いつでも元気

2004年4月1日

ベトナムのリハビリ事業支援へ この子に何をしてくれますか? 切実な問いかけから発展して

 

圧倒的に多い二次障害

尾崎 望

京都民医連かみの診療所所長

 一九九五年末に訪問して以来、ほぼ毎年のように通うようになったベトナム。当初は、ベトナム戦争で米軍が 使った枯葉剤(ダイオキシン)と、ベトナムに多い先天性障害児の関連を調べたいというのが目的でした。しかし犯人ははっきりしていると思えるのに、証拠を つかむのはじつに困難です。

調査だけではすまなくなった

 なぜ被害者側が証明しなくてはならないのだと腹の底から憤りを感じつつ、回を重ねるごとに私たちは、調査だけではすまなくなってしまいました。障害をもつ子どもの親たちの「あなたはこの子に何をしてくれますか」という切実な問いかけに直面せざるをえなかったからです。
 六回目となった〇二年からは、「ベトナムの枯葉剤を調査し障害者の医療とリハビリテーションを支援する会」として、京都民医連の医師が中心となり具体的な支援に踏み出しました。
 大きな変化は理学療法士が同行したことです。タイニン省が行なう地域健康実態調査と地域リハビリテーション計画に協力する形で、機能障害がある子どもへのリハビリ訓練を指導しました。
 子どもたちのこわばった体が、理学療法士の手の中で柔らかくほどけていくのを、現地の医療スタッフと親たちは、驚きと非常な熱心さで見つめていました。

10万人中5千人に障害が

 そして昨年。同じタイニン省のズンミンチャウ県を訪問。前回のチャンバイ県での到達を踏まえて、行政がすすめる地域リハビリ事業の一環としての検診に協力しました。メンバーも広がり、愛媛、岡山、大阪などからも医師、看護師、理学療法士が参加しました。
 目的は(1)ズンミンチャウ県の障害実態をつかむ、(2)一人ひとりに在宅でも可能なリハビリテーションの指導を行なう、(3)現地の医療スタッフと交 流し、今後の支援の具体化について話しあう、でした。
 ホーチミン空港には「平和村」のトゥン所長が出迎えてくれました。ホテルに向かう車中で、さっそく今回の調査地域の概要をききました。
 ズンミンチャウ県はベトナム戦争をたたかった民族解放戦線発祥の地で、歴戦の勇者を多数輩出しているそうです。それだけに戦闘も激しく、枯葉剤をふくめ て多大な被害が残されているとのこと。面積約六百平方礰、京都市くらいの土地に約一〇万人が住み、うち約五千人(5%)が障害を持っています。内訳は肢体 不自由35%、視力障害20%、聴力障害12%などということでした。

役に立つノウハウを伝えたい

 三日間、ベトナムスタッフといっしょに約四百人の検診をしました。
 診察した四分の一が先天性の障害で、四分の三は脳血管障害、ポリオ後遺症、加齢にともなう骨変形疾患、そして交通事故や戦争による外傷の後遺症でした。 三〇歳代で脳血管障害を発症している人もいました。病気になったあと医療やリハビリが十分されたケースはほとんどなく、そのために障害をもったり、さらに 二次的な変形をおこしたりという人が圧倒的に多いのです。
 しかしスタッフや施設が不十分ななかでも、地域の人たちを教育し、いまある資源と力を利用して、やれることをしていこうという姿勢は強く感じました。
 必要な食生活の改善、妊娠中からの母と子の保健知識、在宅で可能なリハビリ、慢性疾患の定期的な管理など、私たちがつくりあげてきたノウハウが、おそら くベトナムでも、とても役立つのではと思います。ベトナムの人びとの努力を基本に、こうしたアドバイスもしていかなければならないと思います。
 「リハビリ施設を今後いっそう拡充していきたい」(トゥン所長)という願いを、読者の皆さんにも協力いただいて実現させていきたいと考えています。

お母さんにもアドバイス

大城春美

京都民医連中央病院・理学療法士

 リハビリ分野は理学療法士、作業療法士あわせて五人(前回二人)が参加しました。ほとんど初顔合わせですが、イキはたちまちぴったりでした。
 二日目から一区画があてられ、リハビリが必要と診断されたらそこで指導できるようになりました。一人ひとりの身体機能を評価し、生活状況をきき、問題点 をひきだし、改善のためにはどうするか、指導したことを定着させるにはどうするか…スタッフ自身が考えながら、指導することができました。
 障害児の自宅訪問も一二件行ないました。上の写真の女の子は八歳。両下肢のマヒが強く、出産時のトラブルが原因の脳性マヒと思われます。一人っ子でとて も大事にされ、いろんな器具をもっていました。買ったばかりの松葉杖もあり、高さを合わせ、もち方も指導しました。
 子どもが多いからとシャボン玉や風船を用意していったのが役立ち、シャボン玉遊びでリラックス。お母さんには、歩くことも大事だけれどなるべく手を使わ せてくださいとアドバイスしました。
 この子は学校にいっていましたが、重症でも通学していたり、軽症なのに教育の機会がなかったりまちまちでした。個々の障害にあった公的障害児教育の標準 化、実施は早急の課題だと思われました。リハビリの人材育成のお手伝いをしていきたいと思います。

学生も「また来たい」と

神野理恵

京都民医連医学生担当

 今回は医学生二人、看護学生一人も参加しました。障害を抱えた人の多さ、医療にかかるハードルの高さに驚 き、治るものも治らないというたくさんの症例を見ました。ベトナム戦争が終わり三〇年近くたっても復興は困難で戦争の傷は癒えていないと実感します。貧し さのレベルが日本とはけた違いなのです。
 そうしたなか、尽力するベトナムのスタッフと、国境を越えて自分の能力を活かそうとするスタッフに心をうたれました。学生は「自分が何もできないのが悔 しい。経験を積んで役に立てるようになってまた来たい」と語っていました。
 最終日にはベトナム戦争を伝える「戦争証跡博物館」にいきました。ベトナム兵の死体を片手に、笑顔で応える米兵の写真、幼い兄弟が互いにかばいあいなが ら米兵に撃ち殺される瞬間の写真…。
 やり場のない怒りがこみ上げ、自然に涙が流れました。このベトナム戦争ではベトナム人のみならず、多くのアメリカ人も犠牲になり、その心と体に深刻な後 遺症を与えたそうです。戦争は軍隊が引き上げたからといって終わるものではないのだと思い知らされます。
 アメリカはイラクにおいても同じ過ちをくり返しています。劣化ウラン弾のような残虐な兵器をもって人々を苦しめ続けているのです。罪のない人びとに起 こっている現状に対し、戦争を正当化する人たちはいったいどう考えているのでしょうか。私は憤りを隠せません。

医療の遅れにも戦争の傷跡が残る
枯葉剤の影響がどうあれ
「少しでもよくなりたい」という願いはひとつ

genki150_08_01 genki150_08_02 genki150_08_03
裂足
口唇口蓋裂
全身にポリープが

 

genki150_08_04 genki150_08_05 genki150_08_06
クルーゾン病
脊柱わん曲
脳性マヒの子。お母さん(右)がとても大事にしている。シャボン玉遊びでリラックスさせる大城さん

 

genki150_08_07 genki150_08_08
枯葉剤をまかれた山は木がない
肩こりに悩む女性にストレッチを指導。左側は医学生(村の出張所で)

 

genki150_08_09
検診を待つ人たちと談笑する医学生

いつでも元気 2004.4 No.150

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