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2016年11月8日

第13回看護介護活動研究交流集会in新潟 464演題で学び合う4つの教育講演も 分科会 「全国に仲間」「多彩なとりくみ実感」

 1日目の午後と2日目午前は分科会とポスターセッションで演題発表を行いました。医療や介護の実践、職員育成や社会保障運動など、多彩な演題は合わせて464本にのぼりました。

1日目(10月23日)

■安全・安心・質向上を目指す看護・介護の取り組み(第1会場)
 冒頭、新潟大学の宮坂道夫教授が「高齢者終末期医療・介護の場面での意思決定プロセスについて」と題して教育講演を行いました。
 宮坂氏は、「倫理の問題が発生した場合、意思決定に正解はないが、どういう道筋をたどったか、必要なことを検討したか、どんな理由で決定したかが大事」と強調。透析が必要になった腎不全の七八歳の女性の事例にもとづき、「職種や経験にかかわらず、自由に言い合える話し合いの場を設定する」「四分割法を使って問題点を整理する」「ナラティヴ検討シートを使い考え方や思いのずれを解消する方法や対話の計画を考える」の三点について解説しました。

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 演題は一五人が発表しました。東京・みさと南訪問看護ステーションの看護師・曾篠久子さんは、二〇〇四~〇七年、一二~一五年の病院死と在宅死の比較を報告。在宅死は増加傾向、主介護者は夫や息子など男性が増加、訪問看護の平均利用期間は短縮し、がん末期の患者一二人が一カ月以内に死亡、などが分かりました。
 福岡・大手町リハビリテーション病院の介護福祉士・水野浩一さんは、病棟スタッフ全員で食事介助の患者疑似体験をしたとりくみを報告。口腔周囲の汚れが不快、食べ物を口に運ぶペースが速いなどに気づき、ペースを考えた介助やポジショニングの工夫などをするようになったと紹介しました。
 在宅看取り後に遺族を五回訪問し、プロセスレコードを使い記録、分析(滋賀・訪問看護ステーションコスモス)、亡くなった利用者の合同慰霊祭を毎年開催(山形・協立大山診療所)、身体抑制の実態を調査(群馬・前橋協立病院)などが報告されました。
 助言者の吉田真理事は、「どのように死を迎えるかは健康権の一つ。今の実践からさらに踏み込み、背景にある社会的要因にも目を向けてほしい」と期待を語りました。

■患者・利用者の立場に立った看護・介護とチーム医療の実践(第3会場)
 教育講演は、北海道・きたく歯科診療所の荻原宏志所長が「口腔の仕組みと身体との関連 口腔ケアの重要性について」と題して講演。まず虫歯と歯周病のメカニズムを説明し、糖尿病、心疾患など多くの疾患とも深く関連していると指摘しました。入院患者、高齢者の口腔ケアの重要性を語りました。普段の口腔ケアが十分なら、入院時もケアは容易で感染リスクも高くなりません。
 また、民医連歯科がまとめた『歯科酷書』を報告しました。

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 演題発表は一五本。教育講演に関連し、口腔ケアに関するとりくみや、口から食べることの大切さを訴えた事例が多くありました。
 東京・相互歯科の歯科衛生士・相曽訓子さんは、病棟に歯科衛生士を週に三日、配置した試みを報告。肺炎リスクの高い患者の抽出、口腔ケアに加え、医師看護カンファレンスに参加。嚥下チームに所属し、退院後フォローも担います。看護師の口腔ケアへの意識が向上し、ハイリスク患者の口腔衛生状態は改善に向かっています。
 和歌山・松寿苑の市川亜由巳さんは、「好きな物を口から楽しく、美味しく食べてもらう」を第一に考え、胃瘻の利用者を経口摂取に戻した経過を報告。暴言も多く、最初は口腔機能改善に消極的でしたが、一カ月後には「美味しいものを食べたい」と発言するように。入れ歯が入ると多弁に、表情も変わりました。

