介護・福祉

2017年2月7日

フォーカス 私たちの実践 患者疑似体験 福岡・大手町リハビリテーション病院 認知症患者さんの意思は? 職員が“介助される側“体験

 福岡・大手町リハビリテーション病院八階病棟では、食事介助の場面に絞って全職員が患者疑似体験をしました。近年、認知症患者への倫理的な配慮は不可欠です。学習会を重ねてはいるものの、実践できているか? と日常業務を振り返り、患者体験から見えてきたものとは―。第一三回看護介護活動交流研究集会で、介護福祉士の水野浩一さんが報告しました。

 同院の回復期病床は一〇九床。法人内の大手町病院や近隣の急性期病院から、リハビリ目的で入院する患者が多いのが特徴です。
 八階病棟では、看護・介護の職員三一人で認知症患者への倫理的配慮の学習会を重ねてきました。一方で、実際の介助の場面では課題も。特に食事介助では、「患者が崩れた姿勢のまま食べている」「スタッフの声かけがない」「介助のペースが速い」「食後に口の周りを拭くが、拭き残しが乾燥してカピカピに白くなっている」「薬をおかゆに混ぜて飲ませている」などが気になっていました。
 そこで、職場内の「認知症グループ」で食事介助を議論。「患者さんは、食事介助を受けながらどんなことを感じているのか? 介助される側を体験したら、分かることがあるのでは?」と提案があり、疑似体験にとりくみました。

立った姿に「圧迫感」

 体験前に全職員にアンケートを実施。質問項目は、「倫理的配慮をして看護・介護ができているか?」「倫理として気をつけたいこと、気になることは」「自分が認知症患者だったら、どのような対応が嬉しいか」などです。
 倫理的配慮をした看護・介護を「できていない」「どちらとも言えない」と四割超が回答。「自分が認知症だったら、どのような対応が嬉しいか」の質問に半数以上が「優しい対応、声かけ、言葉づかい」と答えました(表)。
 疑似体験では全員が患者役になりました。患者役は車いすに座り、介助者は立って介助するため、「圧迫感がある」の声が多数。「おかゆが熱かった」「ペースが速い」「おかゆ、味噌汁、全てのおかずを混ぜられて、おいしくない」などの意見が出ました。
 介助側にも発見がありました。「患者さんの介助より緊張し、ひと口の量や熱さなど、いつもより気を遣った。普段の介助では次の業務が気になったり、一人で複数の患者を見たり、一人ひとりに配慮できていないと気づいた」。
 体験後は、食事介助の際の配慮について改めて学習しました。

患者の意思に耳を傾け

 体験と学習会後に再びアンケートをとると、「自分に合ったペースで口に運んでほしい」「口の周りをスプーンでなで回してほしくない。べたべたして不快」「一口の量がまちまちだったり、熱かったりして、食べにくい」などの感想が寄せられました。
 体験前と同じ「自分が認知症だったら…」の質問には、一回目と同様の答えのほかに「したいことを自由にさせてほしい、無理強いしないでほしい」「自分のペースに合わせてほしい」などの意見が新たに寄せられました。
 体験後の食事介助では、おかずや味噌汁、薬をご飯に混ぜることがなくなりました。職員同士の声かけも頻繁になり、「熱かったり食べにくいと口の動きが止まる」「ゴクンと飲み込んだら次、では速い。ひと呼吸おくと自分から口を開けてくれる」など、患者さんの様子を観察し、情報交換するようになりました。
 一方で、「優しく対応するように努力はしているが、できていないことがある」「時間がなくて、ほかの仕事の片手間になる」という悩みも。患者さんの状態によって離床時間をずらすなど工夫をしていますが、まだ模索中です。

*   *

 体験を通して、認知症で意思表示は難しくても、一人ひとり食べる順番や食べ方、ペースなど好みがあり、それをくみ取る努力をしながら、個々人に合った介助をしようと、職員一人ひとりが努力するようになりました。たとえば、以前は食事がすすまず「プリンなら食べる」という患者さんを「困った」「どう食べさせるか」と見ていましたが、最初にプリンを食べるように変えてみると、徐々に自分から他のものも食べるようになったケースもありました。
 今後も患者さんの意思、尊厳を尊重した介助ができるように、とりくみを工夫したいと思います。


▼アンケート(1回目)
Q.倫理的配慮をして看護・介護ができていますか?
 YES 17人(56.6%)、NO 4人(13.3%)
Q.倫理として気をつけたいこと、気になること(3つ)
 言葉づかい(20人)、プライバシー(8人)、傾聴(7人)など
Q.自分が認知症だったらどのような対応が嬉しいですか?
 優しい対応、優しい声かけ、優しい言葉づかい(21人)、話を聞く、一緒に話をする(9人)、楽しく安全に過ごせる環境(4人)

▼アンケート(2回目)
Q.食事介助体験や学習会で学び、患者介助で気をつけるようになったことは?
 患者のペースに合わせる(9人)、口の周りをきれいにする(6人)、混ぜない、ひと口量を考える(6人)、声かけ、雰囲気づくり(4人)
Q.自分が認知症だったらどのような対応が嬉しいですか?
 丁寧な対応、優しく笑顔で対応(13人)、話を聞く、声かけ、無視しない(12人)、したいことを自由にさせてほしい、無理強いしない(6人)、自分のペースに合わせる(4人)

(民医連新聞 第1637号 2017年2月6日)

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