声明・見解

2004年2月4日

【声明2004.02.04】医療事故を取り扱う第三者機関の設置を求める要望書

2004年2月4日
厚生労働大臣
坂口 力 殿

 

医療事故を取り扱う第三者機関の設置を求める要望書

全日本民主医療機関連合会
会長  肥田 泰

 連日、医療事故の発生が報道される中、国民の医療不信が強まると同時に、医療の安全性に対する要求、医療機関への期待感も高まっています。
 大多数の医療機関は事故をなくすために昼夜努力を重ねています。いまや、医療事故問題の解決は全国民的課題です。一つの事故から教訓を学び、同様の事故 を二度と起こさないようにすることが切実に求められています。医療関係者が自浄作用を発揮し、安全性向上のために率先して役割を発揮するとともに、国・自 治体など行政機関あげてとりくむことが必要です。日本では、近年医療事故の公開は少しずつ進んでいますが、多くの重大事故は警察への届け出がなされ、過失 傷害・致死疑いでの捜査が行われています。

 私たち全日本民医連は、2003年4月8日付けで医療事故を調査する第三者機関の創設を要望しました。4 月15日には、厚生労働省「医療に関わる事故情報の取り扱いに関する検討部会」最終報告が出され、2004年度より事故事例の収集・分析を行い、再発防止 策を検討する第三者機関が医療機能評価機構の中に新部署として設置されます。また、2003年度より医療安全支援センターの設置もすすめられています。そ れ自体は必要な事業で前進だと考えますが、国民や医療機関の期待のすべてに応えるものではありません。実際の医療現場で医療従事者・患者が、いま切実に求 めていることは、医療事故が発生した際に、ただちに原因究明のための事故調査を行うこと、そしてその教訓が公開され、被害者の速やかな救済を行うことで す。

 私たちは、以下の機能をもった第三者機関の設置をあらためて要求します。このことは事故を起こした医療機 関をかばったり、その責任をあいまいにしたりするものではなく、医療の安全性・質を向上させ、国民から信頼される医療を実現し、被害を受けた患者・家族を 救済する上で必要であると考えます。

(1) 医療機関・患者双方から相談を受け付ける相談窓口

 事故が発生した際に、医療機関側、被害を受けた患者側双方が相談することができ、客観的な判断を仰げる相談窓口が必要です。
 患者・家族にとっては、治療の過程で「あれは事故ではないか」と疑問をもったとき、身近に公正・中立の立場で相談できる窓口があれば非常に心強く、第三 者のアドバイスは医療機関との信頼関係をつくっていく上でも助けになります。
 医療機関にとっても、医療事故が発生したときに,報告・相談を受け付ける専門の窓口が必要です。その事故が医療過誤によるものであったかどうかにとどま らず、原因究明・再発防止のための調査に速やかにつなげるための報告・相談窓口が求められています。
 厚生労働省は、都道府県、二次医療圏ごとに医療安全センターの設置を進めていますが、医療事故に関わる相談を解決するためには正確な事実調査が不可欠で あり、専門的知識と経験を備えた人的体制が必要です。現状の予算措置をみる限りでは、適切な相談窓口として役割を果たすことは難しいと考えます。医療安全 センターの充実・強化をはかるか、あるいは新たな医療事故相談窓口の設置が必要です。

(2)被害者の救済制度の創設

 医療事故の被害者は、紛争になった場合、現状では民事裁判によって損害賠償を得る以外に救済の道がありません。判決が出るまでには長期間を要します。
 まず、医療事故被害者を救済する制度の検討を要求します。財源としては、国の予算の範囲内だけで考えるのではなく、医療機器メーカーや医療機関からの拠 出金、診療報酬の一部を充てるなどの検討が必要です。すでに副作用被害については、医薬品副作用救済制度があります。
 諸外国では、被害者救済についての先進的な例があります。たとえばスウェーデンでは、医師の資格問題と患者の補償を切り離し、緩やかな基準で補償をする 制度が機能しています。そのため、被害者にとっては裁判に持ち込まずに迅速・簡易に補償が得られるとともに、医療機関もこれに前向きに協力しています。利 用しやすく、被害の実態に見合う制度の検討が必要です。

(3)裁判外での紛争処理機関の設置

 医療事故被害者にとって、医療過誤裁判をたたかっていくことは、精神的にも経済的にも大きな負担となります。被害者側が医療機関の過失責任を立証しなければいけない上、結審まで長期間にわたり、敗訴した場合は多大な費用負担が残ります。
 訴訟に至る前に、事故原因を明らかにし、被害者、医療機関の間を調停し、裁判によらない紛争解決のできる機関が必要です。モデルとしては国内では労働委 員会制度があり、外国の例では、スウェーデンの監視局(HSAN)、オランダの苦情処理委員会など裁判以外で紛争を解決している経験を参考にすべきです。

(4)医療事故を調査し公開し、原因究明・再発防止に役立てる

 医療事故が発生した場合、当事者である医療機関が自主的に事故調査するのは当然ですが、客観的に事故原因 を分析する上では、第三者による調査が不可欠です。一定の地域ごとに調査団を組織し必要な場合に出動する、あるいは事故を起こした医療機関に外部調査委員 を派遣することができる第三者機関が必要です。日本学術会議は、国・都道府県・郡市の単位で事故調査機関をつくることを提言しています。そして調査結果か ら再発防止策を検討し、同様の事故を起こさないようにすることが必要です。死亡事例の場合には、積極的に剖検が行えるような体制づくりも必要です。

 医療の安全性・質を高め、国民の医療に対する信頼をとりもどしていくために、以上述べた機能をもつ第三者 機関の検討は急務であると考えます。運営のための財源や人選について、特定の団体や企業の影響を受けず、患者の声も反映できる公正・中立な機関を国や自治 体が責任をもって確立することが必要です。
 第三者機関が役割を発揮するために、制度を支える人材の育成が急がれます。医療安全を専門分野とする医療従事者、医療事故問題に詳しい法律家の育成など です。
 そして、第三者機関の調査と警察の捜査との関連を検討する必要があります。警察の捜査は犯罪の有無、個人責任を問うものであり、第三者機関の調査とは目 的が異なります。警察の捜査は第三者機関の調査を尊重してなされるべきです。

 医療に関わる各分野から、「第三者機関」の設置を望む声が高まっています。厚生労働省がイニシアチブを発揮し、早期実現のために力を尽くされることを要 望いたします。

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