いつでも元気

2003年7月1日

特集2 高脂血症と動脈硬化 肥満・糖尿病・高血圧などをともなうと危険

宮崎・このはな生協クリニック内科・中島 徹

 高脂血症とくに高コレステロール血症が、動脈硬化の最も大きな要因として問題となってきています。
 日本人の死因の第1位はがん(30・7%)ですが、動脈硬化がもとでおきる脳卒中や狭心症、心筋梗塞をあわせると、がんとほとんど同じ割合(29%)になります。
 動脈硬化のもとになる「高脂血症」とはどんな病気か、治療はどうすればいいのかお話ししましょう。
 
コレステロールの善玉・悪玉
 高脂血症は、血液中の脂質(主としてコレステロールと中性脂肪)が多くなる病気です。
 コレステロールでは、よく善玉、悪玉といいますね。コレステロールは本来、細胞膜をつくったりホルモンの材料になるなど、大切な役割をもっています。
 血管壁にとりこまれてその役割をはたしているのが、悪玉とよばれるLDLコレステロールです。
 一方、善玉とよばれるHDLコレステロールは血管壁にたまったコレステロールを引き抜き、肝臓へもどす働きをしています。こうして、バランスを保っているわけです。
 しかしLDLが血液中に増えすぎると、コレステロールが血管壁にたまり、血管壁がふくれ上がって血管の内腔が狭くなります。また血管壁は硬くなり、もろ くなります。これが動脈硬化です。動脈硬化が脳の血管でおきると「脳梗塞」、心臓の血管でおきると「心筋梗塞」という命にかかわる病気につながります。
 このため、コレステロールの沈着を防ぐHDLが善玉、沈着をすすめるLDLは悪玉とよばれるのです。
 中性脂肪も多すぎると動脈硬化の原因となります。

「死の四重奏」とは
 日本人成人の総コレステロールの平均値は、血液100ml(1dl)あたり200mgをこえました。これは正常値ぎりぎりの高さです(表1)。高脂血症がふえている大きな原因は、食生活の欧米化(高カロリー・高脂肪の食事)と、運動不足です。
 また高脂血症は、ほかの生活習慣病をともなうことが多く、肥満症・糖尿病・高血圧症などをともなう場合、「死の四重奏」などといわれます。動脈硬化性の病気になる率がいっそう高くなるからです。

表1 高脂血症のタイプと診断基準(空腹時採血)
●高コレステロール血症:総コレステロールが220mg/dl以上
●悪玉コレステロールが高いタイプ:LDLコレステロールが140mg/dl以上
●善玉コレステロールが低いタイプ:HDLコレステロールが40mg/dl未満
●高中性脂肪血症:中性脂肪が150mg/dl以上
●混合型:総コレステロールも中性脂肪も両方高いタイプ
◎正常値は、総コレステロール=150~219mg/dl
  中性脂肪=50~149mg/dl

●危険因子が重なると
 「J│LIT」という日本人を対象にした高脂血症の大規模な研究があります。(表2)は、この研究にもとづいて、動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、喫煙)が重なれば重なるほど、心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症率が高くなることを、60~65歳の女性の場合で示したもの(動脈硬化リスクチャート)です。
 (表2)の一番左上を見てください。LDLコレステロールが120mg/dlで、HDLコレステロールが70mg/dl、糖尿病・高血圧がなく、喫煙もしていない場合です。このときは6年間で1000人中1人(0・1%)しか心筋梗塞などを発症していません。
 ところがコレステロールの値が同じでも、糖尿病があると3人に増え、高血圧が加わると7人に、糖尿病・高血圧・喫煙と3つそろうと16人が発症しています。
 (表2)の 一番右下は、LDLコレステロールが200mg/dl、HDLコレステロールが30mg/dl、糖尿病・高血圧・喫煙がある場合。6年間になんと230人 (23%)が心筋梗塞などを発症しています。しかし逆に喫煙をやめれば110人に減り、高血圧を治せば48人、糖尿病もコントロールできれば16人に減っ ています。
 このように、コレステロール値を下げることと同時に、糖尿病・高血圧・喫煙などの危険因子を減らせば、心筋梗塞などの発症率をどれだけ下げられるかが一 目でわかるので、このチャートは患者さんといっしょに治療の方針や目標を明確にするのに役立っています。

