いつでも元気

2004年5月1日

「保険証取り上げ」で滞納は解決しない 手遅れ死2人出した札幌市で「綱領」を見直し

斉藤浩司(札幌社会保障推進協議会事務局次長)

 国民健康保険の資格証明書の大量発行が、大問題になっています。保険料を滞納した世帯の保険証を取り上げ、「医療費は全額自己負担」となる資格証明書を 機械的に送りつけるというものです。このため札幌市では、二〇〇一年一一月、二人の手遅れ死まで出しました。
 その札幌市で昨年一一月、大量発行の元になる「国保資格証明書等に関する要綱」の見直しが行なわれました。ことし二月には、増え続けていた資格証明書発 行数が昨年一二月と比べて一六一一の減となり【表】、行政の対応にも変化があらわれています。

「金も持ってこないで…」と

 滞納世帯からの保険証の取り上げが、自治体に義務づけられたのは二〇〇〇年ですが、自治体の判断に任されていた九三年から、札幌市は蕫積極的に﨟実施してきました。〇二年には国保世帯約三二万のうち、保険証がない世帯が一万四千近くにもなっていました。
 保険証がないため受診できず亡くなったのは、二人とも五〇代男性で、生活困窮による滞納でした。一人は救急車で病院に運ばれて数時間後に死亡。もう一人 は受診したときには手遅れのがんで、三カ月後に亡くなりました。
 深刻な事態が発生したにもかかわらず区役所窓口では、相変わらず「滞納金を払えば保険証を出してやる」という態度で接していました。東区では、不整脈で 入院をすすめられた男性が保険証を発行してほしいと頼むと「二年分の滞納の一割以上払え、救急車で運ばれたときは出したことがあるが、お金も払わないで出 したことはない」と係長が強弁。
 手稲区では、かぜで子どもが受診した世帯に保険証を発行するよう要求すると、担当係長は「金も払わないのに認められない。子どもの病気といってもたかが かぜ。高額療養費なみ(の重い病気)でもなければダメだ」と、かたくなに拒否。翌日の対区交渉で参加者の怒りが沸騰し、保険証を発行させたということもあ りました。

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世論に訴える運動を展開(国保・介護110番運動交流集会)

「国保は医療保険」と転換

 姿勢に変化が見られたのは〇二年の対市交渉のときです。保健福祉局の責任者が「緊急の場合は、まず保険証を出し、それから支払いの相談をするのが当然」「きびしい経済情勢のこの時代に、資格証明書発行(保険証取り上げ)のルールが合っているのか研究したい」と表明。
 そして〇三年一一月、市の国保年金課との交渉のとき、「国保資格証明書等に関する要綱」の見直し案が正式に説明されたのです。国保についての考え方その ものに、画期的な転換がありました。
 まず「国保は医療保険であり、保険証の取り上げは最後の手段である」と表明しました。その上で、「保険証を取り上げても、保険料の滞納を解決する役には 立たない」と。そして「面談・接触を重視し、滞納世帯の個々の支払能力を判断する」としたのです。
 私たちがずっと主張してきた内容ですが、市側からここまで踏み込んだ発言が聞けるとは予想以上で、この間の運動をふり返り感慨深いものがありました。

110番運動と世論への訴え

 札幌では一九八七年から「国保110番」を開設。生活と健康を守る会を中心に国保の相談活動をすすめてきました。九八年、社保協(札幌社会保障推進協議会)結成。運動が広がりました。
 〇一年の手遅れ死事件を契機に、社保協では国保証取り上げは命にかかわる問題だと、加入団体の総力をあげて世論に訴えました。ポスター、ビラなどでの宣 伝、各区での交渉、市民集会などを開き、不当で冷たい行政の態度をきびしく批判しました。
 市が「要綱」の転換に踏み切った要因には、大小の交渉の積み重ねがあります。とくに各区の現場で、具体的な事例で迫られるため、区の担当者も矛盾が多 く、内部からも意見が上がっていました。
 また世論に訴えるなかで地元の新聞やテレビ局でも国保問題をとりあげ、死亡事件は「毎日」や『週刊金曜日』も掲載し、社会問題化したことも大きいでしょ う。何より、保険証の取り上げが滞納の改善につながらず、国保料収納率の低下に歯止めがかからなかった。市としても根本的な転換を求められていたのです。

変化はゆっくりだが着実に

 〇四年二月の保険証取り上げは〇三年一二月に比べ、一六一一件減り、短期保険証の発行も二二七一の減。「要綱」の改善が数字に出てきました。滞納世帯への訪問や納付相談の成果のあらわれです。
 二月末の北区役所との懇談では、担当職員が「訪問をすすめたため、いままで相談にこなかった層がきています。昼休みも食事をとる暇がないほどです」「毎 月一万円の納付約束をしている人が、今月三千円しか払えないからといって保険証を取り上げるようなことはしません」といっていました。

 東区では、二年間ほとんど国保料を払えていない世帯に、出稼ぎにいっている夫を世帯分離して妻と子どもには正規保険証を出す、夫ももどり次第、納付相談することで短期保険証にする、という対応を区側から考えています。

大都市部での国保問題

大都市部での国保問題は、滞納世帯が見えず実情もわかりにくいため、行政も機械的対応をしがちです。しかしそれは苦しんでいる住民を見放し、死人まで出すような人権問題になります。また、滞納の解決にもなんら役立たないのです。

 札幌市の転換は、粘り強い運動とたたかいの重要性、国保問題の今後の方向に一つの可能性を示したといえるのではないでしょうか。


■「要綱」の改善点
 (1)いままでの一律、機械的な資格証明書の発行を改め、滞納世帯との面談・接触を基本とする。
 (2)滞納額の一定分を納付しないと保険証は発行しないという規定をなくす。保険料を分割納付する約束を実行している場合は、一年以上の滞納があっても保険証を出す。

保険証の取り上げでは収納率は上がらない
札幌市国民健康保険の資格証明書・短期保険証発行数と保険料収納率の推移(札幌市提供)

93年
96年
99年
02年
資格証明書 4,205 4,383 7,655 13,945件
短期保険証 3,130 6,540 11,539 31,954件
収納率 84.88 84.02 83.01 82.81%

       ↓

ことし2月、減に転じた!
03年12月 04年2月
 14,712 13,101件
 42,487 40,216件

いつでも元気 2004.5 No.151

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