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2017年5月2日

組織担当者の退院支援って? 「地域で暮らす」視点活かし 埼玉西協同病院

 本当に安心して在宅で暮らすには―。このことにこだわったとりくみを紹介します。埼玉西協同病院(医療生協さいたま)では昨年度から、退院して在宅生活を始める患者支援に、共同組織担当者が関わっています。とりくみを始めて一年間、一一五人の退院患者に対応。退院した患者は地域で暮らす仲間。生協組合支部とともにどう在宅生活をささえているのか、取材しました。(土屋結記者)

 埼玉西協同病院は、一般病床が二六、地域包括ケア病床が二四の病院です。地域連携課には、SWが一人と組織担当者が二人います。

退院患者を支部へつなぐ

 どんな形で組織担当者が退院支援に関わるのか―。まず退院予定の患者情報を集めることから始まります。医局の朝会に毎回参加。待っていては情報は入りません。
 朝会後は、退院後に在宅療養する予定の患者をカルテから抽出。主に独居や高齢夫婦世帯、日中独居の人が支援対象です。それらに該当しなくても、病棟から依頼されて関わることもあります。
 次に対象患者の病室を訪れ、支部の活動や、医療生協さいたまのくらし助け合い制度「くらしサポーター」、組合員が地域で行う「見守り訪問」をお知らせ。「退院後も気にかけてくれるの?」と驚かれますが、組合員の訪問も断られることはほとんどありません。「どの患者・家族も好意的に受け止めてくれます」と、地域連携課の茂木宏実さん。
 退院後は、患者の住まう地域の支部に訪問を依頼。家の近い組合員が訪問し、退院後の暮らしぶりを報告書に書き込み、病院の地域連携課に返します。報告内容から対応が必要と判断すれば、地域連携課が訪問したり、SWやケアマネジャーなどにつなぎます。
 この組合員の訪問は、退院から約半年間続けます。訪問頻度やタイミングは支部が決めます。当初は「私たちが行ってもいいの?」と、とまどっていましたが、続けると「喜んでもらえた!」と、自信が蓄積していきました。
 また「訪問したら雨戸が閉まっていた。心配」「今後は機関紙を手渡しする!」など「地域を見守る目」も育ち、いまでは訪問にも積極的です。退院患者支援に関わって、支部活動や運営に熱心になる組合員も生まれています。

とりくみのきっかけ

 一連のとりくみは、埼玉県から四九床の増床が認められたことがきっかけになりました。二年後に増築が完了予定です。
 事業構想づくりの中で「地域包括ケア病床を持つのは、市内に当院だけ。患者さんをきちんと受け、きちんと在宅へ帰す。ここに力を入れなければ、事業の成功は難しいと考えました」と、小暮里美事務長。
 「在宅をささえる病院」を全職員が意識したのはこの頃から。病院全体が動き始めました。

「地域で暮らす」を意識して

 看護部門は、月に一件は退院後訪問に出ることを目標にしています。地域連携課の訪問に同行した新卒看護師は、ヘルパーを利用していても苦労して暮らす全盲の患者さんの様子を見ました。薬はヘルパーが居ないと飲めない、用意された食事を床に落として食べられないことがある…。「本当に在宅に帰して良かったのか。入院中に支援できることがもっとあったのでは」と卒後研修で発表しました。看護主任の長谷川幸路さんは、「“患者の背景を考える”という看護の本質が理解できたようです」と話します。
 リハビリ科では、退院前の家屋訪問に、地域連携課のメンバーに同行を頼むことも。「地域のつながりが薄くなっているいま、専門的なサービスよりも、地域的な見守りが必要なケースも多い」と、リハビリ科の冨田哲副主任。
 「退院支援に関わり始めてから、組織担当者も変わった」と茂木さんも語ります。支部活動の支援だけでなく、患者さんや地域の状況にまで目が向くように。退院支援に組織担当者が関わることに驚かれ、「仕事が増えて大変では?」と聞かれることもありますが、「地域を意識することで、仕事のしかたが変わりました」と答えています。

“人が人として大切にされるまちづくり”意識して

「安心のネットワーク」

 地域連携課が退院支援にかかわったことで副産物も。院内で患者さんの情報共有がすすみました。地域連携課が訪問すると、「いざ家に帰ってみたら、輸液の扱いが難しくて…」と相談があり、看護師につなぎすばやく対応できたこともありました。また、訪問の報告をもとに、病院スタッフが入院中の支援について振り返る機会にもなっています。
 今年の目標の一つは、医事課がこのとりくみに関わることです。医事課の業務は病院内で完結しがちですが、「外に出て患者さんを見る視点を育て、仕事に対する意識を変えようと考えています」と、医事課の冨樫理恵主任。
 「私たちが意識しているのは“人が人として大切にされるまちづくり”」と、県西地域組織担当責任者の曾田恭基さん。安心して在宅に退院できるまちを目ざし、今年度も継続して行政や包括支援センターに働きかけています。
 「医療生協だけではできません。地域のつながりを太く、広く、安心のネットワークをつくっていきます」。

グラフ


地域連携課の退院支援を受ける岡マサエさん (88)

 「ここに入院していなかったら『死んだ方が良かった』と思いながら家で苦労していたかも」と話す岡さん。急性期病院から退院を迫られ困っていましたが、埼玉西協同病院に転院できました。
 退院後はひとり暮らしです。歩行器があればトイレなどへは行けますが、掃除や洗濯、炊事など、家事は困難。退院後は組合員の「見守り訪問」を依頼し「くらしサポーター」も利用する予定。「介護保険サービスは限度額もあり、どうしても足りない部分があります。定期的に見守りが来てくれて、困ってもすぐ相談できる。安心して生活できます」。

(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)

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