いつでも元気

2002年12月1日

特集1 ズシンと重くなった高齢者の医療費負担 患者さんの痛み、少しでも減らそう

 一〇月一日から七〇歳以上のお年よりの医療費の窓口負担が変わりました。負担が増える人が約七割といわれるなか、「実際の支払いがいくらになるのか」「これ以上医療費があがったら、払えなくなる」という不安の声があがっています。
 医療費をもとにもどせ、という運動とともに、患者の実害をなんとか減らしたいと各地でとりくみが広がっています。京都、北海道、大阪のとりくみを紹介しましょう。

 

京都
一人ひとりに試算を知らせて相談に
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相談にのる上妻さん

 京都民医連では、七〇歳以上の患者さん一人ひとりについて、七~八月の受診内容をもとに、一〇月以降、同じ内容だと医療費がいくらかかるかを試算。それを知らせて、個別の相談に応じ対策をとるとりくみをすすめています。

患者570人に手紙

 京都市南区にある吉祥院病院では、その試算に「困ったことがあったら相談してほしい」という手紙をつけて、八月末に対象となる五七〇人に送付しました。
 「医療費がこれまでと同じか、安くなるという人も二七~二八パーセントいます。”高くなると思って心配してた”とほっとしておられました。でもそれ以外の人は負担が増えてしまいます」と事務長の高梨輝子さんはいいます。
 「とくに在宅酸素療法の方はかなり負担が増えます。京都市は重度障害老人健康管理費制度(本人負担金なし)を実施していますが、一級か二級の身体障害者 手帳を持っている人が対象です。ところが在宅酸素の方はほとんどが三級。対象を三級までに拡大せよ、という運動をすすめると同時に、ひざなど他の障害をあ わせて二級に認定するなど、医療費軽減をはかる努力をしています」と高梨さん。

市の制度の利用すすめる

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相談してよかったと清水さん

 心筋梗塞と不整脈があり通院している清水近雄さん(81歳)は、脳梗塞でマヒのある妻かずえさん(77 歳)と二人暮らし。国民年金など、二人あわせて月の収入は一〇万円弱なので、ヘルパーも頼めません。診療所と病院での診察代、薬代を合計すると、医療費は これまでの二倍以上になります。   
 「なんとか医療費を減免してもらえないか」と相談に。相談を受けたソーシャルワーカーの上妻英樹さんは、かずえさんについて、京都市の「重度障害老人健康管理費」への申請をすすめました。
 「そんな制度があったんか」。清水さんはさっそく申請手続きをしました。

 介護保険も利用して
 両膝が悪くて、週に一回痛み止めの注射を打つために通院してくる岩木セツ子さん(78歳)は一人暮らし。娘さん(53歳)は聴覚障害などがあるため、施 設にいます。施設にかかる費用は障害年金でまかなわれますが、施設に老人ホームを併設するための寄付などは、セツ子さんが夫の遺族年金から捻出していま す。
 「娘の将来を思えば、老人ホームに入れてほしい。食べることを減らしても施設にお金を送っています」とセツ子さん。
 相談を受け、ケアマネジャーの山路優美子さんが訪問。膝への負担を軽くするため介護保険で家事援助を受ける、転倒予防の手すりをつけるなどをアドバイス。先ごろ介護度1の認定を受けました。
 「相談にきて、百万の味方を得たような感じです」と笑顔をみせます。

あきらめないで相談して
 「相談にみえる方はまだいい。“もう病院にもいけない”とあきらめている人のことが気がかりです。職員がアンテナ高くして声かけあって、ひとりでも多く の人の実害を減らしたい。一一月にはいったら、一〇月で中断してしまった患者さん宅を訪問します」と佐野春枝さん(ソーシャルワーカー・在宅介護支援セン ター長)はいいます。

札幌
いたるところに「110番」ポスター
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「110番活動を知らせたい」と
ポスターを背にした鍋谷さん

 

 区役所で毎月相談会。その場で区と交渉

 札幌社会保障推進協議会では、「国保・介護110番」にとりくんでいます。毎月の最終木曜日に、市内の各区役所などで部屋を借り、相談にのっています。
 「そこに相談にきていただければ、その場で国保料の減免申請をしたり、国保証の発行を交渉したりできるよう、行政
の人にもきてもらっています」と事務局長の皆川義隆さん。 

 この「110番」活動を広く知らせようとカラーポスターをつくり、医療機関はもちろん、町内会の掲示板や町内会館、床屋さん、お風呂屋さんなど、人目につくところに張り出しています。
 「どこでも喜んで協力してくれます」  

