くすりの話
2004年7月1日
くすりの話 72 薬害肝炎
Q:血液製剤から肝炎ウイルスが感染した人が国と製薬会社を訴えていますが
A: “フィブリノゲン製剤”など出血を止めるための薬が肝炎ウイルスに汚染されていたため、使用した患者が感染し、肝炎になったものです。被害者が、2002年に国と製薬会社を訴え、「薬害肝炎訴訟」として現在公判中です。
フィブリノゲン製剤は、人の血液から、出血したときに血液を固めるための「血液凝固因子」をとりだしてつくったものです。本来、生まれつき血液凝固因子 が欠けて血が止まりにくい人のための薬でしたが、手術や出産など大量出血のときにもひろく使われるようになりました。
フィブリノゲン製剤は数千人~2万人以上もの提供者の血液をためたもの(プール血漿)からつくられ、提供者のなかに1人でも肝炎ウイルス感染者がいればプール血漿全体が汚染されてしまう危険性がありました。
1968年には、米国医学会専門委員会でプール血漿使用禁止を勧告。77年には、米国での医薬品の監督官庁であるFDA(食品安全局)が、フィブリノゲ ンの効果が疑わしいこと、代替えの薬として、肝炎感染の危険性が少ない“クリオ製剤”があることなどを理由に、フィブリノゲンの製造承認を取り消しまし た。
ところがわが国では、88年ごろまで販売されていたのです。
Q:なぜ薬害肝炎といわれるのですか?
A: 米国で製造承認を取り消してから、わが国でもC型肝炎に感染する危険性が高いことは十分予見できたでしょう。国と製薬企業が適切な対応をせず、汚染されたフィブリノゲン製剤が売り続けられた結果、肝炎になったので“薬害肝炎”といいます。
C型肝炎は慢性化することが多く、肝硬変・肝がんの原因になります。ウイルス性肝炎にはA型、B型などありますが、C型肝炎はB型と同じく感染者の血液を介して感染します。
今回のように汚染された血液凝固因子製剤の投与を受けた場合のほか、輸血、注射器や透析によっても感染します。自覚症状が少ないのが特徴で、感染しても 気づかずに症状を悪化させてしまうことが多いのです。
しかもフィブリノゲン製剤が使われていた事実を知らされていない人がおおぜいいます。全国で7004カ所の医療機関にフィブリノゲンが納入され、約28 万人にフィブリノゲン製剤が使われ、感染した被害者は少なくとも1万人以上いることがわかっているのに、厚生労働省は納入先医療機関の公表をしていませ ん。
民医連の医療機関では、過去の使用状況を自主的に調査し公表、使用の可能性のある人には受診を呼びかけています。1990年ごろまでに手術や出産などで大量出血のあった人は、一度病院にお問い合わせください。
1968 | 米国医学会で「プール血漿」の危険性が指摘される |
1977 | FDA(米国食品安全局)がフィブリノゲンの製造許可取り消し |
1984 | 製造したミドリ十字(現三菱ウェルファーマ)が当時の厚生省に危険性を報告 |
1987 | ミドリ十字が自主回収をはじめる。しかし、3年間、販売は続けられた |
2002 | 薬害肝炎訴訟 |
いつでも元気 2004.7 No.153
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