健康・病気・薬

2017年1月24日

社会と健康 その関係に目をこらす(8) アルコールによる肝硬変死亡と、背景を探る ―――沖縄協同病院

 健康と社会の関係について考える連載の八回目は、肝硬変による死亡率と飲酒の関係について、沖縄協同病院(那覇市、二八〇床)の仲田精伸医師の考察です。全日本民医連が昨年一二月に開いた拡大自主研究会代表者会議でも発表しました。

(丸山聡子記者)

 きっかけは、二〇〇九年六月に沖縄協同病院が移転したことでした。病棟の医師から、「アルコール依存症や疑いの人、アルコールの関係が深い疾患が増えている」との報告が相次いだのです。
 新病院がある地域は那覇市でも古くからある集落で、低所得の人が多いのが特徴。新興住宅地にあった旧病院とは川ひとつ隔てただけですが、患者層の変化は、外来でも感じていたと言います。「入院を渋る人が多い」「定期通院する慢性疾患患者で二週間ごとに受診する人はまれ。一カ月ごとが少しいて、二カ月に一回の受診が大半」で、いずれも理由は「お金がかかるから」というものです。

■30年で急激に悪化

 沖縄は“長寿県”の印象がありますが、一九九〇年には男性の平均寿命が全国一位から五位の県に。それどころか、四九歳以下の男性の死亡率は全国ワースト一位に。「高齢者は長寿、若年は短命、が沖縄の特徴。アルコールの影響も大きいと考えた」と仲田さん。
 二〇一〇年には、沖縄県の男性の肝疾患死亡率は、人口一〇万人あたり一七・九人で全国ワースト一位、女性でも五・八人でワースト二位。三〇年前の一九八〇年の男性がベスト二位、女性は二一位から一気に転落、悪化しています。全国的には肝疾患による死亡は減っているのに、沖縄の男性では増加傾向、女性も微減にとどまっているためです。
 肝疾患の成因は(1)ウイルス性、(2)アルコール性、(3)肥満・脂肪性、(4)自己免疫性、(5)その他―です。アルコール性肝疾患の死亡率を見ると、沖縄県は男女ともにワースト一位で全国平均の約二倍です()。


 アルコール性肝疾患死亡率ワースト3
人口10万人あたり (20歳~)

     男性        女性
1位 沖縄県(16.5人) 1位 沖縄県(1.7人)
2位 鳥取県(12.3人) 2位 東京都(1.35人)
3位 東京都(12.1人) 3位 徳島県(1.34人)

47位 奈良県(5.5人)  47位 奈良県(0.49人)
  全国平均 7.70人    全国平均 0.86人
※2009~11年人口動態統計より仲田さんらが作成

■アルコールとの関係深く

 沖縄協同病院の移転後に入院した肝硬変患者一七三人の成因を分析しました。結果は図1の通り。全国平均と比べ、男女ともウイルス性肝硬変は少なく、男性ではアルコール性肝疾患、女性では非アルコール性脂肪性肝疾患が、それぞれ全国平均の約二倍でした。
 この傾向は琉球大第一内科でも同様で、二つの結果から、沖縄県は全国に比べて、男性はアルコール性、女性は非アルコール性が多い、と分かりました。
 次に、国税庁の統計から沖縄県の年間アルコール消費量も調査しました。一九七二年まで米軍占領下にあった沖縄では、本土復帰に伴う特別措置の一つとして、酒税が軽減されています(泡盛で三五%、その他二〇%軽減)。そのため統計は沖縄県を除いたデータでしたが、軽減率をもとに再計算、酒量を導き出しました。
 その結果、成人一人あたりの飲酒量は全国平均で年間七・二リットルなのに対し、沖縄県は一一・八リットルと一・六倍で全国一位でした(二〇一〇年・図2)。

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■無職の死亡率は就業の10倍

 「アルコール摂取量の多さには、沖縄の“人が集まれば飲む”文化も影響しているとみられます。酒税軽減により安く手に入る泡盛は、焼酎よりもアルコール度数が高い(三五度程度)、という背景も。人は、失業や経済的な不安、仕事や家族の悩みなど、前途が暗い時に酒に頼りがちです。“暗くなる”要因が本県では多いという社会的環境にも目を向ける必要があります。ただ『酒を飲むな』と言うだけでは解決にはならず、背景を分析して必要な対策をとることが重要です」と強調します。
 仲田さんは、肝疾患死亡率と密接な関係がある社会的な要因に「無職率」「アルコール消費量」「肥満率」「ワーキングプア率」を挙げます。同県の失業率は全国最悪で、県民一人あたり所得も常に全国ワースト三位圏内。同院で肝疾患で死亡した六〇歳未満の人のうち、六割超が「無職者」でした。肝疾患の死亡率は、男性就業者で人口一〇万人当たり四・八人ですが、無職者ではその一〇倍超の五三・三人。同じ比較で、女性でも無職者は就業者の三・七倍の死亡率でした(厚労省調査)。
 「疾患の要因は一つではなく、地域性や生活習慣、働き方も関係します。対策も一つではない。民医連のネットワークを生かし、脳卒中や自殺、肝硬変などについての成因別分析を各地で行えば、多くのことが分かるのでは」と仲田さんは話しています。

(民医連新聞 第1636号 2017年1月23日)

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