保険証をとりもどす 

 九月の「110番」には、札幌全市で六七人が参加、四三件四〇人が国保料の減免などの申請を行ないました。
 東区役所で納付相談をしたM子さんは母子二人世帯。息子さんの給料で生活していましたが、一昨年から国保料が払えなくなってしまい、誰にも相談できない まま、ことし三月、国保資格証明書が送られてきました。これでは窓口でいったん医療費を全額支払わねばなりません。
 Mさんが「手足のしびれと頭痛」を訴えて、勤医協中央病院を受診したのは九月一〇日。通院が必要でしたが、全額自己負担となると、初診の医療費だけで一万二千円。とても払うことはできず、未払いとなっていました。
 相談を受けた中央病院の鍋谷健彦さん(医療ソーシャルワーカー)がMさんと一緒に「110番」に参加。通院が必要という「特別な事情」届けを提出し、九 月一〇日にさかのぼって一一月末までの短期保険証を発行させることができました。これで三割負担ですみます。
 「相談にくる方の多くは、やっぱり役所は怖いといいます。多くの方に110番活動を知らせたい」と鍋谷さん。

高くて払えない国保料 

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保険証を返せと手稲区と交渉
(写真提供:北海道勤医協)

 札幌市では、国保世帯は一七万五千世帯ですが、保険料が高くて、「払いたくても払えない」滞納者が六万世帯以上に増加しています。市は滞納者を窓口に呼びつけ、納付額に応じて一ヵ月、三ヵ月という短期保険証を発行しています。その数は三万世帯にものぼります。
 また失業であれ、店の倒産であれ、一年以上滞納すれば「悪質滞納者」として国保資格証明書を発行。その数もすでに一万四千世帯になりました。国保料が払えず困っているのに、全額自己負担などできるはずもありません。

患者負担増の撤回をと
 

 高齢者の医療費引き上げがはじまった一〇月一日、札幌市では、医師たちが患者負担増の撤回を求める「緊急集会」をひらきました。北海道保険医会(会員四千人)が札幌市医師会、道歯科医師会、薬剤師会、道社会保障推進協議会など二〇団体の賛同を得て、行なったもの。
 三上一成会長は「患者負担がさらに一兆五千億円も増えれば、個人消費はさらに冷え込み不況は長引く」と怒りのあいさつ。「患者負担増の撤回を」は大きな運動になっています。

文・矢作京介

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大阪・高齢者怒りのデモ
ないのは財源ではなく政府の姿勢だ

 「黙っていたらアカン。仲間たち、怒りの行動にたちあがろう!」と一〇月五日、大阪市で「高齢者怒りの集 会とデモ」が行なわれました。大阪高齢者運動連絡会と生活協同組合ヘルスコープおおさかが主催、大阪民医連や保険医協会が共催したもので、六〇人以上の高 齢者が参加しました。

命をうばう小泉構造改革
 「大阪府域では一~七月までの自殺者のうち、四~五〇代の働きざかりの人が四〇パーセントをこえます。小泉構造改革は高齢者だけではなく、国民の命をうばうもの」と関川昭雄さん(大阪生活と健康を守る会会長)は憤ります。
 「今回の改悪に加え、大阪府では老人医療助成制度を廃止する動きがあります。なんとしてもくいとめなければ」と。
 畝崎紋子さん(大阪老後の幸せをすすめる連絡会の副会長)は「仕事はない、病気がある。お金もなければ死ぬしかない。こんな世の中いつまで続くのか。でも泣き寝入りしていられません。団結してがんばらなければ」と語ります。
 中井常生さん(ヘルスコープおおさか社保平和委員長)は「財源がないといって、医療も福祉も削っているが、その気があれば充実できる。ないのは政府の姿勢や。一斉地方選挙もある、運動を強めなアカン」とデモの先頭にたちました。

高額医療費は一度手続きすれば
 東大阪市では、高額医療費を一度手続きすると、以後、払い戻し金は自動的に振り込まれることになっています。
 東大阪生協病院では、肝疾患で毎日のように点滴を打っている患者さんの負担が、院外薬局の薬代とあわせて一万四千円以上(これまでより一万円以上の負担増)となるため、高額医療費の申請手続きを行ないました。

ガス・水道は機械的に止めるな
 何の訴えもできず治療も中断し、亡くなるというようなことは防ぎたい。大阪民医連は、生活と健康を守る会とともに、水道局・大阪ガス・関西電力に「滞納 者に対して機械的に止めないで。止めるときは守る会に連絡してほしい」「生活困窮者の発見と対応を」と要請しました。

 

文・斉藤千穂記者/写真・豆塚猛
(京都・大阪とも)

いつでも元気 2002.12 No.134

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