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2016年5月31日

巻頭エッセイ 医療人の本当の幸せ 日本プライマリ・ケア連合学会理事長 丸山 泉

 「プライマリ・ケア」とは「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」です。“身近な医療”には、だれでも健康になる権利がある、幸せになる権利があるという意味が含まれていなくてはなりません。
 「一人ひとりの物語を大切にする医療」とも表現できます。「お父さんが入院したら、家族の収入はどうなってしまうのだろう」とか、「お金がなくて病院にたどり着かない患者さんがいるかもしれない」─。そんなことに思いを馳せることができる医師の育成をめざしています。
 医師が持つべき優しさとか、人に対する目線など、民医連とマインドが共通しています。患者さんから「ありがとうございました」と言われて一日の仕事が終わり、「ああ、幸せだなあ」と思える。学会の会員数は一万一〇〇〇人を超えましたが、そんな感性の強い人が集まっているのでしょう。
 福岡県小郡市という小さな市で、中小病院の理事長をしています。住民の中にはお金がなく受診できない患者さんもいる。そんな時に「お金を払えないなら、治療はできません」と言えますか?
 従来の臓器別専門医は、患者の患部に注目してきました。総合診療医や家庭医は患者をそれぞれの人生を背負った人としてみます。そして、もう少し範囲を広げてコミュニティー全体に踏み込む。すると、隠れた医療的な課題が見えてきます。プライマリ・ケアの本質は、医療をコアに住民の健康を守り、住民とともに良い街をつくる、ということです。
 今、日本には格差と貧困の拡大や保育園の待機児童など、さまざまな問題が山積しています。長く“経済大国”と呼ばれながら、なぜ解決できなかったのか。国の社会保障のありようには、民主主義の成熟度が反映されます。
 イデオロギーの話ではありません。しかし、社会保障は政治で決まるもの。一人ひとりが声をあげ、その声を結集していかなければ良くなりません。将来の社会保障の問題を直視してこなかったため、医療人の心も体も疲弊しています。患者さんに感謝されることが、医療人としての喜びという原点に立ち返らなければ。
 新専門医制度で初めて、総合診療が専門医に加わります。制度にはさまざまな課題はありますが、医学教育が変わり、地域で活躍する医師像も変わるでしょう。医師と患者の信頼を取り戻す、ひとつのきっかけになるかもしれません。

丸山泉(まるやま・いずみ)
 1949年、福岡県生まれ。75年、久留米大学医学部卒。内科医。医療法人社団豊泉会「丸山病院」(福岡県小郡市)理事長。 2012年から日本プライマリ・ケア連合学会理事長。


日本プライマリ・ケア連合学会 日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会が2010年に合併して発足。会員数約1万2000人。

いつでも元気 2016.6 No.296

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