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2017年5月2日

介護保険「改正」案 なにが問題か 山田智副会長(民医連)の国会での参考人陳述から 前回「改正」の検証もなくまた法改正するのか?

 三月二八日から介護保険法等改正案(=「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険等の一部を改正する法律案」)が国会で審議入りしています。介護保険のさらなる改悪に加え、障害児・者など多岐にわたる三一本の改正法を一括審議・採択しようというもの。詳細が明らかにされていない部分も少なくありません。四月一一日、衆議院厚生労働委員会でこの法案に関して五人の参考人が意見陳述し、全日本民医連の山田智副会長も招かれました。山田副会長が指摘した法案の問題点を紙面で紹介します。

利用者も事業者も困っている現状

 今回の法案には、(1)自立支援・重度化防止に向けたとりくみ推進、(2)「介護医療院」の創設、(3)地域共生社会の実現に向けたとりくみ推進、(4)所得の高い利用者負担を三割化、などの見直しが盛り込まれていますが、介護サービス事業者への報酬が引き下げられれば、要支援者に適切なサービスが行きわたらなくなるなど、様々な懸念が現場から出ています。法案審議にあたっては、二〇一五年に行った改定の影響を明らかにすべきだと考えます。

利用者・家族への打撃

 まず、一五年の改定の影響を踏まえて意見を述べます。
 特別養護老人ホームへの入所申し込みが「原則要介護3以上」となりましたが、その影響を「二一老福連」(二一世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会)が調査しました。改定以降、入所申し込みが減っています(図1)。国は「特養待機者が減少した」と発表していますが、要介護1、2の層が除外されたためです。また、見過ごせないのは回答施設の一九%が「要介護1、2の申し込みは受け付けていない」としていること。背景には、この層を受けようとすると手続きが煩雑で経営面でもマイナスになるなどの問題も作用しているとみられます。
 具体的な影響も浮上しています(図2)。利用料の滞納者が二〇六人、支払い困難で退所した人が一〇一人、配偶者が生活苦に陥った事例も三一一人にのぼりました。負担軽減目的で多床室へ移動する入所者が出た結果、個室が埋まらないなどの現象も起きています。
 利用者負担二割の導入や補足給付などの低所得者むけのしくみも削られ、回避策として離婚せねばならなかった高齢夫婦もいます。

図1、図2

事業所が存続できるのか

 老人福祉・介護事業所の倒産数は、マイナス改定のたびに増え、特に一五年改定後の一年(一六年)は、一〇八カ所と過去最悪の数字です。改定が加算中心だったため、算定できなかった小規模事業所が打撃を受け、倒産の七割を占めました。介護事業の維持なくして介護保険の維持は困難です。
 介護給付削減のターゲットになっている軽度者の状況にもふれます。介護保険サービス利用者約五〇〇万人のうち、三五三万五〇〇〇人が居宅介護サービスを利用しています(図3=地域介護カシオ一五年一〇月参考)。介護度別では要支援1~要介護2が実に七三%を占めます。しかも、状態像をみると、最多の要介護1には「認知症の自立度が2以上か、半年以内に悪化が明らかな不安定」の人が該当、次に多い要介護2には一人で外出できなかったり入浴困難な人たちがいます。
 さらに厚労省のデータも介護度の軽い人ほど重症化しやすいことを示しています(図4=要介護・要支援状態区分別に見た年間継続受給者の変化。一四年四月と一五年三月を比較)。地域包括ケアシステムの深化・推進においても「重度化防止は重要な課題」。それには、リハなど専門職の介入充実が必要です。こうした利用者たちのケアを市町村事業に移せば、当事者・家族の混乱や事業所の経営悪化は計りしれないでしょう。

図3、図4

民医連の調査から

 民医連では要介護1、2の軽度者や利用料の引き上げに焦点をあて、(1)生活援助、(2)福祉用具、(3)通所介護の利用制限(自己負担化や総合事業・ボランティアへの移行)、(4)利用料が引き上げられた場合の四ケースで、本人・家族にどのような影響・困難が生じるのか、現状で抱えている困難や予測される事態を明らかにすべく「介護困難事例調査」を行いました。ケアマネジャー、ヘルパー、相談員、利用者、家族など計九四〇人に声を寄せてもらっています。
 予想される影響は複数回答で三〇九四件、状態悪化、会話・コミュニケーションの減少(↓認知症の進行)、外出の機会の減少(↓フレイルの進行)、家族介護負担の増大などがあがっています。また利用者・家族は、経済的な負担や介護の質低下、介護負担などを懸念していました。
 また介護保険利用者は経済的困難者です。一三年に民医連で行った利用者の収入状況調査でも、低所得対策の対象となる第一~第三段階の所得層が五四・一%、特に独居では男性四八・六%、女性は六六・八%と高率でした。

