医療・看護

2017年6月6日

相談室日誌 連載428 人工透析とともに生きる患者さん(大阪)

 当院には現在約二〇〇人を管理する腎センターがあります。人工透析患者さんの多くが導入後、生涯にわたり週三回半日を病院のベッド上で過ごす生活になります。
 三〇代から人工透析をしているAさんは妻と子ども二人の四人家族。働きながら透析通院を続けてきた六〇代です。がんを発症し、数カ月間他院に入院しました。退院後に来院した時は体重が減り、歩行も不安定、車を運転しての遠路の通院も心配でした。本人は早い職場復帰を望んでいましたが、どう考えても難しい状態でした。車で何とか病院に辿り着いても駐車場から院内へ移動できなかったり、透析後に駐車場まで一人で戻れないことも続き、病状の進行もあり、当院に一週間入院しました。
 本人と面談すると、実は家族とうまくいかず、二年前から独り暮らしだと分かりました。「掃除ができず足の踏み場もない状態。家族に負担をかけたくないので手伝ってほしい」との希望で、介護保険を申請。退院時家の環境整備や生活支援のため訪問介護を利用しました。
 どうしても週三回の通院が必要なAさん。その後も転倒や失神を起こし、家で動けなくなっている状態で発見されることも頻回、入退院を繰り返しました。「仕事は無理なので退職を決めた。今後の保険や年金について相談したい」「車通院も危険なので病院近くの高齢者住宅へ転居したい」「家族には負担をかけたくない」と本人。長い闘病生活の果てに、どんな気持ちで決意したのでしょうか。家族との関係修復も考慮しましたが、本人が「こうありたい」という意向に添った支援に努めました。
 それから数カ月後に他界されました。前日、初めて妻が面会に来た際も、傷病手当の書類や高齢者住宅への転居の件を心配していたといいます。最期は子どもたちも来て、支援経過や本人の様子を伝えることができました。
 透析医療の特性や限られた制度の枠組み・社会資源の中で、当事者理解や支援のあり方に葛藤しながらも多くの学びを得たケースでした。

(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)

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