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2016年12月29日

トランプでどうなる日本

猿田佐世(さるた・さよ) 1977年、東京都生まれ。2002年に弁護士登録。08年にコロンビア大学ロースクールで法学修士号を取得、09年にアメリカ・ニューヨーク州弁護士登録。13年にNDを設立。12年と14年に稲嶺進名護市長の訪米行動を企画し運営を担当

猿田佐世(さるた・さよ) 1977年、東京都生まれ。2002年に弁護士登録。08年にコロンビア大学ロースクールで法学修士号を取得、09年にアメリカ・ニューヨーク州弁護士登録。13年にNDを設立。12年と14年に稲嶺進名護市長の訪米行動を企画し運営を担当

 次期アメリカ大統領にドナルド・トランプ氏が選出された。
 移民や女性に対して差別的な発言を繰り返してきた同氏の選出は、「史上最大の番狂わせ」と報道された。
 トランプ大統領でTPPは、日米関係はどう変わるのか──。
 ワシントンでの経験をもとにアメリカ議会で有力者に働きかけ、シンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND)事務局長として、日本の政治家の訪米行動をコーディネートする猿田佐世さん(弁護士)に聞いた。(編集部)

 トランプ氏の勝利は、大方の予想に反した結果です。アメリカ社会のどのような背景が影響したのでしょうか。

 ──今回の結果は、アメリカ社会の行き詰まりのなかで「トランプ氏なら何かを変えてくれるかも」という期待の表れではないかと思います。
 日本人がアメリカに抱くイメージは、さまざまな国の移民を受け入れ、自由なカルチャーのある「自由と民主主義の国」ではないでしょうか。しかし実際に住んでみて、人種差別が根強く、貧富の差も大きい現実を実感しました。

 トランプ氏が公言していた「TPP離脱」についてはどうなるでしょうか。

 ──トランプ氏は、国内経済に影響を与える公約を最優先で進めていくでしょう。TPP離脱は選挙公約の肝で、国内に大きく影響を与える政策ですから、実行する優先順位はかなり高い。
 ただ、TPPを離脱しても日米2国間の貿易交渉で日本に厳しい条件を突きつけてくる可能性もあり、安心できません。

 日本に核兵器保持をすすめたり、在日米軍駐留経費の全額負担を求める発言もありました。

 ──トランプ氏は、まだ何も具体的な対アジア政策を考えていないと思います。先ほども述べたように彼は国内政策で選ばれたので、海外政策は二の次。海外政策の中でも、優先されるのはテロ対策にかかわる中東であって、アジアは優先順位の低いテーマです。さらにトランプ陣営にアジアに精通する人物は見事に1人もいないので、かなり後発順位になるだろうと思います。
 在日米軍駐留経費のうち、現状で既に7割を日本が拠出している。トランプ氏は残りの3割分も負担するように述べてきましたが、安倍首相はこれを断れるのか。「1割分の負担増で」と妥協する可能性もあります。

 ということは、安全保障に関して日米関係はこれまでと大きく変わらないのでしょうか?

 ──日米外交をずっと牛耳ってきた人たちが、変えさせないでしょうね。
 私の聞き取り調査では、ワシントンで対日政策に影響を与えているのは5人から30人くらい。ワシントンとは、日本でいうと霞ヶ関と永田町しかない政治関係者だけで出来上がっているような町で、ここにいる彼らによってすべての対日政策が決まります。
 ワシントンで語られる「日本」には多様性がありません。2009年に当時の鳩山首相が沖縄・普天間飛行場の移設先を「国外、最低でも県外」と打ち出したとき、民主党には首相の考えをアメリカに伝える手段がなかったために実現できなかった。民主党政権の声を代弁する人は、ワシントンには皆無だったのです。
 現在でも、安倍政権が推進している声だけが日本の声として届いていて、安保法制反対の声などは伝わっていません。
 トランプ当選という“激震”が起きたのに、安倍政権には全く独自の発想がありません。安倍首相は大統領就任前にトランプ氏のところに飛んで行って既存の日米関係にしがみつくのみで、この姿勢は非常に残念です。
 トランプ氏が「在日米軍駐留経費の残りの分も日本から」と言うのなら、例えば「では、3割分の基地を減らしたらどうですか。辺野古は建設途中でまだ基地ができていないのだから、建設を中止しませんか」と、日本側から交渉してみてはどうかと思いますね。実際にトランプ氏は「在日米軍の撤退」にも言及していますから。

 今後は日本の野党も、NDのような活動が重要になるのではないでしょうか。

 ──私たちNDは、対日政策に携わるワシントンの人たちにアプローチし、日本の多様な声を伝えて政治を変え、新しい日米関係を切り開こうと活動をしています。
 日本のリベラルと言われる方たちは、アメリカという国を「変化を求めて働きかける」対象としても、「手をつないで何か行動を起こそう」という対象としても、見ていないのが現状ではないでしょうか。
 アメリカに日本の多様な声を届け、直接話をし、味方を見つけて日米外交を変えていく必要があります。


genki303_15_01 著書紹介
『新しい日米外交を切り拓く』
留学中にワシントンで暮らした経験を持つ猿田さんは、日米外交のゆがみに気づき、多様な日本の声を届けるためにロビイング(政府や議員などに働きかけて政治的決定に影響を及ぼそうとする提言活動)を開始する。日本政府や大企業が、米シンクタンクやロビイストに資金を提供して自らの意向を「アメリカの声」として発信させ、日本で政策決定につなげている実態を紹介。「外交を可視化して、多様な声を届ける取り組みを広げよう」と呼びかける。
発行=集英社クリエイティブ
発売=集英社/定価1400円+税

 

 新外交イニシアティブ(ND)とは
日米、東アジア各国において情報の収集と発信、各国政府への政策提言のサポート等を通じて、議員外交、知識人外交、民間経済外交、市民社会外交といった新しい外交を推進するシンクタンク。2013年8月に発足。会員として活動を支える人を募集中

いつでも元気 2017.1 No.303

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