在宅での「受け皿」整備はすすんでいない

 総合事業の一部をボランティアなどに委託するための講習会が始まっていますが、なり手が少ない問題や、市町村で講習回数や内容が異なり、ケアの質が担保されるのかが問題です。医師を含む専門家の講義を義務付けてはどうか。
 新設が提案されている「介護医療院」に関しては、安全な施設基準づくりを求めます。介護現場では人手が足りず、高まる医療密度にも追いついていません。介護事故が増え、賠償費用は医療を超えるとも言われています。
 地域包括ケアの主戦場となる在宅医療について。在宅支援診療所のない自治体が三割、支援病院は七割が準備できていません。訪問看護がない自治体も三割()。訪問診療を行う診療所、病院は増えましたが不十分です。在宅看取りを行う医療機関は五%にとどまっています(図5)。若年者の在宅療養者が増加しており、スタッフづくりも課題です。
 地域包括ケアは「住まい」が重要です。一般財団法人高齢者住宅財団が行った「医療・介護ニーズがある高齢者等の地域居住の在り方に関する調査」をみると、退院後にどこに行くかが患者の経済状況に左右されています。低所得者が安心して入居できる特養がやはり必要です。

表、図5

「地域共生社会」というなら障害者を尊重すべき

 地域共生社会に関連して、就労を支援し障害者の自立をめざす、共同作業所全国連絡会の調査を紹介します。一万四七四五人を対象に昨年五月に実施。障害者支援は介護保険だけでは間に合いません。上限まで使い、さらに支給を受けている方が七割。この人たちに応益負担をさせるのか。本人・家族は不安を強めています。
 障害者の多くは低所得者です(図6)。応能負担から、応益負担を求めれば、障害者の自立阻害につながります。個人の多様性が尊重される社会を目指すべきです。

図6

***

 法案は一八日の衆院本会議で可決され、参議院に送られました。審議は二二時間、地方公聴会も開いていません。なお一二日の委員会では、民進党議員が森友学園問題を質問したことを理由に、審議を打ち切り可決するという暴挙も。民進、共産が抗議する中、自民、公明、維新が賛成しました(民医連の抗議声明は下項)。


採択強行 民医連が抗議声明

 4月12日、全日本民医連は藤末衛会長名で抗議声明「介護保険『改正』法案の採択強行の暴挙に断固抗議する」を発表しました。
 声明はまず、審議も十分でない中、与野党間の合意を踏みにじり、審議を打ち切って採択を強行したことに抗議。法案は国民・高齢者・障害者に重大な影響をもたらす内容にも関わらず、地方公聴会も省略し、討論(反対・賛成討論)すら行わない異常な採択で、「断じて認められない」としました。また、そもそも31もの法案を、一括審議、採択すること、具体的な中身がほとんど政省令に委ねられ、いまだ詳細が明らかでない点が多いという問題も指摘。
 具体的な内容上の問題では、例えば「現役並み所得」の利用料3割化が提案されているが、対象となる利用者が3割負担に耐えられるのか検討された形跡がない。「自立支援・重度化予防」を掲げた「インセンティブ改革」は要介護認定率の引き下げ競争に市町村を駆り立て、個々の利用者には介護保険からの「卒業」を目指す「自立支援介護」を強いること。「介護医療院」は長期療養を担う医療病床の一部削減、介護療養病床の全廃目的の新たな受け皿であり、「共生型サービス」は、高齢障害者の「介護保険優先適用原則」をさらに強化するものであることをあげました。
 また前回「改正」の影響の検証をせず新たな負担増・給付削減を国民・高齢者に強いる問題も指摘。安倍首相は、「前回『改正』の顕著な影響は確認されていない」と繰り返し答弁しますが、一部利用者の利用料2割化、特養入所対象の限定、補足給付の見直しなどでサービス利用を減らし、そのために家族の介護負担が増え離職したり、特養への入所や入所継続が困難になるなどの事態が民医連の調査でも明らかになっていることを紹介。
 新たな見直しの審議の前に、まず前回「改正」後の検証を真摯に行い、制度に起因する困難を一刻も早く打開する施策を検討することこそ求められている、としています。

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(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)

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