いつでも元気

2003年11月1日

特集2 心配される「電磁波」と「殺虫剤」の影響

正木健雄さんが語る どうなっている?子どものからだ(4)
「視力不良の子」急増のわけは?

文部科学省は1948年から毎年「学校保健統計調査」の報告書を刊行しています。この統計をみると、近年はむし歯の子、目の悪い子、歯ぐきや歯並びの悪い子が多いというような疾病の問題が浮かび上がります。
 このうち、むし歯の子は世界的な水準からみても非常に多いのですが、徐々にへってきています。ところが、次に多い「視力不良」の子がどんどんふえている という問題があります。その原因を調べていったところ、電磁波と殺虫剤の影響が浮かび上がってきました。
 目は「脳の一部が外へ飛び出した部分」といわれるほど中枢神経に近く、環境変化の影響を受けやすいものです。視力不良の増加は、子どもたちのからだ全 体、なかでも脳が蝕まれていることへの警告だったのかもしれません。

ふえ続ける「視力不良」

 わが国には、61年から裸眼視力をはかった全国的な統計がありました。途中で少し途切れますが、私たちはこの統計と先の数値をグラフにし、「裸眼視力1・0」以下の子を「視力不良」とよんで、その年次推移をみまもってきました。
 すると、図1で明らかなように、74年からこの割合がふえはじめ、現在にいたるまで法則的に年々増加し続けているという傾向がはっきりしてきたのです。 95年から増加が止まったようにみえますが、これはこの年から検査方法が変わったためです。もし以前と同じ方法で検査されていたら、ふえ続けていると予想 されます。(検査方法の変更については、後でふれます)
 数値をみると、11歳の「視力不良」の子は、73年に17・4%だったものが、94年には35・1%へと2倍に増加。15歳の子では、41・0%から 62・0%に増加し、現在ではじつに3人に2人が視力不良という状態になってしまっているのです。
 この顕著な傾向をまえに、私たちは「なぜこうなっているのか」を議論しました。最初に考えられたのは、「マンガの読みすぎ」ではないかということでし た。そこで、日本眼科学会大会のシンポジウムで報告したら、あっさり否定されてしまいました。
 眼科学会では、「なぜ目が悪くなるか」の原因はすでにあきらかになっていたのです。学会のなかの「環境学派」とでも呼ぶべき人たちが動物実験を行ない、 視力不良になる原因は「電磁波」と「殺虫剤」であることを突き止めていたのです。

図1 裸眼視力1.0未満の者の割合の変化(男女平均)
文部科学省『学校保健統計調査報告書』から

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殺虫剤は
「サリン」と同じ作用

 有機リン系殺虫剤やピレスロイド系殺虫剤が蕫神経毒﨟で視力を低下させることは、かなりはっきりしていま した。以前、オウム真理教の人たちがサリンをまいて事件を引きおこしたとき、目が見えなくなった人がたくさんでましたよね。あれは、神経と神経の間の伝達 に関係する物質をサリンが破壊し、レンズの厚さが元に戻らなくなったものです。
 ベトナム戦争でアメリカ軍が使用した「枯葉剤」もそうですが、有機リン系の殺虫剤などはサリンと同じ作用で神経に働きかけるのです。やはり、人体には猛 毒なのだということがわかりますね。

視力不良地図にみる
地域特性は

 子どもたちの健康診断の結果は東京都も毎年、統計を発表していますが、ある年から「むし歯の子」について地域差を地図にして発表しました。23区の子は比較的少なく、市、郡、島しょとなるにつれて多くなる傾向が明らかになっていました。
 現在は視力不良についての調査結果を同じように地図で発表しているのですが、都の地図は色のぬり方に問題があり、地域の特徴を把握できません。私たちは 独自に「偏差値」を求めて、地域差がくっきりと出る地図をつくってみました。これが、図2のような地図です。
 最初に出てきたのは、江東区や千代田区など、東京湾沿いの地域で視力不良が多いという結果でした。その後多くなってきたのが、図2の6歳男子にあるよう に、西多摩地区で増加しているという傾向です。
 これは、かつての江東区「夢の島」のように東京湾のゴミ処理場で殺虫剤が大量に使われているからではないか。その後、日の出町に最終ゴミ処分場ができ、 西多摩地区でも多くなったのではないか。
 西多摩の最終ゴミ処分場では、殺虫剤は使っていないということです。ですがここにくる以前に、どこかで殺虫剤が使われたことは十分に考えられます。
 アメリカなどでは、ゴミを捨てるとすぐに土をかぶせ、またゴミを捨てるとすぐ土をかぶせているそうです。しかし、日本ではゴミの層が一定の厚さになって から土をかぶせるので、ハエなどの虫がわくチャンスが多くなります。そのため、殺虫剤をよけいに使うことになるのです。

図2 どの地域に視力不良が多いか(2000年度/6歳男子)
東京都教育委員会『平成12年度東京都の学校保健統計書』から作成
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殺虫剤の影響はこんな形で

