介護・福祉

2016年11月8日

15 男の介護 千代野さんとの奮闘記 [著・冨田秀信] 徘徊 その1

  私と外出する時、妻はいつも障害者であることと連絡先を書いたプレートをつけている。つけていないのは在宅時となる。そのため、この場合に徘徊をするとヒヤッとする。私の目の届かない場面とはどんな時か?
 3人の子どもたちともまだ一緒に暮らしていた10数年前、長男、次男がそれぞれ夜のバイトで、帰宅が未明や早朝の時。それも夏、クーラーが切れ、寝苦しい深夜や未明に数回起こった。
 彼らが帰宅して、「お母さんがいない」という大声で起き、私の隣で寝ているはずの妻がいないのに気付く。寝巻きのままで、外に出てしまっている。すぐ警察に電話し、子どもたちと手分けして自転車で周囲を探す。早朝、自宅前の東寺の境内で見つかったり、未明に歩いて20分くらいの近鉄の駅で見つかったり、市バス営業所から通報があったりとさまざまな事例があった。
 特に市バスの件はこうだ。早朝、私が出勤し、子どもたちも寝ていた時刻に、本人はひとりで着替えて、表通りのバス停からバスに乗った。京都市内の九条通り、西大路、丸太町、東大路通りを循環する系統バスで1回に要する時間は約1時間。ひと回りして終点の九条車庫で妻だけが座り続けている。不審に思った乗務員が「お客さん終点です。料金を払って降りてください」。もちろん、お金など持っていない。様子が変だと思った乗務員は「とにかく、降りて」。妻はしばらくそのバス停に座っていたが、再び同じ系統のバスに乗ったそうだ。そして約1時間後に同じ光景。ここで営業所が「警察に連絡」と相成った。私は神戸市内の職場に出勤していたので、身柄引き取りは子どもに任せた。2時間以上バスに乗っていて、やはりトイレは失敗していたと聞いた。それでもよく同じ系統のバスに乗ったもんだと不思議でならない。
 それでも、これらの徘徊は2~3時間で解決し、事なきを得たが、この20年間で最大のピンチが訪れる…。


とみた・ひでのぶ…96年4月に倒れた妻・千代野さんの介護と仕事の両立を20年間続けている。神戸の国際ツーリストビューロー勤務。

(民医連新聞 第1631号 2016年11月7日)

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