いつでも元気

2017年3月31日

まちのチカラ・徳島県上勝町 葉っぱのまちで人生いろどり

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

 料理に添える葉や花を「つまもの」と言います。
 つまもの出荷の「葉っぱビジネス」で最先端を走る徳島県上勝町。
 平均年齢70代前半の生産者約180人が活躍し、年間2億4千万円も売り上げます。
 訪れる視察者は毎年約2500人。
 若い移住者も増える上勝町の魅力とは?

200年間守られているという樫原地区の棚田(上勝町提供)

200年間守られているという樫原地区の棚田(上勝町提供)

葉っぱ農家は生涯現役

 最初に訪ねたのは、夫婦で葉っぱビジネスに携わっている田村利一さん(86)とトモエさん(78)。この日は自宅横の作業場で、ウメとフキノトウの出荷準備をしていました。部屋の片隅にはパソコンが。画面をのぞかせてもらうと、商品ごとの受発注リストが大きく表示されています。
  「これを毎日見て、必要なものを必要な分だけ出すんですよ。供給過多になると値段が下がるからね」と利一さん。パソコンは難しくないですかと尋ねると、「戦後ずっと挑戦の連続だったけん、新しいことには慣れっこになっとるんよ」。
 妻のトモエさんは、9年前に脳梗塞で倒れ半身不随になりました。当時は寝たきりになるのではと心配したそうですが、利一さんが手助けしながらリハビリを兼ねて作業を再開。今では1人でトイレにも行けるほど回復しています。
 「葉っぱをやってると、いつの間にか頭痛いのも治っとるんよ。お父さんと一緒におられるけん、今が一番幸せよ」と満面の笑みで話すトモエさん。胸がじーんと熱くなりました。

人は誰でも主役になれる

 葉っぱビジネスを立ち上げたのは、約40年前に徳島市から上勝町農協に就職した横石知二さんです。当時は農協職員として、寒波で大打撃を受けたみかん栽培に代わる新たな産業を模索していました。
 つまものに目をつけたのは、偶然目にした光景がきっかけ。大阪の料理店で、皿に添えられていたもみじの葉を「きれい」と持ち帰る女性を見かけたのです。「これは商売になるかもしれない」と直感した横石さんは、早速、料亭に通って研究を始めました。
 4人の生産者と商品開発を行い、「彩」とブランド名を付けて販売を始めたのは1986年。周囲の反応は「たぬきでもあるまいし、葉っぱが売れるわけがない」と冷たかったそうですが、それでも諦めなかった理由を伺うと、意外な答えが返ってきました。
 「僕は昔からギャップが好きなんですよ」。たとえば絶体絶命に見えるものを復活させたり、反対していた人を味方につけたり、できるだけ大きな変化を起こして人々を驚かせることが好きなのだそう。まさに、山村に暮らす高齢者がIT技術を使って商売をする、というビジネスモデルそのものです。
 「田舎の人は『誰かがやってくれる』と受け身になりがちです。でも自分が活躍できる舞台さえ見つけられれば、キラッと輝くことができる。主体性が一番の元気の素ですよ」と話す横石社長の目も輝いていました。

上勝町の「彩」ブランドは全国の料亭から引く手あまた

上勝町の「彩」ブランドは全国の料亭から引く手あまた

全国初「ごみゼロ」の町

 上勝町民のパワーは、資源回収でも発揮されています。豊かな自然環境を守るためにごみを減らそうと、町は14年前に「ゼロ・ウェイスト(Waste=ゴミ・浪費・無駄の意味)宣言」を発表。今では全ての生ごみが各家庭で堆肥化され、その他は45種類に分別されています。
 ごみステーションを訪ねると、大小さまざまなカゴと手書きの看板が所狭しと並べられていました。中には「銀色の紙」「割り箸」「紙芯」などの看板も。町民が自ら持ち込み分別する仕組みで、車のない高齢者宅にのみ運搬支援を行っています。
 一体なぜここまで徹底できるのか。町役場企画環境課の清井信子さんに尋ねると「上勝の人は素直なんですよ」と笑って答えられました。「でも、最初は1人の熱心な職員がいたおかげです。各集落で分別の説明会を重ねるうちに、だんだんと町民の協力が得られるようになりました」。
 毎年、上勝町には約2500人が視察に訪れ、20人ほどが移住しています。人々を惹きつけるのは最先端の取り組みだけでなく、実直な町の人たち自身なのかもしれません。

地ビールはマイボトルで

 若い移住者が増えるにつれ、おしゃれな店も目立つようになりました。そのうちの1つ、「RISE&WIN Brewing Co. BBQ & General Store(ライズ&ウィン ブルーイングカンパニーバーベキュー&ジェネラルストア)」は、ユニークな外観の地ビールレストラン。壁一面の窓は、ごみステーションにあった建具を再利用してつくられています。店内にも、空き瓶で作ったシャンデリアや古い家具のインテリアが。まさに「ゼロ・ウェイスト宣言」を体現したような建物です。
 しかも、ここで売られているビールは量り売り。アメリカでは珍しくないそうで、蓋を閉めれば翌日でもおいしく飲めるとのこと。「人が集まるところには、楽しいことやおいしいものがあるんですよね。町の取り組みを知ってもらうためにも、まずは人を呼びたいんです」と店長の安喜共行さん。上勝特産の柑橘・柚香を使ったオリジナルビールもあり、若い女性に人気だそうです。

リサイクル家具が並ぶ地ビールレストランのおしゃれな店内

リサイクル家具が並ぶ地ビールレストランのおしゃれな店内

農家民宿で暮らし体験

 じっくりと上勝の暮らしに触れたい人には、農家民宿がおすすめです。私が泊まったのは、近くに棚田の風景が見える「山挨」。
 養鶏業を営みながら宿を切り盛りしている岸里枝さんが、郷土料理の姿寿司を作ってくれました。ボリュームたっぷりの酢飯にアジが丸ごと乗っている逸品で、昔は農作業時の弁当だったそうです。
 お客さんは日本人だけでなく海外からも。「宿を始めてから、孫の教科書で英語を勉強するようになったんよ。少しだけでも話せると喜んでくれるけんね」とうれしそう。民宿によっては葉っぱ収穫や茶摘み体験もでき、上勝ならではの思い出をつくることができます。
 帰りに、幻想的な苔の山として知られる「山犬嶽」に登りました。けもの道を15分ほど登った先に広がる、辺り一面の苔の世界。岩の窪みには88体の石仏があり、1つ1つ手を合わせているうちに森の妖精と話しているような不思議な気分に。
 他にも自然を満喫できるスポットには事欠かない上勝町。頭も体も心もリフレッシュできること請け合いです。

鮮やかな苔が一面に広がる山犬嶽は5~6月がオススメ(上勝町提供)

鮮やかな苔が一面に広がる山犬嶽は5~6月がオススメ(上勝町提供)

■次回は広島県神石高原町です。

いつでも元気 2017.4 No.306

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