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2017年3月7日

第2回評議員会 講演から 「働き方改革」は危険「働く貧困」打開しよう ― 藤田宏 労働総研事務局次長

 第二回評議員会では、労働運動総合研究所の藤田宏事務局次長が「『貧困クライシス』にどう立ち向かうか―『働く貧困』打開の課題を考える」と題して講演しました。「貧困」問題が日本の未来にかかわる深刻な性格を持っていること、その打開策を共有しつつ、安倍政権が掲げる「働き方改革」の危険性を示し、市民と野党の共同の前進を呼びかけました。講演の概要を紹介します。(田口大喜記者)

 経済協力開発機構(OECD)の実質成長率見通しで、唯一、一%に届かないのが日本です。先進資本主義国の中で経済成長しない特異な国になっています。
 最大の要因は賃金が低迷し「働く貧困=年収三〇〇万円未満」が深刻化していること。日本経済活性化のカギは賃金引き上げで個人消費を拡大させることです。

結婚できない若年層

 一般的に、ワーキングプアは「年収二〇〇万円以下」とされますが、根拠はよく分かりませんし、これでは将来の課題は見えません。私は、“結婚の壁”に直面する年収三〇〇万円未満を貧困ラインにしました。「平成二五年版厚生労働白書」では、年収別若年男性の既婚率は、年収三〇〇万円未満では二〇歳代八・七%、三〇歳代は九・三%と一割にも届きません。年収三〇〇~四〇〇万円では、二〇歳代二五・七%、三〇歳代で二六・五%。年収三〇〇万円未満層は経済的理由で結婚したくてもできない、今日の貧困です(下図)。
 また、この層は年金受給額(三五年加入)が、厚生年金で一二万円、国民年金なら八万円と老後が展望できない層です。
 雇用者に占める「働く貧困」層は、九七年の二四六三・二万人(四六・三%)から一二年には三〇四三・七万人(五五・一%)まで増え、過半数を超えました。
 結婚できない若年労働者の増加は少子化に結び付き、五〇歳時点まで未婚の「生涯未婚率」の増加は、単身高齢者問題として現れてきます。また、「働く貧困」は保険料の減少と社会保険料未納者・免除者の増加につながり、社会保険制度の財政基盤も掘り崩します。いずれも、日本の経済社会の持続的発展にかかわる問題です。
 九〇年代後半に労働法制が連続的に改悪され、非正規労働者が爆発的に増加しました。非正規労働者が急増する社会的システムがつくられたのです。そのなかで「働く貧困」が増大し、非正規の九割近く、また正規の三割近くも「働く貧困層」になっています。

図

「働き方改革」とは

 安倍内閣は、財界の利益を最優先する歴代自公政権(一時期、民主党政権)がつくってきた深刻な矛盾の中で登場しました。「働く貧困」の問題を抜きに政権の維持は困難、という状況下で発足しました。ですから経済政策では、企業が潤えば、国民にその儲けがしたたり落ちてくるという幻想の「トリクルダウン論」を掲げざるをえませんでした。しかし、それは破たん。それでも国民には幻想を与え続けなければいけませんから、今度は「一億総活躍社会」とその最大の柱として「働き方改革」を打ち出しました。
 (1)賃上げと同一労働同一賃金の実現、(2)長時間労働の是正、(3)非正規の処遇改善など。一見、労働者の要求にこたえるかのように見えますが、実際は労働者を、無限定正社員⇔限定社員⇔非正社員・その他、に分けて競争させ、低賃金で働かせたり、成果を上げないと突き落とされるというプレッシャーの下で自らブラックな働き方をさせる。それが安倍「働き方改革」の本質で「会社の思い通りに働け」と労働者同士を競わせるしくみを作り、大量の無権利・低賃金労働者をつくりだすものです。
 本気で改革するなら、公務員賃金の引き上げ、全国一律の最低賃金の確立、労働時間の上限規制と働くルールの確立、そして正規を希望する非正規社員の正社員化、の四つが欠かせません。それが年間七二〇時間もの残業を容認する(脳・心疾患のリスクが高まることを根拠に定めた年間三六〇時間の二倍)などと言うのですから、でたらめもいいところです。

「働く貧困」に立ち向かう

 安倍内閣は、これまで以上に「働く貧困」を拡大し、財界・大企業の利益を守ろうとしています。つまり、現状を打開するには、安倍内閣打倒を掲げてたたかう必要があります。「クライシス」は「危機」という意味の他に「転機」という意味も持つ言葉です。私たちの力で、大きな転機を作り出しましょう。
 安倍内閣は、日本の支配勢力には「最後の切り札」的存在。だからこそ、財界も異常な肩入れをしてささえているのです。国民の利益に反する政策を行っているという決定的な弱点もあります。手ごわい相手には、こちらも学習をして立ち向かうことが必要です。

*   *

 民医連のみなさんに、「大企業の内部留保を社会的に還元せよ」という国民的運動に合流していただきたい、とお願いします。
 内部留保は労働者の賃金カットと法人税減税でできています。積み増した内部留保の一〇%に課税すれば毎年二~三兆円の財源になります。内部留保を社会に還元させることは、日本経済を守る国民的大義があります。
 「働く貧困」をこれ以上拡大させるのか、それとも「働く貧困」打開の方向に切り替えるのか―。根本から安倍政治の転換を図るために、一緒にたたかいましょう。

図

(民医連新聞 第1639号 2017年3月6日)

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