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2016年10月18日

自衛隊、派遣していいのか― 「平和新聞」 編集長 布施祐仁 悪化する南スーダン情勢 武器使用許す「新任務」

 PKOで南スーダンに派遣されている自衛隊は一一月から戦争法(安保関連法)に基づく「駆け付け警護」「宿営地共同防護」という新任務(※)を与えられる前提で訓練を始めています。派遣先の南スーダンは、「安全」とは到底言えない状況です。ジャーナリストで「平和新聞」編集長の布施祐仁さんに寄稿してもらいました。

 陸上自衛隊は、駆け付け警護などの新任務が付与された場合、それに対応する即応対処チーム(QRF)を部隊内に設ける方針です。九月二〇日付の「朝日新聞」が報じました。
 QRFは、機関銃や小銃で武装した隊員を中心に負傷者の応急処置をする医官や衛生隊員などを加えたチームで、「現場に急行して敵を攻撃し、駆逐できる高い戦闘能力を持たせる」(陸自幹部)といいます。まさに、武装集団との「交戦」を想定した精鋭チームです。
 日本は戦後七一年間、海外で一発の弾も撃たず、一人の戦死者も出さず、一人の外国人も殺さずにきました。いま、その歴史が終わるかどうかの分岐点にきています。

地図

和平合意は破たん

 南スーダンでは、キール大統領と副大統領職を解任されたマシャール氏の権力闘争から二〇一三年一二月に内戦が勃発し、これまでに少なくとも五万人が犠牲となり、国民の五人に一人にあたる約二五〇万人が家を追われています。
 難民の流入など直接的な影響を受ける周辺国や国際社会の圧力もあり、昨年八月、キール大統領とマシャール氏は和平協定に調印しました。今年一月に両者は閣僚ポストの配分で合意。四月末にはマシャール氏が副大統領職に復帰し「国民統一暫定政府」が発足、和平プロセスがすすむかのようにみえました。
 しかし、それも長くは続きませんでした。七月七日、首都ジュバで両者の戦闘が再燃。政府軍は戦車や戦闘ヘリまで出動させてマシャール氏の拠点を攻撃し、双方に数百人規模の死者が出たと報じられています。その後、キール大統領は再びマシャール氏を解任。マシャール氏はキール政権に対する武力抵抗を呼びかける声明を発表するなど、昨年八月の和平合意は事実上、破たんしています。
 七月のジュバでの戦闘中、中国軍の装甲車が砲撃を受け、兵士が二人殉職しました。自衛隊宿営地のすぐ近くでも激しい銃撃戦があり、宿営地にも流れ弾が着弾しました。それでも、日本政府は「南スーダンで武力紛争が発生したとは考えていない」と言い続けて自衛隊派遣を継続するばかりか、交戦リスクの高い新任務まで付与しようとしているのです。

政府軍との交戦も

 国連安保理は八月、ジュバの治安確保と住民保護のためにPKOに四〇〇〇人規模の「地域防護部隊」を増派する決議を採択しました。同部隊には、先制攻撃も含む強力な武力行使権限が与えられ、政府軍との交戦の可能性も排除していません。南スーダン政府はいったん同部隊の受け入れを表明しましたが、その後も政府や与党の幹部が「わが国はPKOを必要としない」「内政干渉は拒否する」などと発言するなど、国連への批判を強めています。政府軍によるPKO要員に対するハラスメントや暴力事件も増加しています。
 このような状況下で自衛隊に「駆け付け警護」や「宿営地の共同防護」といった新任務を付与すれば、自衛隊が政府軍と交戦になる可能性も否定できません。三月にマラカルの国連キャンプ内が武装集団に襲撃され、少なくとも二五人が死亡した事件も、「政府軍の軍服を着用し、銃で武装した集団」(国連報告書)による犯行でした。自衛隊が政府軍と交戦すれば、政府の解釈でも憲法が禁じる武力行使になってしまいます。
 「南スーダン政府の受け入れ合意があるので自衛隊が武力紛争に巻き込まれることはない」という日本政府の「理屈」は、現在の南スーダンでは通用しません。いま日本政府がすべきなのは、新任務の付与ではなく、南スーダンで武力紛争が発生していることを認めてPKO参加五原則に基づき撤退を検討することです。憲法九条を持つ日本は、いま最も緊急性の高い人道支援など、非軍事の分野でさらなる貢献の道を探るべきです。


「駆け付け警護」では、武器の使用が認められ、「宿営地共同防護」は他国軍の部隊と行う。自衛隊が政府軍や反政府武装勢力と戦闘して隊員に危害が及んだり、誤って民間人を撃つ危険が高まると指摘されている。
 自衛隊の内部文書は、「全隊員による個人携行火器の実弾射撃(至近距離射撃)実施」と、自衛隊が市街地で戦闘を行う可能性を認めている。

(民医連新聞 第1630号 2016年10月17日)

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