声明・見解

2003年6月20日

【声明2003.06.20】総合規制改革会議による「医薬品のコンビニ等での販売解禁」、「混合診療の導入」についての見解

2003. 6.20
全日本民主医療機関連合会
会長  肥田 泰

1,総合規制改革会議は何をめざすか
 総合規制改革会議が医療分野での規制緩和策として今回打ち出したものは、(1)混合診療の緩和、(2)医療機関への営利企業参入の規制緩和、(3)医薬 品の小売業での販売規制緩和などである。営利企業の医療分野の参入は、特区での高度医療分野の自由診療に関してのみ参入が認められる方向で、混合診療の解 禁と薬剤販売の規制緩和は、医師会や薬剤師会などの強い反対もあって、「骨太方針第3弾」の提出直前まで決着がもつれ込む状況、と報道されている。

2,医薬品の一般小売店販売解禁について

(1)コンビニなどでの医薬品販売解禁の問題点
 コンビニなど一般小売店舗では99年にドリンク剤などが医薬部外品として15品目の販売が解禁されたが、医薬品は現在も認められていない。総合規制改革 会議では、胃腸薬や風邪薬などを対象にした医薬品の販売規制解禁する事を、今回の規制改革の目玉の1つとしてしようという方向である。 しかし5月30 日、この7年間で市販の風邪薬の副作用として「間質性肺炎」を発症した事例が28件にも及び、市販薬42品目(大多数がテレビCMで名の売れている)にた いして使用上の注意書改定がなされた、との報道がされたばかりである。また、市販の解熱剤による副作用による障害を持った方が16年目にして障害認定され た報道も6月10日に出された。
 薬剤の副作用は個人差が大きく、一般的な説明書きだけでは危険であることが、今回の風邪薬肺炎副作用などをまつまでもなく明瞭である。副作用や国民の健 康と安全の視点から薬剤師会など多くの医療・薬剤関係団体も、一般小売店舗での医薬品販売解禁に反対している。厚労省も「消費者の利便からでなく、生命・ 健康の保護」から反対の姿勢であった。

(2)改革会議での解禁審議は国民の声を踏まえているか
 総合規制改革会議では「アメリカではどこでも薬が売られている」「国民の利便性からどこでも買えるようにするべき」など、医薬品の一般小売り解禁の拡大を当然とした議論が交わされている。
 しかし、わが国での「多種発生している薬害問題」「薬の副作用問題」「副作用の発生とその責任の所在」などは論議されていない。しかも、国民皆保険制度 のないアメリカでの個人責任を前提にした医薬品販売をモデルに議論されているが、日本と同様の公的医療保険制度のもと、医薬品販売を厳密に規制している ヨーロッパ諸国などの多くの国の事例は報告すら求めなかった、という。

(3)医薬品の小売り販売解禁のねらい
 今回の医薬品の小売業拡大のねらいは、将来の医療保険の範囲の縮小・自費払いかに向けた布石である。とくに風邪や胃腸炎など「軽微な疾患」とその薬剤を 保険から外す動きは90年代半ばからあったもので、今回のコンビニなどでの風邪薬や胃腸薬の販売解禁は、公的保険の縮小と薬剤の保険外しの基盤づくりへの 思惑がある。さらに、このことによって製薬メーカーの利益はさらに拡大することになる。

(4)国民のいのちと健康を守る私たちの立場
 国民のいのちと健康・安全・安心の薬剤提供という点からも、国民的な関心事としての喫緊の課題である医療の安全性の確保の点からも、今回の医薬品の小売業販売は断じて認められない。
 安全・安心な医薬品の確保・薬害の根絶という点では、医薬品開発と製造に対する製薬企業の責任と厚生労働省などの厳密な行政対応と規制が必要である。と くに、医薬品行政に関わっては、抗ガン剤として世界でも例のない早さでわが国で認可された「イレッサ」の副作用問題などが最近も起こっており、薬品製造と 販売・使用に関わる安全性確保が、何よりも求められるものである。

3,混合診療の導入と特定療養費拡大について

(1)混合診療の導入の危険な内容
 総合規制改革会議では、混合診療の導入も強く求めている。混合診療とは、公的保険での治療と私的保険や自由診療での治療との混合医療を行うことであるが、現在は歯科などの一部の分野の材料使用などに限定されている。
 混合診療の導入のねらいは、公的保険の範囲の制限による医療費の抑制をすすめることであり、公的医療保険のきく範囲を狭めて、公的保険のきかない部分を 私的民間保険の活用で広げるねらいである。これは医療における営利企業の新たな市場を拡大し、公的医療保険による医療費を抑え、国と企業の負担軽減をめざ すものである。混合診療の導入によって、医療内容の選択と競争がすすむと共に、公的保険の範囲が縮小される。患者が必要な医療を受ようとする場合にも、公 的保険のきかない部分(民間保険・自由診療)がでてくる。
 今回の総合規制改革会議が打ち出した「混合診療の導入」は、医師会等の医療団体も反対している。厚労省も混合診療に否定的な態度といわれるが、「高度先 進医療を行う医療機関での特定療養費の手続きの簡素化」を実施することで、規制改革サイドと合意し、閣議決定する予定である。
 こうした経済的理由・負担能力によって受けられる医療の格差化を広げる混合診療の導入は、「だれもがいつでも、必要な医療が受けられる」制度としての国民皆保険制度を切り崩すものであり、断じて認められるものではない。

(2)特定療養費制度の拡大と2階建て医療
 特定療養費制度は、84年に差額ベットや高度先進医療の利用など患者の選択による「自費負担」医療が導入された。特定療養費制度として「時間外・予約診療」「大病院の初再診」などにも拡大されてきたが、基本的には患者が選択できる項目が原則であった。(12項目)
 しかし、02年の診療報酬改定では医療の本体に持ち込み、180日を超える長期入院患者の入院基本料の一部を特定療養費化し、月額5万前後の患者負担を 導入した。自己負担の困難な低所得者、長期療養を要する重度の患者は、選択の余地なく病院から追い出される仕組みになっている。
 厚労省は混合診療を受け入れない代替え措置として「特定療養費の拡大」を打ち出している。特定療養費を一般医療分野に拡大することは、公的保険と保険外 診療(民間保険や自費)の併用を医療に持ち込み、お金のあるなし・経済力での患者差別がすすみ、経済的な負担に耐えられない患者は必要な医療が保障されな い事態を引き起こすことになる。
 また、特定療養費の拡大は混合診療の導入の事前準備として用意され、公的保険で見る1階部分の医療、公的保険のきかない民間保険・自費でみる2階部分という、医療の2階建て化をすすめる危険が強い。
 私たちは、特定療養費の廃止を要求するものであるが、当面、医療保険での基本給付以外のアメニティー・選択部分のみに限定すること、保険給付と特定療養 費との選択できないものは特定療養費からは外し、保険給付に戻すことを求める。(180日超え入院基本料の特定療養費など)
 公的保険の範囲の見直しなどの国民皆保険制度を形骸化させる点からも、医療分野全体への一般営利企業の参入拡大を規制する点からも、混合診療の導入とともに特定療養費制度の拡大にも強く反対するものである。
 だれもが、いつでも、どこでも、安心して必要な医療が受けられるためには、こうした営利企業が医療分野に参入する動きをやめること、必要な公的な保障と 制度の拡充を強く求めるものである。

以上

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