いつでも元気

2016年2月29日

認知症Q&A 第3回 深刻化する「徘徊」問題 家族会で悩みを共有 お答え 大場敏明さん(医師)

 認知症高齢者の「徘徊」が深刻化しています。家族も本人が認知症だと気づかないまま、ある日突然、行方不明となるケースも増えています。NHKの調査(二〇一二年)では、認知症の行方不明者は約九六〇〇人で、うち三五一人の死亡が確認されました。最近の行方不明者は、年間一万人以上にもなっています。

徘徊模擬訓練も

 このような悲劇を防ぐため、自治体が対策を強化しています。神奈川県川崎市で二〇〇四年から、私のクリニックのある埼玉県三郷市では一二年から「徘徊高齢者SOSネットワーク事業」が始まりました。
 先進的なとりくみで知られる福岡県大牟田市は、〇四年から徘徊者を見つけた場合の対応方法などを学ぶ「徘徊模擬訓練」を始めました。最初は一校区のみでの実施でしたが、一三年には全校区に広がり、毎回、二〇〇〇人近くが参加しています。

増える捜索放送

 徘徊というと、防災無線を思い浮かべませんか。捜索を呼びかける行方不明者の多くが認知症です。例えば「○○時頃、△△町で八〇歳の男性の行方が分からなくなり捜しています。お心当たりの方は最寄りの警察署までお知らせください」といった放送を耳にします。
 現在、多くの自治体が防災無線を活用して行方不明になった高齢者の捜索協力を呼びかけています。千葉県松戸市では、二〇一三年の放送件数が二一件で、すべて無事に発見されています。

“先輩”がアドバイス

 私がかかわっている認知症高齢者の家族会「三郷の小さなつどい」でも、徘徊の相談が数多くあります。
 「五六歳のアルツハイマー。デイに通い明るくなったが、徘徊が始まり松戸まで行ってしまった。カギをかけたら家の中を歩き回っている」「玄関のカギをかけても二階の窓から出て行く。江戸川区まで行ってケガをした」「玄関のチェーンを引きちぎったり、五階のベランダの柵を乗り越えようとしたり」など、深刻な相談です。
 つどいに参加している介護の“先輩”が、自身の経験を話したり、対応方法をアドバイスすることで、家族の不安や悩みの軽減につながっています。

遺族に賠償金請求

 痛ましい事故も起きています。認知症で徘徊中に列車事故で死亡した愛知県の男性(九一歳・要介護4)の妻(八五歳・要介護1)に対し、JR東海が約七二〇万円の損害賠償を求めて裁判を起こしました。二〇一三年の一審判決(名古屋地裁)は、妻と長男に請求通りの支払いを命じ、翌年の二審判決(名古屋高裁)では妻のみに約三六〇万円の支払いを命じました。遺族は控訴し、最高裁で係争中です。国土交通省によると、二〇一二年度の鉄道事故は八一一件で、死亡者数は二九五人にのぼりますが、裁判になるのは珍しいそうです。
 次回は徘徊の原因について解説します。


「夫がおかしいな」と気づいた時 その2
大倉弥生(認知症の人と家族の会埼玉県支部・「三郷の小さなつどい」世話人)

 夫の認知症が進行するなか、当初は一人で悩んでいましたが、民医連のみさと健和病院に介護相談室ができてからは、介護のあらゆる問題についてお世話になりました。同時に「認知症の人と家族の会」に入会し、介護の悩みを共有するようになりました。
 私は今、家族の会埼玉県支部の世話人を務めています。9年前からは、大場先生とともに三郷市内5カ所で「家族のつどい」を開いています。家族同士ですと、安心して悩みが話せます。他の人の経験を聞いたり、大場先生がアドバイスをくださります。来た時には不安そうなご家族の顔が、帰る時には笑顔になります。
 全国どこでも「家族のつどい」があります。また、電話相談もおこなっています。困った時には、いつでもご相談ください。
■公益社団法人「認知症の人と家族の会」TEL 0120-294-456

いつでも元気 2016.3 No.293

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