いつでも元気

2003年3月1日

「医療事故」「事件」と私たち民医連の立場 全日本民医連・長瀬文雄事務局長にきく 安心・安全の医療めざして 痛恨の経験から学びながら

長瀬事務局長
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 全日本民医連理事会は、昨年一二月、「『医療事故』『事件』と私たち民医連の立場」について見解を発表しました。マスコミ関係約八〇社と二〇〇人をこえる医療関係者に送付しました。長瀬文雄事務局長に聞きました。

 国民は「安全・安心・信頼の医療の提供」を医療機関に期待しています。医療事故をなくすことは国民の願いであり、医療機関はもちろん行政、国をあげての社会的使命だと思うのです。

幅広い人たちへよびかけて
 今回、発表した「見解」は新たに民医連新聞号外としてすでに二〇〇万部発行し、職員、共同組織の方がたや医療関係者などに理解と討議を呼びかけています。大変反響があります。
 見解を読んだある地方公務員の方からは「民医連が医療事故の問題にどれほど真剣にとりくんできたのか、よくわかった。医療事故は発覚すれば関係者を処分 しておしまい、というケースがよくあるだけに、民医連の姿勢には感動した。民医連とは何かもひかえめに書かれていたが、その存在をとてもたのもしく思っ た。信頼をとりもどすのは大変だが、がんばってほしい」という声が寄せられました。

なぜ、こんなことが…
 私たち民医連は、患者さんのいのちと健康、人権を守る立場から、安全な医療の実現にむけて全力をあげてきました。しかし残念ながら民医連加盟の医療機関 でも、医療事故や事件が発生しています。多くの患者さん、住民の方がたの信頼を損なうもので、共同組織のみなさんにも大変ご心配をおかけしています。
 なかでも、川崎協同病院における「薬剤投与死亡事件」や京都民医連中央病院における「検査結果虚偽報告事件」は医療人としてのモラルが問われるものです。
いかなる理由があっても許されることではありません。民医連の医療機関で「なぜこんなことが起きたのか」「なぜ数年間も放置されてきたのか」、自ら厳しく問う作業を行なってきました。
 川崎協同病院の「内部調査委員会」、「外部調査委員会」の報告が昨年七月に出されました。すでに五万部普及され、ホームページでも公開しています。「こ れは川崎だけの問題ではない」と、すべての民医連院所で、この教訓から学ぼうと内部討議をはじめています。

院内感染を自主公表して
 これまで医療界では、医療事故は内部処理されがちで、教訓がなかなか伝わりにくく、事故がくり返される傾向にありました。アメリカのような第三者機関 (例えば航空機事故の際の事故調査委員会に匹敵する機関)がないなかで公表することは、マスコミに大きく報道される、刑事事件として動きはじめるというこ ともあり、かなり勇気がいることです。
 転機になったのがセラチア菌院内感染での大阪・耳原総合病院のとりくみです。
 セラチア菌は公的機関への報告義務はありませんでした。しかし、国内二例目の報告であり、どこの医療機関でも起こりうると認識し、自主公表しました。
 堺市調査班の指導・援助を得て、治療に全力をつくすとともに、徹底した原因究明と感染防止対策と医療の見直しをすすめました。消毒方法を変更するなど感 染対策を「五つの改善点」としてまとめ、教訓を伝えました(二〇〇〇年九月六日NHKの「クローズアップ現代」で放映)。このことは医療関係者から大変評 価をいただきました。
 マスコミの報道にかかわって、堺市調査班班長の本田武司さん(大阪大学微生物学研究所教授)は「真面目に自主公表し、教訓を広げようとする病院を犯人扱 いする報道では、今後、こうした院内感染問題や医療事故を自主公表しようとする医療機関は出てこなくなる」と、冷静な報道を呼びかけました。
 大切なのは、日常起こりうる医療事故やニアミスについて、「だれが起こしたのか」ではなく「なぜ起きたのか」「再発防止のためにはなにが必要か」の立場で分析し、教訓の普及をすすめることです。
 その立場から、私たちは二年前、「安全モニター制度」を発足させ全国の事例を持ち寄っています。ここから事故の約四割が転倒転落事故、二割が注射事故で あることが明らかになりました。これを防止できれば事故が半減します。同じことをくり返さないための防止策をまとめ、この教訓も全国に広げています。
 
医療事故をなくすために全力
 医療安全問題をテーマに二〇〇〇年秋に開催した全日本民医連病院長会議の際、著名な医療ジャーナリストの方から「教訓を普及できるのはあなたがた民医連 です。がんばっていただきたい」というメッセージをいただきました。この立場を貫いています。
 医療事故などの困難に際して、わたしたち民医連の原則的な姿勢は、なによりも患者さんを大事にし、再発防止のために徹底的に原因究明を行ない、再発防止策をまとめる。情報を内外に公表し教訓を普及する、というものです。
 耳原総合病院では徹底した手洗い、手袋の使用など予防策によって、その後、院内感染は激減しました。一方、院内感染防止のためには診療報酬の一〇数倍の費用がかかることを明らかにし、診療報酬の改善を求めました。
 この経験から、院内感染対策として「みんなではじめる感染予防ガイドライン」のパンフレットを作成しました。民医連内外に四万部普及されています。
 また医療事故の一因となる色や形の似た薬や医療材料の改善も、厚労省やメーカーに提言してきました。
 いまの行政はまったく逆の方向をむき、診療報酬を引き下げ、医療現場に効率性を求めています。こんなときだからこそ、安全・安心の医療実現のために、私たちは運動を広げていかなければと思います。
 以上が、痛恨の経験から学んだ私たちの教訓であり、決意です。医療事故をなくすために、全力をあげていきます。
 
「いのちは平等」をモットーに
 全日本民医連はことし結成五〇年を迎えます。「いのちの平等」をもとめて、共同組織の方がたと力をあわせ、医療と運動を行なってきました。二一世紀初 頭、平和といのちが大切にされる社会めざして、あらたに「医療・福祉宣言」を決めました。これからますます民医連の役割が求められる時代です。
 そんななか、一部勢力から医療事故、事件を口実にした民医連攻撃をされています。なぜこんな誹謗中傷がされるのか。  医療改悪を強行し、弱い者いじめの政治をすすめている勢力からすると、「いのちは平等」をモットーにたたかう私たち民医連はさぞ目障りなのでしょう。しか し医療事故問題を政争の道具にしてはならない。
 私たち民医連はこんな攻撃をはねかえして、今後も患者さんや地域住民のみなさんが、安心し、信頼して医療機関に受診していただけるよう、いっそう奮闘したいと思います。

いつでも元気 2003.3 No.137

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