 日体大の大学院生が自分の故郷・山梨県北都留郡の視力不良の地図を作ったところ、いちばん視力不良が多かったのはゴルフ場の周辺と奥多摩の先の丹波山村でした。ゴルフ場といえば、殺虫剤散布で問題視されましたね。やはり、殺虫剤と視力不良の関係性がうかがわれました。
 ところで、図1のグラフをみると、どの年齢も80年のところで一度、とびぬけて視力不良が多くなっています。これはなんだろう、ヒントは「殺虫剤」では ないか、ということで、有機リン系殺虫剤の使用状況などを調べましたが、80年に突出している事実はありませんでした。
 次に、学校給食の食材にふくまれている殺虫剤について調べているところを訪ねてみました。輸入小麦粉にマラチオンなどの残留があることはわかりました が、「80年問題」の解決にはつながりませんでした。
 ふとしたことから、前年の79年の夏はとても暑かったことがわかりました。猛暑でゴキブリなどが大量に発生したのですね。これまで「○○ホイホイ」とい うようなものでゴキブリをとっていたのですが、それでは間に合わないということで、缶入りの殺虫剤が30種類も新しく売り出されたことがわかったのです。
 そんな話から、80年に視力不良が突出して多くなっているのは、やはり殺虫剤の影響だったのではないかと推察できました。

テレビとテレビゲームが

  地図に現われる地域差は「殺虫剤」の影響だろうと考えられますが、では、年をおってふえてきている大きな理由は何なのか。そこで、「電磁波」の影響が浮かび上がってきます。
 図3は、テレビ受信機とファミコンなどテレビゲームの出荷高の、年次推移を示したグラフです。70年代に入りテレビの出荷高が頭打ちになり、85年ごろ

からテレビゲームの出荷高が急増することがわかります。この結果は、視力不良の子が74年あたりからふえはじめ、86年あたりからさらに急増する図1の転換点と、かなり一致しています。
 ところで、図4は小学校と中学校における不登校者の割合の年次推移です。中学生では74年、小学生は87年、それまでの減少傾向から増加に転じているこ とがわかります。こうしたことから、私たちは「不登校」にも電磁波の影響があるのではないかと考えています。
 不登校をたんに心の問題にしてしまわないで、家の中の物理的・化学的な環境によって体調を狂わされた結果でもあるという見方ができるのではないかという ことです。
 もしそうだとすれば、不登校の子が一日中家の中にいれば、状況はさらに悪化することになりますね。少しでも外に出る機会をもてば、体調も変わってくるの ではないかと考えられるのです。

図3 テレビ、TVゲームなどの出荷金額の変化 図4 学校を長期欠席した児童・生徒の割合の変化
文部科学省『学校基本調査』から、ただし2001年度値は「学校基本調査月報」から
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電磁波にはどんな影響が

 電磁波には、低周波と高周波があります。
 低周波は、ほとんどの家電製品や電源、送電線などから出てくるもので、熱をつくる作用のある電磁波です。目にあたれば目が温まってきて、レンズ内のたん ぱく質が固まってきてしまいます。ちょうど、白内障のような状態になるのですね。それで視力が落ちることが、動物実験でわかっています。アメリカでは、電 磁波を弱めた電気毛布でないとぜんぜん売れなくなっているといいます。
 もうひとつ、携帯電話などから出る高周波は、スパッと脳の奥にまで入ってくる電磁波です。そして、脳内にある物質のイオンを狂わせる。たとえば、眠くな るときに出るメラトニンというホルモンがあるのですが、これを破壊して睡眠障害を引きおこしたりするのです。最近の子どもがなかなか寝つけないことの原因 に、この高周波電磁波による睡眠障害があるのではないかと、最近考えられるようになってきています。
 電磁波の影響についてはまだ議論のあるところで、国は対策を示すにいたっていません。しかし、「影響がある」と明確になってから手を打つのでは、遅すぎ ることもあります。イギリスやフランスでは、携帯電話は16歳未満の子には緊急時以外使わせないともききます。一時も早い公的な対策が求められるところで すが、私たちとしては、子どもはなるべく電磁波や殺虫剤から遠ざける予防策が必要ではないかと思います。

めがねをかければいい?

 視力検査についていいますと、以前は数値で出されていた視力検査の結果が、あるときから0・3、0・7、そして1・0が見えるかどうかという大ざっぱなはかり方になり、結果もABCDという記号に変更されてしまっています。
 しかも「視力はめがねで矯正すればいい」という考え方から、「学校での視力検査は、めがねをかけている子は矯正視力だけはかればいい」というのです。
 眼科学会の主流派の意見は「目が悪ければめがねをかければいい」というものだそうです。もはや遠くを見るような生活はしていないのだから、少しぐらい目 が悪くてもかまわない、学校で視力の悪い子がみつかったら、早く眼科医のところへ送ればいい、というわけです。
 図1のグラフで、95年以降、視力不良の子のふえ方が鈍っているのは、この年から「めがねをかけた子は矯正視力」だけの検査になり、統計ではそういう子 を除いた数値が出されているからです。
 このような数値をそのまま出すこと自体、ある意味で犯罪的とさえいえるのではないでしょうか。そういうやり方をしていては、視力不良が増加しているとい う実態が把握できませんし、「なぜ目の悪い子がふえているのか」という原因追究の意識が生まれてきません。述べてきたような、殺虫剤や電磁波が子どものか らだを蝕んでいるという現実がみえてこないのです。
 そこには、これだけ視力不良の子が多くなっているのに、その真因を突き止めて対策をとろうとしない行政と、それをバックアップする一部の医師の責任があ ると思います。
 いずれにしても、わが国の子どもに「視力不良の法則的増加」があるのはたしかです。私たちはその「原因」を突き止め、「増加傾向」をくい止めるために、 今後とも国民的な科学運動をすすめていきたいと考えています。 (つづく)

いつでも元気 2003.11 No.145

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