医療・看護

2016年10月4日

被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから (12)総合的な視点で関わる

 昨年九月に開催した「被ばく相談員セミナー」で、被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。今回は、総合力を生かした生活支援の重要性についてです。

■試されるのは「総合力」

 民医連は普段から「総合力」を大切にしていますが、これは事故や災害の場面でも通用します。事故や災害直後の超急性期では、外傷や低体温などへの対応が求められます。その後は、私たちが普段とりくんでいる総合力を生かしたアプローチが有効です。被災地支援で問われたのは、災害に関する特殊な知識ではなく、総合的な視点でアプローチする力でした。
 身体的、精神的な不調の原因は、いくつもの要因が絡んでいます。表面的には災害や事故に直結した相談のように見えますが、よく聞いていくと元から抱えていた問題が表面化している場合もあります。それを抱えつつなんとか生活していたのが、災害や事故というストレスが加わり調子を崩してしまうのです。
 日本社会が抱えている問題も表面化します。貧困、まちづくり、過疎、産業構造などです。いずれにせよ、問題の理解や解決のためには総合的な視点と多職種の連携が必要で、民医連が大切にしてきた「総合力」が試されます。

【事例】福島の原発事故から二日後、夫と子どもと三人で埼玉に避難した女性が相談に来ました。二人目を妊娠中でした。原発から約四〇kmの地域で暮らしており、避難して夫は職を失いました。夫の実家からは「本当に避難する必要があるのか」と責められました。以前からあった夫婦間の問題が表面化してしまい、かろうじて協力関係にあったのが崩れてしまいました。「もう死んだ方がマシ」と、自暴自棄になっていました。
 「現実的な話を整理しましょう」と、当面の住居、出産場所の確保、支援継続の保障について話しました。また、一時的に抗不安薬を処方もしました。総合的な生活支援、医療支援にとりくむことで、夫婦の協力関係を徐々に回復させることができました。

■中心は生活支援

 連載一〇回目(八月一九日付)では、「こころのケアを意識しすぎない」と言いました。重要な点なので、災害や事故の場面での「こころのケア」について、再度整理しておきます。
 最初に問題になるのは、被災前から精神疾患を抱えていた人の医療継続です。薬の中断で再発・再燃する可能性があるので継続は大切です。しかし、これは専門職が行うもの。みなさんに求められる対応ではありません。この医療継続を除けば、「こころのケア」とは言いつつ、中心は生活支援となり、これがみなさんに求められることです。「安全・安心・安眠」な環境を少しでも早く確保し、生活再建をすることが結果的にこころのケアにつながります。その対応が、その後の不安軽減、ストレス反応や新たな精神疾患の予防になります。
 こころの回復力は個性、個人差がありますが、全ての人に備わっています。まず考えるべきことは、その回復力が発揮されるよう、妨げとなっている要因を早く取り除くことです。これがこころのケアの第一歩になります。
 回復を妨げる要因は環境と生活の中にあります。まず生活支援をしながら、必要に応じてこころへの対応やケアを行っていく。まずは、生活支援という土台がしっかりしていることが大切です。

(民医連新聞 第1629号 2016年10月3日)

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