●人によって違う目標値
 (表3)は、2002年に動脈硬化学会がまとめたもので、▽心筋梗塞などの冠動脈疾患があるか、▽糖尿病・高血圧・喫煙・肥満・加齢などの危険因子がいくつあるかで患者をA~Cに6分類し、分類ごとに血液中の脂質をどれだけに抑える必要があるかの目標値を示しています。
 それぞれの条件によって管理目標値は大きく異なります。
 たとえば50歳の男性で心筋梗塞や狭心症はないが、肥満という場合、危険因子は2つ(加齢、肥満)になり、総コレステロールは220mg/dl未満にする必要があります。分類はB2です。
 さらに喫煙があれば、危険因子3つ(肥満・喫煙・加齢)のB3となって、200mg/dl未満にする必要があるわけです。

表3 患者の分類別管理目標値
患者分類 脂質の管理目標値(mg/dl)
  心筋梗塞狭心症 LDLコレステロール以外の主な危険因子の数 総コレステロール LDLコレステロール HDLコレステロール 中性脂肪
なし 0 240未満 160未満 40以上 150未満
B1 なし 1 220未満 140未満
B2 2
B3 3 200未満 120未満
B4 4以上
あり   180未満 100未満

◆LDLコレステロール以外の主な危険因子とは、加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、高血圧、糖尿病(耐糖能異常をふくむ)、喫煙、家族に狭心症・心筋梗塞の人がいる、低HDLコレステロール血症(40mg/dl未満)
◆脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとする
◆糖尿病・耐糖能異常があれば、他に危険因子がなくともB3とする

●糖尿病を合併していたら要注意
 注意してほしいのは、糖尿病や耐糖能異常(糖を処理する力が弱い)の場合は、他の危険因子がなくても、B3扱いになるということです。糖尿病患者では LDLコレステロールが120mg/dl以上で動脈硬化疾患の発症リスクが高くなることが報告されています。
 糖代謝能力が低いかどうかは、糖を飲んで2時間後の血糖値をしらべて判断します。血糖値が140~199mg/dlだと耐糖能異常です。耐糖能異常の場 合、脳梗塞と心筋梗塞をあわせた発症率が、正常な人に比べて1.9倍も高くなっています。
 現在、日本では40歳以上の10人に1人は糖尿病で、耐糖能異常はさらに多いといわれます。残念ながら働き盛りの世代では、かなり多くの方がB3にあてはまるでしょう。
 高中性脂肪血症は以前はあまり重要視されていませんでしたが、日本における調査でも、中性脂肪が150mg/dl以上で冠動脈疾患が増加するという報告があります。

ライフスタイルを変えよう
(1)タバコはやめよう
 欧米での喫煙率が低下しつつある現在、タバコ会社はアジア・アフリカ・中南米地域への販売攻勢を強めてきています。これに対して、日本政府は有効な手立てを打たず、事実上野放し状態。先進国でタバコの自動販売機があるのは日本だけです。
 日本では若年者や女性で喫煙率が増加しています。また、医療従事者の喫煙率も他の先進国に比べて数倍というのは、恥ずべきことですね。
 タバコは毒性が強いだけでなく、依存症になりやすい、とても強い「麻薬」です。実際、喫煙者の8割はやめたいと思っているのに禁煙できない状況にありま す。禁煙に失敗しても、くり返し、できるところからがんばっていきましょう。

(2)食生活を改善しよう
 近年、日本で糖尿病や高脂血症がこれだけ増えてしまったのは、食事内容の変化や食生活パターンの乱れが大きく影響していると思われます。食生活の是正は、ライフスタイル改善のうちでもとくに重要です。
 朝食抜きや夜の大食い、脂肪分の多い外食…わかっているけどやめられないという食事習慣を、どうしたら改善していけるか、医師・栄養士とよく相談してください。
 食事療法は、(表4)のように段階的にすすめます。肥満者、高齢者、女性、運動量の少ない人は標準体重あたりの摂取エネルギー量を少なめにします。
 なかなかやせられない方で「食事指導は以前受けたことがあるからもういいよ」とおっしゃる方がよくいますが、目標の体重に近づくため、何度でも指導を受けましょう。
 また「水を飲んでも太る」ということばもよく聞きますが、心臓や腎臓がよほど悪くない限りは、水は尿になるだけで体重は増えませんし、体脂肪が増えることもありません。

