介護・福祉

2017年2月7日

20 男の介護 千代野さんとの奮闘記 [著・富田秀信] 海を渡る

  妻が倒れてからこれまで、2007年に心不全で2カ月入院した以外は、大きな病気もなく過ごしてきた。なにせ心臓病なので、風邪が一番の大敵で、冬は細心の注意を払った。
 私はアジアではベトナムによく仕事で行く。現地の友人は私の身の上を少し聞いていて、「トミタが仕事でベトナムに来ている時、奥さんはどうしているのか?」とたずねてきた。ベトナムでは大家族での家族介護が一般的で、もちろん日本のようなデイサービスやショートステイなどの社会資源の確立はまだまだ先の話だ。
 私は日本の福祉がベトナムより発達しているとはいえ、「男性介護」、「若年認知症」は日本でも理解はこれからだ、と説明する。ベトナム人は日本に大変興味を持っていて、日本でも未知の課題については、必死でメモを取り勉強する。
 妻も、2007年の病気以降ドクターストップがかかるまで、空の旅を何度かしてきた。2003年にそんな若年認知症の妻をベトナムのホーチミン市に連れて行き、大歓迎された。戦争証跡博物館のヴァン館長、「ベトちゃんドクちゃん」の主治医だったタン先生(いずれも女性)。天真爛漫の妻が歌う「さくらさくら」そして、「自由ベトナム行進曲」。なにより、日本人の口に合うベトナムの食事。なんでもおいしく完食するので喜ばれた。
 宴会の最後に私は言った。「ベトナムも、日本の新幹線の技術を学ぶまでは良いが、原発はダメです。そんな技術輸入より、ベトナムは日本の福祉を学んで下さい」と。
 かくして若年認知症患者は、海を渡った。


とみた・ひでのぶ…96年4月に倒れた妻・千代野さんの介護と仕事の両立を20年間続けている。神戸の国際ツーリストビューロー勤務

(民医連新聞 第1637号 2017年2月6日)

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