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2016年11月22日

社会と健康 その関係に目をこらす(6) 10代の出産、背景に貧困や家庭環境 ―福岡・千鳥橋病院産科の報告から

 社会と疾病の関係を考えるシリーズ6回目です。前回は子どもの貧困と健康を外来の調査から考察しました。今回は周産期と貧困の関連に目を向けます。第13回看護介護活動研究交流集会では10代で出産する「若年出産」について報告がありました。分析すると、彼女たちの背景には経済的困窮や複雑な家庭環境など社会的な問題が散見されました。報告者の福岡・千鳥橋病院の古田沢子師長(助産師)に聞きました。(土屋結記者)

 これまで千鳥橋病院では、若年出産は少なくても年に数件ありました。しかし、二〇一四年度に二三人になり、その年の出産件数の八・六%を占めました。「なぜこんなに増えたのか、病棟で話題になった」と古田さん。一〇年度までさかのぼり、診療録や助産録から情報を集めました。
 調査項目は、若年出産で問題と考えられるものを抽出。助産制度利用者数、出産年齢、健康保険の種類、婚姻関係、パートナーの状況、初診の妊娠週数、性感染症、妊婦の状況と家庭環境、経済力や育児支援、妊婦の状況―。子を産み育てる上で重要な項目です。

厳しい経済状況

 二〇一〇年四月から一六年三月までに出産した一二七四人のうち、一〇代は七〇人(図1)。うち、経済的に困難で出産費用が出せない人に適用する助産制度の利用は三三人でした。
 出産時の健康保険は、国保が三三%、社保は二四%、生活保護が四三%。生活保護が多いのは同院が助産制度を行う施設であることが関係しています。保険料を滞納、妊娠で仕事を失い生活保護になった、無保険で受診できなかったなどの事例もありました。
 また、七四%が未婚。男性が一八歳以下で法的に結婚できない、妊娠を伝えた後は音信不通、父親が不明、家族が結婚に反対などの理由でした。パートナーも一〇代の妊婦は三八人。妊婦本人とパートナーの就労状況は、正規雇用は本人ではゼロ、パートナーでも一一人と少なく、低所得は明らかでした(図1)。妊婦の家庭環境も複雑でした。ひとり親世帯の妊婦が四五人。きょうだい全て父親が違う、本人や家族に精神疾患や知的問題、乳児院や養護施設の入所歴がある、などです。

図1

目立つ初診の遅れ、性感染

 初診の妊娠週数は、人工中絶可能な二二週を過ぎた妊婦が一三%にも。受診が遅れた理由は、気づかなかった人もいましたが、「出産を迷っていた」「お金が無かった」「無保険」という事例も。妊娠が分かっても相談相手がいなかったり、どうしても産みたいと法的に中絶できなくなるまで黙っていた妊婦もいました。
 性感染症は多く、三〇人がり患。出産までに治さなければ新生児の肺炎リスクが高まるなどの影響があります。治らなければ帝王切開の場合も。その他、風疹は胎児に影響するため特に注意すべき感染症ですが、抗体が無い、あるいは少なかった人が四二人で約六割がかかりやすい状態でした。

悲しい事件、防ぐためにも

 「調査結果を見ると、若年出産と貧困や家庭環境の関わりは大きい」と古田さん。ひとり親世帯で貧困な妊婦や、複雑な家庭環境で産後の支援者は少なく、産み育てるのが難しい事例も多くありました。「今回調査したのは、何とか受診でき病院で関われた事例です。最近多い事件ですが、妊娠しても相談相手がおらず、一人で出産して赤ちゃんを死なせてしまうことが一番怖い」と古田さん。
 今後とりくむべき課題に古田さんがあげたのは、母子を守る地域のネットワークづくり。「出産で入院するのは一週間程度。退院すれば地域に戻ります。産科、小児科、保健師など、地域が母子を見守ることが必要」と古田さん。地域全体で情報を共有し見守ることのできる体制が求められます。
 また、若年出産した場合、母親が退学せざるを得ず、低学歴では安定した仕事に就くのは難しくなります。親の学業や就業の支援も欠かせません。「子どもを保育園に預けて学校に通うための支援もほしい。その後きちんと働けることで、望まない妊娠をくり返すことも防げます」と古田さんは貧困の再生産を防ぐ手だてにもふれました。 

図2

(民医連新聞 第1632号 2016年11月21日)

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