MIN-IRENトピックス

2017年5月2日

憲法施行70年 5・3集会プレ企画 70年前の期待に応え、つなぐ「行動」を 伊藤真 弁護士の講演から

 今年は憲法施行70年、5月3日には71年目を迎えます。4月14日、東京で開かれた5・3憲法集会プレ企画学習交流集会で日弁連憲法問題対策本部副本部長の伊藤真さんが「施行70年 今こそ問う憲法の価値」と題して講演を行いました。要旨を紹介します。(丸山いぶき記者)

 世界がきな臭くなり、力で物事を推しすすめようとする人々や国が増えるほど、日本国憲法が輝きを増します。ただ、「どんなにすばらしい憲法が存在しても、憲法のレベルは、その国の国民のレベル以上にはならない」というのも一つの真実。ドイツのワイマール憲法(一九一九年)は、当時世界で最も民主的な憲法でしたが、この憲法があっても独裁者ヒトラーを生み出してしまいました。私たちもすばらしい日本国憲法を持ちながら、安倍政権を生み出してしまっています。今まさに日本国憲法の価値が問われています。

日本国憲法の制定目的

 一八八九年、神から天皇が統治権を与えられたという形で、大日本帝国憲法(明治憲法)は誕生しました。国が宗教を管理し天皇と結びつける神権的国体思想のもと、天皇による統治が「千代に八千代に」続くようにと歌まで作って国民(臣民)に徹底しました。その翌年に発布したのが教育勅語です。家長への絶対服従を求める家制度を徹底し、親孝行の「孝」と君主に対する「忠」を一致させ、国を大きな家「国家」として、天皇への忠義を臣民に徹底。「親孝行は大切」という否定しがたい価値観を国が利用し、「国家の家長である天皇のために命をも投げ出せ」というのです。
 本来、こうした流れにブレーキをかけるのが立憲主義です。しかし、明治憲法は見かけ倒しの立憲主義(外見的立憲主義)でした。国家に個人を埋没させ、民族主義的色彩の強い全体主義と、外見的立憲主義によりブレーキを失い、先の戦争に突入したのです。
 そうした反省から、日本国憲法では神権的国体思想を否定しました。国家のために臣民が統治される全体主義から、個人の幸せのために国が存在する個人主義へ、根本価値が転換したのです。神権的国体思想の否定と、「個人の尊重」を目的とした真の立憲主義をセットに、七〇年前にスタートしたのが私たちの日本国憲法です。

立憲主義

 人間は間違いを犯します。だからこそ、多数意見でも奪えない価値をあらかじめ決めておくのが憲法です。立憲主義は三段階で進化しています()。政治権力を憲法で縛る第一段階。第二段階では、「個人の尊重」を基礎に、文化や歴史、宗教など価値観次第で評価が分かれるものを排除し、ただひとつ、私たちが人間であるという共通項から「人権」という概念が生まれました。これが近代立憲主義です。そこにもう一つ、第三段階として、「平和主義」を加えたのが日本国憲法です。私たちの憲法は最も進化した立憲主義なのです。世界の中でも日本だけが、平和を単なる政策の問題にせず、多数決でも壊せない価値として憲法で定めているのです。

図

個人の尊重と平和主義

 近代立憲主義の本質は、個人の幸せのために国が存在し、そのために国を縛ることにあります。人は皆違うことを前提に、どんな人も尊重するのが「個人の尊重」。悪人、犯罪者、自分の家族を殺した人の人権をも守るのは、苦しく大変なことです。「人権感覚」という言葉もありますが、実は、人権はやさしさや思いやりではありません。自分の中の壁、感情を乗り越え理解し合うことが、「人権」を理解するということです。想像力・共感力が必要です。
 そして、最大の人権侵害が戦争です。戦争は差別と弾圧とともにやってくる。人間をモノ扱いする、これが戦争の本質です。人間の「尊厳」とは、人間の道具化の否定であると思います。

私たちがすべきこと

 憲法一三条は「幸福追求権」を保障しています。「あなたの幸福はあなたが決めて下さい。それを追い求める過程を保障します」という規定です。その政治への表れが民主主義、選挙権です。この国をどういう国にすれば幸せか、その意思表示をする権利です。
 私たちは、日本をどんな国にするのか、しっかり意識しなければなりません。安倍政権に抑止力を発揮できていない現状を、国民がどうにかするしかありません。表現の自由、請願権、そして選挙権を行使する、野党共闘です。「護憲勢力」の呼び方がだめなら、「立憲勢力」として。
 安保法制違憲訴訟は現在、一七裁判所で六〇〇〇人の原告が声を上げています。私たちは愚民、臣民でいるのはまっぴらです。自ら学び、口うるさい市民になる。やれることは山ほどあります。
 憲法は理想だからこそ、七〇年前の先人たちの期待に応え、次の世代への責任を果たしましょう。何があってもあきらめず、一歩一歩すすみましょう。私も大きな声をあげ、行動します。


いとう・まこと
 弁護士、伊藤塾塾長、法学館法律事務所所長。1958年生まれ。日本国憲法の理念を伝える講演・執筆活動を精力的に行う。著書は『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『けんぽうのえほん あなたこそたからもの』(大月書店)など

(民医連新聞 第1643号 2017年5月1日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