表4 高脂血症における食事療法の基本

第1段階(総摂取エネルギー、栄養素配分およびコレステロール摂取量の適正化)

  1. 総摂取エネルギーの適正化
    適正エネルギー摂取量=標準体重*×25~30(kcal) *標準体重=[身長(m)]2×22
  2. 栄養素配分の適正化
    炭水化物で総エネルギーの60%をとる
    タンパクで同じく15~20%をとる(獣鳥肉より魚肉、大豆タンパクを多くする)
    脂肪で同じく20~25%をとる(獣鳥肉脂肪を少なくし、植物性・魚類性脂肪を多くする)
    コレステロールは1日300mg以下にする
    食物繊維は25g以上とる
    アルコールは25g(ビールなら大びん1本)以下に。他の合併症を考慮すること
    その他: ビタミン(C、E、B6、B12、葉酸など)やポリフェノールが多い野菜、果物などの食品を多くとる。ただし、果物は糖分も多いので摂取量は1日80~100kcal以内に

第1段階で血清脂質が目標値とならない場合は第2段階に進む

第2段階(病型別食事療法と適正な脂肪酸摂取)

  1. 高コレステロール血症が続く場合
    脂質制限を強化する
  2. コレステロールの摂取量を1日200mg以下に制限する
    飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取比率は3対4対3程度にする
  3. 高中性脂肪血症が続く場合
    アルコールは飲まない
    炭水化物を制限する
    糖分は可能なかぎり制限。できれば1日80~100kcal以内の果物を除き調味料のみでの使用とする
  4. 高コレステロール血症と高中性脂肪血症がともに続く場
    1.と2.で示した食事療法を併用する
  5. 高カイロミクロン血症の場合
    脂肪を15%以下に制限する

(3)適正体重を維持しよう
 肥満も動脈硬化をすすめます。適正体重(身長m×身長m×22)をめざし、かつ維持することが大切です。食事療法と運動療法の併用で、適正体重の維持に努めましょう。
 また、体重は正常でも内臓に脂肪がついていることがあります。へその高さでの腹まわりが男性で85cm、女性で90cm以上は内臓脂肪型肥満の可能性が高くなります。

(4)体を動かす工夫をしよう
 日常生活で体を動かしましょう。中性脂肪を燃やすには、体内に酸素をたくさんとりこむ必要があります。速歩、水泳、サイクリングなど、隣の人と会話ができる程度、少し汗ばむ程度の運動がよく、1日30分以上、週3回以上をめざしましょう。
 高脂血症の人は、自覚症状がなくてもすでに動脈硬化がはじまっていて合併症がある場合も多いので、運動療法をはじめる前に医師の診察を受けましょう。

薬物療法
 3~6カ月のライフスタイルの改善で治療目標に達しなかった場合、薬物療法の開始を考えます。また、すでに心筋梗塞や脳梗塞がある場合は、ライフスタイルの改善と同時に積極的に薬物療法をはじめます。
 病気の型によって使用する薬の種類も異なります。いずれの薬も当然副作用や、他の薬との相互作用がありますので、通常3~4カ月ごとに採血をして、薬の効果と副作用の有無を確認します。
 また、薬を飲んでいるから大丈夫といって生活改善をおろそかにしてはいけません。

●血液透析の器械を使う場合も
 100万人に1人といわれる遣伝性の高コレステロール血症では、薬では治療効果が得られず、血液透析の器械を利用して血液から直接LDLを除去すること(LDLアフェレーシス)が必要となります。

 高脂血症は、放置したり、コントロールが悪ければ恐ろしい合併症を引きおこしますが、ライフスタイルの改善や薬物療法の併用で治療目標が維持できれば、健康な人と変わらない一生をおくれます。
 かかりつけの医療機関と相談しながら、いきいきと健康にくらせるようがんばっていきましよう。

いつでも元気 2003.7 No.141

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