四一円。医療費負担増も予想される来年はたえがたい春になるでしょう。
 そのなかで、関東・一揆の会が掲げるのは、ぎりぎり最低限の要求です。「公的負担をなぜ半減したのですか。元に戻して」「低所得者から保険料・利用料を とらないで。せめて減免制度を」「保険料の異常な逆進性をただして」「一方的な年金天引きをやめて」…。
 代表の城田さんはいいます。
 「介護を社会化するため、というのが介護保険制度のうたい文句でした。でも実際おきていることは、サギです。保険料だけとられて介護は受けられない、底 辺を切り捨てる制度になっている。高齢者にとって住みにくい、つらい国になるのではないかと、高齢者は不安で一杯です。みんなに役立ち、安心して利用でき る介護保険制度にしなくては」

生きてるうちに入居したい

●石川・特別養護老人ホーム入居待機者家族の会
 高い保険料を払ったとしても、介護サービスが受けられない。「サギのようだ」といわれる介護保険の欠陥の典型は、特別養護老人ホームへの入居です。
 介護保険によって、要介護度1以上の人なら、だれでも申し込み順に入居できるようになるはずでした。ところが、
 「入居を申し込まれて、忘れたころやっと順番がきます。ご家族にお知らせして『当人は亡くなりました』といわれたときは、返す言葉がありません。『生き ているうちに入りたい』というのが大げさでも何でもない真実の声です」と語るのは、金沢市にある石川民医連・特養やすらぎホームの主任相談員、山口修治さ ん。
 「定員一〇四人のウチで待機者が約三百人。ギリギリまで我慢しせっぱつまって申し込み、『あすにでも』といわれる。『五年先か一〇年先か』というと絶句されます。私たちの一番つらいときです」
 そんな金沢市で五月、待機者が声をあげ話し合う場として「待機者家族の会」ができました。会員一一〇人。結成してすぐ市長交渉、県と懇談。九月にはシンポジウムと、活発に活動しています。

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夫婦二人暮らしのため、介護者の妻が入院すると介護される夫も入院となる寺田さん夫妻

一日も長くみてあげたい。でも…
 会員の寺田千鶴子さん(71歳)・実さん(78歳)はいま、夫婦で金沢リハビリテーション病院に入院中。千鶴子さん(介護度1)が実さん(介護度4)を 介護していますが、千鶴子さんが病気で入院するとみる人がいないため、実さんも入院、という状態をくりかえしています。
 「夫の介護をして一八年になります。一日も長くいっしょにいたいのですが、心配なのは私の体。私が悪くなると心細いし夫も心が乱れます。せめて夫だけでもホームに入れれば安心できます」
 米一静枝さん(75歳)もリウマチで入院中。娘と夫が亡くなったショックで「夜とつぜんはりつけになったよう。食事もトイレもできない。でもだれもきて くれず、一人で泣いていました。もう一人でいられないとホームを申し込みました。病院には長くいられません。ほんとに早く入れてほしいと思います」。
 木谷光子さんは、両ひざとも人工関節が入った障害三級の不自由な体で夫・義男さん(79歳)を自宅で介護しています。
 六三歳で倒れるまで、まじめな、いうところのなかった夫。「親のきめた人にまちがいはなかった」と思っています。「生活してきたところでみてあげたい が、座ることもできない私が重い夫を支えるのは大変。私もいつ入院するかわからないので、ホームに入れたいんです。心配で、泣くこともあるどころじゃない わいね。でもそんなこと、だれにもいわれんし、夫に涙みせられないしね」

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デイケアから帰宅する夫を妻が支えて。障害をもつ木谷光子さんに介護されて、夫の義男さんも「気の毒やのう」と

SOSが聞こえないか
 一九九三年に住民運動でやすらぎホームができたとき二百人だった金沢市の待機者はいま一三七一人。解決策は特養の大幅増設です。県は最近、〇四年度までに八五〇増床すると発表しました。
 「私たちの運動あればこそ。やってよかった」と会代表の林亀雄さん。でもこれは金沢市以外の分。市は「整備計画に従ってふやす」とのんびりした態度です。
 市の調査でも、待機者の五五%が「一年以内の入居」を望んでいます。国や市には、その重みがわかりません。「ベッドを増やすと保険料が上がる」「だれも が在宅をのぞんでいる」。申し込み順に入れる方式をやめ、サービス利用率や介護度による入所基準をつくる(神戸方式)ことも、全国的に検討されています。
 「だれもが在宅を望んでいる。そんなことは当たり前です。在宅で安心なら申し込みは減りますよ」と山口さん。「心ならずも虐待した経験をもつ介護者は少 なくありません。無視する、つい手をあげる。その極端なのが介護自殺や心中です。申し込みは一歩手前のSOSです。家族の思いが揺れている。戦争のなか育 ててくれた大恩ある親に、朝、亡くなっていてくれればと、思ってはならないことを思ってしまう。それが介護なんです」
 林さんも「特養をつくると保険料が上がるなどというおどしは許せません。それなら消費税はどうしたといいたい」と怒ります。「神戸方式など本末転倒で す。利用料が高くてサービスを使えない実状を知らないのか。待機を解消した上ならいざ知らず、現状のまま選別方式をもちこむのは混乱と不信を招くだけで す」
 全国初の試みとして注目される待機者家族の会。林さんは「会が全国にできたらいい。全国から訴えがあれば、行政を動かして大きい力を発揮すると思う」と語っていました。

写真・若橋一三

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