■人権を守り、ともにたたかう看護・介護、無差別平等の地域包括ケアの実践と課題(第4会場)
 教育講演を新潟・ながおか医療生活協同組合の羽賀正人理事長が「くらしの困難にたちむかう民医連診療所の挑戦」と題して行いました。新潟民医連の歴史を振り返りながら、診療所を中心に地域のコミュニティーセンターとして連携を広げてきた経過を紹介。地域のニーズに応え事業展開し、「ゆりかごから墓場まで」をささえる体制を整えました。羽賀さんは「地域に密着している診療所が力を発揮してほしい」と、各地でとりくむ活動こそが、地域包括ケアにつながると強調しました。

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 発表は一五本。患者、利用者の事情に配慮し、暮らしを守る工夫を凝らした報告が続きました。
 福岡・くるめ医療生協在宅ケアセンターの手島安枝さんは、未成年の子どもが介護を担う「ヤングケアラー」の実態を報告。高校を中退し五〇代の親を介護している一六歳の例では、最初は介入を拒否しましたが、本人の望みを聞き出すなど信頼関係を築きました。介護サービスも増やし、ケアラーの社会復帰にもつなげています。
 東大阪生協病院では、気になる患者がいた時に、全スタッフが迷わず行動できるよう「気になる患者フローチャート」を作成。対応を整理したことで、他部署との連携もすすんだと報告。また、「気になる患者」とはどういう人を指すのかの例示や、朝礼での申し送りでどういった患者を気にかけたらいいのかなど、新人教育にもなったと紹介しました。

2日目(10月24日)

■健康づくりを支援するためのまちづくりとヘルスプロモーション活動/急性期・救急・災害医療の看護と災害時の看護・介護(第4会場)
 一三人が発表。「まちづくり」「ヘルスプロモーション」では、市が県内初の胃がんリスク検診を開始、診療所の受診者数も一・五倍に(新潟・ながおか生協診療所)、「健康で安心して働き続ける職場づくり」を合言葉にノーリフトを導入、腰痛のある職員の二割で痛みが軽減(福岡・戸畑けんわ病院)などの報告がありました。
 宮城・泉病院の看護師・大関麻里妹さんは歯周病と糖尿病の関係に着目し「糖尿病連携手帳」について歯科医師一〇〇人にアンケート。歯科医が糖尿病患者の相談や対応に苦慮していると分かり、「手帳の活用を」と話しました。
 開業医が閉院し、地域の患者が増加したことをきっかけに健康生活調査を実施(石川・小松みなみ診療所)、治療中断を繰り返し第一趾を切断した糖尿病患者の健康権を考察(京都・久世診療所)など、健康権を守るとりくみも。
 災害医療では自治体の防災訓練に学生が参加(大阪・泉州看護専門学校)、職員と共同組織で大規模災害訓練(岡山・倉敷医療生協)など四人が報告しました。

■患者・利用者の立場に立った看護・介護とチーム医療の実践(第6会場)
 一三の演題発表があり、在宅や介護現場での看取り事例が多く報告されました。京都・吉祥院複合型サービス「れんげそう」では、開設から一年半で初めての看取りを経験。一人目で課題と考えた点を職員から聞き取り、結果を二人目の看取りに生かし、職員の心構えができた経験を報告しました。
 介入困難だった男性介護者に視覚的にアプローチすることで正しいケアを実践できた事例(埼玉・医療生協ふじみ野ケアセンター)、施設利用を否定的に捉えていた高齢者に対し、利用前からケアマネジャーと連携して関係を築いた経験(新潟・デイサービスささぶえ)などが報告されました。

■職場づくりと管理の課題/認定・専門看護師の活動(第7会場)
 一二演題の報告がありました。山形・鶴岡協立リハビリテーション病院の看護師・今野真美さんが民医連看護の育成に関連して報告。新人指導で現場の事例を客観的に分析してもらい、机上で学ぶ民医連看護と実践を結びつけています。中堅職員にとっても相互に学び合うきっかけになりました。
 石川・住宅型老人ホームひだまりの津田真理子さんは、職員の民医連運動に対する理解向上のとりくみを報告。同ホームでは、毎日の朝会で「民医連新聞」を五分間読むとりくみを三年間続けたところ、民医連綱領と運動を理解する職員が年々増えていることがアンケートで明らかになっています。

