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2017年2月7日

長野県民医連が生活保護患者さんの実態調査 “受給者の「尊厳」傷ついている” 調査3度目でより深刻に

  長野県民医連が生活保護患者さんの生活実態調査のまとめを1月17日に発表しました。同県連が行う調査は3回目になりますが、今回は住宅扶助や冬季加算の削減が行われて以降初めてのもの。1日3食とれない人が半数近く、社会生活からも孤立し、暮らしはこれまで以上に厳しくなっていました。この会見と時を同じくして、小田原市(神奈川県)で生活保護課の職員が、受給者を侮蔑し威圧する文言入りのジャンパーを集団で着用していたことが判明。この調査からあらためて「生活保護」を考えます。(木下直子記者)

調査の概要

 長野県民医連に加盟する事業所の患者で生活保護を受給中の一八〇人から、職員が聞き取りました。調査の実施期間は、二〇一六年一~四月末日の四カ月間。
 世帯構成は、単身が一二四世帯で多数。収入が生活保護だけ、という人は半数あまり(九三人)で、残り半数は老齢年金や障害者年金、就労収入を補う形で受給していました。
 糖尿病や高血圧など、疾患を複数抱え、六割超が月一回以上通院中。なお、生活保護を申請したきっかけを自由記載欄から拾うと、「病気」が一〇四人と圧倒的。稼働年齢層は病気で働けなくなったこと、高齢者は低年金や無年金の中、なんとか暮らしていたが、病気で医療費が払えなくなったり、貯蓄が尽きた例が多数。受給して「死なずにすんだ」「病院にかかれる」など、いのちがつながった安堵の声が、受給までの過酷な状態を反映していました。また、家族の介護で仕事を辞めた、いわゆる「介護離職」も八人居ました。

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家賃扶助・冬季加算削減で

 二〇一三年の生活扶助費削減を皮切りに、この間生活保護制度の改悪が連続しました(下)。今回の調査は「家賃扶助」と、冬の暖房費に対する「冬季加算」が削減されて初めてのものでした。
 家賃は「三万円以下」の人が約三割。公営住宅が思いのほか少数でした。調査を担当した同県連の湯浅ちなみ事務局次長は、「公営住宅が老朽化で建て替えがすすんでいますが、同時に家賃も上がるため、生活保護の人が入れず、古い民間賃貸に入っています」と指摘します。また二割強が扶助の基準額を超える家賃でした。転居すると通院や通学に支障が出るなどの理由がありました。
 冬季加算の削減には暖房費や他の費用を切り詰めて対応していました。寒冷地では、いのちに関わります。にも関わらず冬季加算額が減ることを事前に福祉事務所から聞いた人は三九%で、「報道で知った」、「知らなかった」あわせて四八%、生活保護課が受給者たちに最低限の連絡すらしていない可能性もうかがえました。

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食事―回数も内容も抑え

 食事に関わる項目にも気がかりな点が多数(資料上)。三五%が「満足する食事ができていない」と回答しています。一日二食以下の人は三割近く。回数を抑えるだけでなく、野草を採ったりスーパーで野菜くずを貰うなど空腹を満たすために「工夫」している状態でした。調査前日の「食事内容」も、治療中の疾患に配慮する余裕もない献立が散見されました。

教養・理容は前回より悪化

 前回調査(一四年)に比べ、明らかに悪かったのが教養・娯楽と理美容にかける費用。教養・娯楽の「月ゼロ円」は前回の三〇%から三八%に、理美容は「年ゼロ回」が同一〇%から二六%に上昇。
 地域行事には「全く参加しない」が八八%、外出頻度も四人に一人が「月〇~五回」と回答。会費を出せない、生活保護への世間の目が気になる、そもそも連絡が来ない、などの理由です。冠婚葬祭へも「全く参加しない」が六〇%と最多、孤立を深めています。

生保は憲法に基づく制度だ

 長野県民医連の岩須靖弘事務局長は、調査全体の特徴を前回調査であげた四点にさらに一点を加えて、次のようにまとめました。
 (1)一部の政治家や報道の生活保護バッシングで、圧倒的多数の受給者が尊厳も心も傷つきながら暮らしている、(2)受給のきっかけは病気や失業など複合的で、自己責任ではなく、誰にも起こりうる、(3)「健康で文化的」とはいえない生活実態、(4)多くの受給者は社会的な孤立状況で、健康悪化や生きる望みの喪失につながっている、(5)前回の調査より事態が深刻になった。そして、こうした事態の核心は「『いのちと暮らし』の危機に対処すべき社会保障制度が、拡充と正反対の方向で改変されていることだ」と指摘しました。
 会見当日、小田原市の生活保護課で発覚した問題に岩須事務局長は、「『事件は氷山の一角』という話も。問題自体は許されないこと。憲法二五条の『解釈改憲』ともいえる政府の今の姿勢が、自治体の担当者に反映しているのでは?」。その上で、「生活保護が憲法に基づく制度でないのか、と世に問い、国民的な運動にしていく必要がある。調査結果を持ち、自治体へも働きかけたい」と語っています。


 小田原市生活保護課の「保護なめんな」ジャンパー事件

 神奈川県小田原市の生活保護担当職員らが、受給者を威圧する文言をプリントしたジャンパーを作っていました。文言は英文で「我々は正義。不正を見つけたら追及する。私たちをだまして不正によって利益を得ようとするなら、彼らはクズだ」。07年以降、現担当課長を含め職員64人が購入、ケース訪問にも着用。同市市長は発表時に謝罪。またケースワーカーの増員や検証委員会の設置、職員研修の実施などを表明しています。

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 全日本民医連は、同月18日に抗議声明を発表。不正は受給者全体の0.5%。「受給者をはじめから不正受給者扱いし、集団で威嚇する行為は許されない」と指摘。「生活保護は日本国憲法第25条に基づき、生活保護法で国民に保障された権利。憲法を尊重し擁護する義務を負う公務員がそれに反し、しかも受給者を支援する担当職員が、組織的に人権を侵害するとは言語道断」と抗議しています。
 この問題では全国生活保護問題対策全国会議が小田原市に改善を申し入れたほか、全国生活と健康を守る会連合会や職能団体の日本社会福祉士会も「声明」を発表。福祉士会は今回の問題は小田原市の問題ではなく、全国の福祉事務所の信頼性と専門性が問われる課題であり、「最後の砦」の生活保護制度が、専門性に裏打ちされ適切に運用されるよう関係行政機関に要望する、とのべています。

(民医連新聞 第1637号 2017年2月6日)

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