医療・看護

2015年12月22日

相談室日誌 連載403 生活保護申請を拒む窓口 生存権を守るのは誰?(東京)

 Aさんは、若いころ家族関係が良好でなく、家出同然で上京した四〇代の男性です。麻雀店など住み込みの職を転々とし二〇年を過ごしてきました。数年前に体調を崩し、貯蓄ができれば退職し身体を休めるという生活になり、ついに働けなくなりました。昼は公園、夜はカプセルホテルやマンガ喫茶で過ごし、所持金が減ると野宿に。体調はさらに悪化し、無料低額診療事業(無低診)のことを聞き、来院されました。
 当院では無低診を行っていませんが、診察の結果、幸い入院するほどでないと分かりました。Aさんは「働きたいが、まず治したい。生活保護を受けたい」という意思を持っていました。週末だったため、生活保護申請書は福祉事務所にFAXし、週明け、本人が窓口に行きました。すると窓口は「住所がないので生活保護は申請できない」「若いから働けるだろう」と、ホームレス支援事業を強くすすめました。「ホームレスの寮は紹介できるが申し込みは明日。今夜はひと晩外で過ごして」とも言われ、辛く不快だったとAさんが報告してきました。SWも出向いて抗議しましたが、窓口の態度は変わりません。
 翌日、本人とSW、支援団体メンバーと弁護士で再び福祉事務所へ。やりとりは白熱し、私たちが「大声を出した」と区は警備員まで呼びました。結局、申請を認めましたが、その面談でもAさんに「なぜ生活保護でないとダメか?」と何度も聞きました。
 また生保の申請日は、申請書をFAXした受診日に遡っていませんでした。後日、病院の管理者も出向いて福祉事務所と話し合いました。申請の原則などを訴えても、区は「対応に問題ない」と主張。生活保護は社会保障だという姿勢が全く感じられませんでした。
 その方の生き辛さや法律の根拠を伝えること、権利の侵害に声をあげることの必要性を強く感じました。社会保障は人間としてよりよく生きる基本的な権利、「生存権」そのものです。そして、人権や生存権を守り向上させるよう国に命じているのが憲法です。「憲法は生活そのもの」と発信を続ける大切さを感じています。

(民医連新聞 第1610号 2015年12月21日)

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