■人権を守り、ともにたたかう看護、介護/無差別平等の地域包括ケアの実践と課題(第5会場)
 沼垂(ぬったり)診療所の関川智子所長が「『怒りは川を遡る』新潟水俣病と新潟民医連」と題して教育講演を行いました。
 新潟水俣病とは、県内を流れる阿賀野川上流で操業していた昭和電工が流した工場排水に含まれていたメチル水銀が原因で住民に起きた公害です。一九六〇年ごろに原因不明の奇病が動物やヒトに発生、六五年四月に新潟勤医協が患者調査にとりくみ、六月には県が「新潟水俣病」を公表。患者の掘り起こしから法廷での証言、宣伝などの運動、補償や水俣病根絶、国や自治体の責任を患者の側で問うてきた新潟民医連の歴史を関川さんは振り返りました。
 また、患者にどう向き合うかについて「謙虚に患者の話を聞くこと、患者が話しやすい雰囲気づくり、患者の話を信じること、現場に行くこと」をあげました。水俣病特措法の申請が締め切られたいまも、水俣病の所見のある人は途切れていません。患者会は全被害者救済を求め、阿賀野川流域住民検診を要望しています。

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 一四本の発表演題がありました。「法人の職員に放射線への意識調査」を発表したのは福島の老健「はなひらの」の介護福祉士・山岸正和さん。食物への不安や子どもへの健康影響の心配はいまも強い一方、日常的に放射能の問題を学ぶ機会の多い保育部門では、「被ばくの不安」は減少傾向にありました。他に、家庭の貧困が子どもの健康を脅かしていた報告(北海道)や、患者・利用者の意思決定を支援する中で見えた社会問題との関係などの発表が多数。地域包括ケアシステムに関わっては、介護保険制度だけでは人間らしい生活が維持できなくなりつつある問題も浮上しました。


分科会テーマ一覧

▼安全・安心・質向上をめざす看護・介護の取り組み
▼患者・利用者の立場に立った看護・介護とチーム医療の実践
▼人権を守り、ともにたたかう看護・介護、無差別平等の地域包括ケアの実践と課題
▼健康づくりを支援するためのまちづくりとヘルスプロモーション活動
▼急性期・救急・災害医療の看護と災害時の看護・介護
▼職場づくりと管理の課題
▼認定・専門看護師の活動


参加者の感想

■福岡・老健くろさき苑 永溝由希さん(介護福祉士)
 初参加で、ポスターセッションで発表しました。自分の事業所のことしか知らなかったので、全国で様々なことにとりくんでいることが実感できました。
■東京・四ツ木診療所 金石厚子さん(ケアマネジャー)
 介護職員の発表が良くなっていますね。ケアマネの演題発表が少ないのが残念。患者・利用者の困難が複合的になり、私たちの「支援」も世帯まるごとの支援になり、多職種との協同が必要です。まず民医連が「ケアマネ」を職種として位置づけることも必要。ぜひ検討してほしい。
■東京・介護老人保健施設志村さつき苑 遠藤寛享さん(介護福祉士)
 全体会の記念講演で当事者の森元さん夫妻の話を聞き、実際の苦労、経験がリアルに感じられました。人間扱いされず、一つの人生がそんなに苦労させられていいのかと思いました。指定演題では、特に若年妊娠についての報告が印象に残りました。家庭環境も大きな要因だと思いますが、やはり日本では性教育が足りていないのだとも思いました。
■千葉健生病院付属まくはり診療所 牧瀬陽子さん(看護師)
 同じ職種の人と交流し、日々の活動の情報交換ができました。全体会では、ハンセン病について、法律がきちんと整備されたことで人間らしく生きることができるようになり、第二の人生が始まったことを知りました。大変な差別に苦労されてきたのに、二人とも笑顔でお話ししていたのがとても印象的でした。

(民医連新聞 第1631号 2016年11月7日)

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