いつでも元気

2003年10月1日

みんいれん半世紀(10) 喘息大学 患者自身が自分の”主治医”に 治らない常識を打ち破った“共同の営み”

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 「医療は患者・住民との共同の営み」という言葉が民医連の方針に現れたのは、一九八四年の第二六回総会でした。病院経営や医療制度の改善までふくむこの 考え方は、民医連の発足当初から貫かれているものですが、とくに慢性疾患がふえるなかで「患者自身が治療の主体」という視点の重要性が増してきました。

 その四年前、一九八〇年からの「喘息大学」は、?共同の営みの医療?の先駆的でユニークな実践のひとつです。 

一四六九人の卒業生

 「これ、中学生からの入会希望のメールなんですよ」と、パソコンを前に石川県喘息友の会(わかば会)のホームページを見せてくれる清水巍医師。ことし三月で定年を迎えましたが、いまも城北病院で診療を続けています。

 清水医師は、一九八〇年五月に、三六人の学生から出発した喘息大学の学長です。喘息大学は、四年間で「喘息をよくし治す」通信教育制。二四年間で一四六九人の卒業生を育ててきました。

 「卒業生のみなさんが、卒業後は成人喘息コンサルタントになるんです」と清水医師。二〇冊に達した卒業論文集には、論文ごとに氏名と連絡先が載っています。「直接、電話でお互いの相談や交流ができます」と卒業生はいいます。

 「患者さん自身が主治医。治すのは患者さん自身なんです。私たち医者や医療スタッフは、それを援助するのが役割です。これが?共同の営みの医療?の原点です」と清水医師はいいます。

国際ガイドラインでも

 喘息大学では、喘息についての知識を身につける教育、鍛錬、そして交流をとおし、患者自らが喘息と向きあいます。四年間の系統的学習で、八〇%の方が入学前よりよくなっています。

 一九九五年、日本アレルギー学会から清水医師に「第一回アストラぜんそく研究奨励助成名誉賞」が贈られま した。清水医師は、「何よりも?共同の営みの医療?が評価されたことがうれしかったですね」と語ります。成人喘息は治らないというのが以前の常識でした。 その常識を打ち破ったのが喘息大学であり、?共同の営み?だったといいます。

 この言葉を裏づけているのが、九二年に出された喘息治療の国際ガイドライン(「喘息患者の診断と管理のための国際委員会報告」)です。冒頭で「もっとも大事なことは、医師と患者のパートナーシップである」と記されました。

”治してもらう”から”してあげる”

 喘息大学第一期生の西村昭さん(66歳)は、42歳のとき喘息を発症しました。当時中学校教諭だった西村さんは、教壇で発作に襲われたことも。

 「僕は患者、医者は治す人って思っていたんですよ、喘息大学に出あうまでは」「四年間で一番変わったの は、よく外に出かけるようになったこと。なにより?治してもらう?から、アドバイスを?してあげる?立場になりました」。西村さんの成人喘息コンサルタン トとしての活動は、現在、日本喘息患者会連絡会会長そして金沢北健康友の会副会長として、健康づくり・まちづくりへとひろがっています。

 鳥取県在住の塚田美登里さん(七期生)は、「城北病院に入院するしか助かる道はない」と家族とともに石川 県に向かいました。そして入学、見違えるほどよくなりました。娘の裕子さん(当時小学三年生)は、第一四回交流会(喘息大学の入学式と卒業式を兼ねた年一 回の交流会)で壇上に立ちました。「大きくなったら、お母さんをよくしてくれた清水先生のようなお医者さんになりたいです」

 「この春、塚田さんからお便りをいただきましてね」とにっこりする清水医師。「ほんとうに医学部に入ったんです」。二〇~二三期生の合同卒業式の壇上に、医学生となった裕子さんの姿がありました。

インターネットでひろがる

 「喘息大学」は、二〇〇三年五月に二四年間の使命を果たし幕を引きました。最後の卒業生を送り出したあとは年一回の、一泊二日で開催する「喘息大学ゼミナール」として再出発。

 ”共同の営み”は、インターネットを使い、新たな形でひろがっています。わかば会のホームページへのアクセス件数は、一日三百件から四百件。これは、喘息関係ではトップクラスです。

 質問に無料で答える「喘息Q&A」のコーナーもあります。清水医師はQ&Aコーナーに寄せられる質問を毎日チェックして必ず返事を書き込みます。清水医師だけでなく、全国各地の成人喘息コンサルタントも、コメントしています。

 「喘息大学をはじめたころは、これで喘息がよくなるという確信はなかったんです」と清水医師。よくなった患者さん、よくならなかった患者さんから、たくさんのことを教えてもらった、と。

 「”共同の営み”は、日本中の喘息患者がよくなり治る大道、人生を豊かにし社会をよくする大道でもあります。これからも患者さんといっしょに歩んでいきたい」

文・大川敦史通信員
写真・酒井猛


わかば会(石川県喘息友の会)
http://homepage1.nifty.com/zensoku/
Eメール zensokutomonokai@nifty.com
住所 〒920-0848
 石川県金沢市京町23-3-103
電話・ファクス 076-252-6746

いつでも元気 2003.10 No.144

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