いつでも元気

2017年5月2日

まちのチカラ・広島県神石高原町 中国山地に佇む天空の里

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

神龍湖(帝釈峡観光協会提供)

神龍湖(帝釈峡観光協会提供)

 標高約500mの中国山地に位置する神石高原町は、いくつもの山や丘に囲まれた静かな山里。
 豊かな自然環境に加え、地域ごとに異なる特徴をもつ多様性あふれる町です。
 農業をはじめ観光や伝統芸能など、町の魅力の一端をご紹介します。

帝釈峡で自然を満喫

 日本百景の1つで国の名勝にも指定されている帝釈峡は、神石高原町から庄原市にかけて続く全長約18kmの峡谷です。有名なのは、高さ40mもある巨岩が川の侵食によってアーチ型になった雄橋。世界三大天然橋の1つとも言われています。
 大正時代に造られた発電用ダム湖の神龍湖も、新緑と紅葉の時期には大勢の観光客で賑わいます。遊覧船やボートの他、カヤックやセグウェイなどを使う自然体験活動も人気。ゆったり散策したい人は、湖を見下ろせる3つの橋を渡りながら景色を満喫することができます。

自然の力に圧倒される雄橋 (帝釈峡観光協会提供)

自然の力に圧倒される雄橋(帝釈峡観光協会提供)

在来種の本格こんにゃくラーメン

 この地域一帯で生産されている特産物は、こんにゃく。原料となるコンニャクイモは群馬県が一大産地ですが、そのほとんどは中国原産種と掛け合わせた改良種。それに対し、この辺りでは300年の歴史を持つとされる在来種が栽培されています。改良種に比べて、多糖類のグルコマンナンをより多く含み、便秘などに良いのだとか。
 神龍湖のほとりにある食堂「紅葉会館」で、刺身こんにゃくとこんにゃくラーメンをいただきました。地元の人たちは自宅でこんにゃくを作り、刺身で食べるのが一般的だそうです。「わさび醤油で食べる人もいるけれど、味噌が一番味が乗る」とご主人。ラーメンは20年以上前に開発した店の看板メニュー。こんにゃく粉を豆乳で溶かし、着色用にカボチャ粉を加えたオリジナル麺です。
 一口食べ、プリプリの食感に驚きました。凝固剤が入っていない手作りならではの食感と風味。味噌や出汁の味付けを変えれば、幾通りにも楽しめそうです。もはや料理の脇役ではない、こんにゃくの新たな一面を知った気がしました。

こんにゃくを刺身とラーメンで堪能

こんにゃくを刺身とラーメンで堪能

廃校をよみがえらせ人の集う場に

 神龍湖から車で約50分、小野地区にある小学校の廃校で地域づくり活動を行っている男性がいると聞いて訪ねました。横浜市から5年前に移住した小埜洋平さんです。
 人口約120人、高齢化率70%以上という小野地区に小埜さんが移住したのは、地域おこし協力隊として赴任したことがきっかけ。初めの頃は、都会の若者に慣れていない年配の人たちを前に、地域活動の提案をしては怒られることの繰り返しだったといいます。
 「いきなり異質な存在が現れたので、拒否反応を示されたんだと思います。でも地域のことを知れば知るほど愛着が湧いてきた。地元の人の優しさや奥深さにも触れるようになって、最初の印象とのギャップにやられた感じですね」。今では家も土地も購入して、すっかり小野地区の住民です。
 活動拠点である廃校に連れて行ってもらいました。木造二階建ての趣ある校舎で、各教室が集会所や郷土資料展示室として活用されています。ここに福山市内の大学生が毎月通ってきて、地元の人と一緒に草刈りをしたり祭りを盛り上げたりしているとのこと。そうした交流がきっかけで「小野の将来を話し合う会」が結成され、耕作放棄地を活用した養蜂プロジェクトなど新しい試みも始まりました。
 「学生が地域の歴史や現状を学んだ上で提案すると、地元の人たちも刺激を受けて行動します。小野地区は35年後には人口がゼロになると言われていますが、僕の目標はこの校舎を地域の人と一緒によみがえらせること。どんな形であれ、人が集う場所にしていきたいです」。
 新しい風に乗って舞い降りた種がどんな花を咲かせるのか、きっと地元の人たちも楽しみにしていることでしょう。

総務省の事業。地域活性化に興味のある都市住民が、国の支援を受けて地方で働く制度。隊員の任期は1~3年。

廃校に地元の野菜を集めて品評会や競り市を開催(小埜さん提供)

廃校に地元の野菜を集めて品評会や競り市を開催(小埜さん提供)

和太鼓と神楽の融合

 新しい試みは伝統文化でも芽吹いていました。豊松地区で25年前に結成された「豊松太鼓保存会」。この地域に伝わる八ヶ社神楽の舞と拍子太鼓のリズムを取り入れた和太鼓グループで、町内外のイベントに年15回ほど出演しています。
 この日の練習には、メンバー15人のうち7人が参加。「豊松太鼓囃子」「共鳴」「豊松大蛇太鼓」の3曲を披露してくれました。特に「豊松大蛇太鼓」は、日本神話に登場する八岐大蛇が火を吹きながら舞った後、中から太鼓奏者が出てきて演奏するという迫力満点の演目です。
 指導を担う内藤弘巳さんは、神主の資格も持つ神楽の舞手。これまで神事だけで披露していた大蛇の舞を和太鼓にも取り入れた理由について、「和太鼓は町をPRするのに効果的ですが、発表する場がないと続きません。そこで伝統の舞を加えてパフォーマンス性を高めました」と言います。
 4年前から10代の若手奏者たちも大蛇役に挑戦。「最後に大蛇の頭を振る時が難しい。和太鼓はまだ豊松の伝統とはいえないので、自分たちが良いものとして残していけたらいいです」と意欲を語ります。
 小学生の奏者たちも集まってきて「最初は大蛇が怖くてできなかったけど、今は大丈夫。豊松太鼓を有名にしたい」「もっと上手くなりたい」と、激しい演奏の後にもかかわらず元気満々。伝統文化には、世代を超えて地域の人々をつなげる力があるのかもしれません。

大蛇から現れた奏者が豪快に和太鼓をたたく(豊松太鼓保存会提供)

大蛇から現れた奏者が豪快に和太鼓をたたく(豊松太鼓保存会提供)

雲まで届け!紙ヒコーキ

 最後にオススメするのは、世界的に珍しい「とよまつ紙ヒコーキ・タワー」。紙ヒコーキを飛ばすためだけにつくられた施設で、展望台に上ると標高678mから360度の大パノラマが望めます。
 それにしても一体、なぜ紙ヒコーキなのか? という疑問を胸に、とりあえず入館。300円払うと自然に還るエコ素材の紙が5枚もらえ、自由に折って展望台から飛ばすことができます。聞けば、紙ヒコーキは約1200種類も折り方があるとのこと。それらを考案し、かつ紙ヒコーキの滞空時間でギネス記録を出した戸田拓夫さんが、このタワーの創建者なのだそうです。
「本物の飛行機の構造を理解して、羽根の角度や風の選び方を工夫することが大事」と施設職員。上手く飛ばせば、遥か遠くの山まで届くというから驚きです。
 ぜひ紙一枚から広がる世界を感じに、神石高原町まで足を伸ばしてみてください。

紙ヒコーキ・タワー(神石高原町観光協会提供)

紙ヒコーキ・タワー(神石高原町観光協会提供)

■次回は神奈川県山北町です。

いつでも元気 2017.5 No.307

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