MIN-IRENトピックス

2017年6月6日

民医連初の被災地県連懇談会 ―震災による新たな格差、健康被害を生まないために― 〈岩手、宮城、福島、新潟、兵庫、鳥取、熊本 7県連が参加〉

 四月二九~三〇日、全日本民医連は熊本で被災地県連懇談会を開き、七県連から二三人が集まりました。地震や台風被害など、全国各地で毎年のように大きな災害が発生しています。今後も、マグニチュード7クラスの地震が日本のどこでも起こる可能性がある今、災害が発生した際の経験や、被災地が抱える課題を交流しました。(丸山聡子記者)

 震災被災地の県連が一堂に会するのは初めて。岩手、宮城、福島、新潟、兵庫、鳥取、熊本です。

住宅より153億円の道路?!

 集会は、震度七を二度経験し、被害のもっとも大きかった益城町の視察からスタート。住居の解体がすすむ町は更地が目立つ一方、九〇度に折れ曲がった電柱や、崩れて傾いたままの住居もそこここに残されています。町を流れる秋津川の周辺は一メートルほど地盤沈下し、雨が降るとすぐに川の水があふれるため、川岸には隙間なく土嚢(のう)が積まれています。
 案内するのは、益城町の前町議・甲斐康之さん(共産)。同町の有志で作る「益城・四車線化を見直そう会」のメンバーです。
 昨年秋、熊本県は、熊本市から益城町を通る県道の一部の三・五キロの区間を、現在の片側一車線(上下二車線)から二車線(同四車線)に拡幅することを発表しました。総事業費は一五三億円で、二〇二六年三月に完成予定。今年三月には、国土交通省が事業を認可しました。
 道幅を現在の一〇メートルから二七メートルに広げる計画で、沿道の住宅や店舗など約三〇〇戸が移転を迫られることになります。四月からは対象地域の新・増改築はできなくなりました。対象者の中には、地震後やっと改修を終えた矢先に計画を聞いた人も。沿道には一七の医療機関があり、うち一〇の医療機関が、四車線化に反対を表明しています。
 甲斐さんは、「地震の際、倒壊した家屋が道をふさぎ、緊急車両も通れなかったことなどを県は理由に挙げている。しかし、交通量調査でも渋滞することはほとんどなく、四車線化は必要ない。住民が望む歩道の拡張などを行えば十分で、費用も半分で済む」と説明。
 次に、二二〇世帯が暮らす仮設住宅へ。「2Kの間取りに五人で暮らしている」「中学生の息子と娘が同じ部屋で寝る」「夫婦二人世帯は1K。夫は押し入れで寝ている」などの声や、現在の被災者生活再建支援金(最大三〇〇万円)では、多くが自宅の再建を見通せないことなどが出されました。
 県は、生活再建への支援を望む被災者の声に背を向け、“創造的復興”をスローガンに大空港計画や港の機能強化をすすめています。甲斐さんは、「住民の望まない四車線化ではなく、でこぼこが無数に残る生活道路の修繕や公共施設の改修、何より生活再建への支援こそ急務だ」と話しました。

熊本県の被災状況

(5月22日現在、仮設入居者数は4月30日現在)
直接死  50人
大雨による  5人
震災関連死  174人
負傷者  2696人
建物  190809棟
応急仮設  4157戸
みなし仮設  15365戸
仮設入居者数  47618人
(公営住宅等含む)

全国どこでも地震の可能性

―全ての県連で必要な備えを

 和田峯暢浩・全日本民医連事務局次長が開会あいさつ。「全国どこでも震度六以上の強い揺れに襲われる可能性がある今、全ての県連で必要な備えをすることが求められている」と語りました。
 『復興〈災害〉―阪神・淡路大震災と東日本大震災』などの著書があり、震災復興に詳しい塩崎賢明さん(立命館大学特別招(しょう)聘(へい)教授)が「近年の震災復興と今後の備え―阪神・東北・熊本」と題し、記念講演しました(別項)。
 全日本民医連の藤末衛会長が基調講演。「この間の大規模災害はいずれも復興に長期間を要し、新たな格差も生んできた」と指摘。「何を教訓とし、生かすか、心一つにとりくんだ実践と運動から導き出そう」と強調しました。
 MMAT(Min-iren Medical Assistance Team)の活動について、阿南陽二MMAT委員長(全日本民医連副会長)が報告。田村昭彦医師(全日本民医連理事)が、「大災害時に医療、介護福祉職員の健康をまもる取り組み~『不眠不休の災害医療』は美談ではない、予防医学的支援の重要性」について報告しました。

専門職として改善に動く

 各地からの報告の後、二グループに分かれて討論しました。
 被災者の住まいの問題や支援活動について、「避難所の改善を行政はかたくなに拒んだ。民医連として改善を要求することが大事」「介護施設は災害マニュアルがないところが多い。どこも人手不足で支援も出しにくい。特別の援助が必要」「日常的に地域住民と相談をしている。災害を想定した地域マップづくりを」「支援計画とともに受援計画も必要だ」などの意見が出ました。
 職員を含む被災者の健康問題も議論。「産業医も被災している場合もある。職員の健康を守るための研修が必要」「窓口負担免除は自治体によっても対応が違う。被災者の受療権をどう守るか、恒久的な対策を」「憲法二五条に基づき、仮設住宅の改善提言を他分野の専門家とも協力して作る必要がある」などの意見が出ました。

〈各地の報告〉

兵庫 一九九五年の阪神淡路大震災は死者六四三四人、住宅被害約六四万棟、避難所生活三二万人。日本が高齢社会になって初めての震災で直接死の過半数が六〇歳以上だった。孤独死は、仮設住宅の四年間で二三三人、災害公営住宅では現在まで九六二人。
 県内に七七一一戸ある借上復興住宅の住人を自治体が追い出そうとしている。復興住宅での健康相談や聞き取り調査を実施。希望者全員の入居を求めている。
熊本 地元紙の調査で住まいの再建、確保の「見通しが立たない」人が半年前につづき半数()。仮設住宅で孤独死が発生。みなし仮設での孤独死も三人。
 県連の事業所での被災者の自己負担猶予・免除は、医療費が月に一五〇〇件、介護費用は月四〇件。猶予・免除は九月末まで。実態をもとに継続の運動を強める。
 みなし仮設の入居者の四割の世帯が、障害・病気・要介護の人を抱えているので支援が必要。「人間の復興」に向け、最優先課題は「住まい」。「人間にふさわしい居住」の実現を求めていく。
宮城 いまだ一万九五九六人が仮設住宅に居住。昨年九月に災害公営住宅で訪問調査。経済的な厳しさに加え、「入居して生活環境が悪化したと感じる」人が一四%、七割が持病を抱えているにもかかわらず、被災者の医療費窓口負担免除(国保)は全体の四分の一。
岩手 県内は死者四六七二人、行方不明者一一五一人、建物の全壊・半壊二万四九一六棟。被害の大きかった沿岸部の主要産業である水産業の被害は約四〇〇〇億円。水産業は復興できておらず、人口が減少。仮設住宅でのお茶っこ会はメンバーが入れ替わり、コミュニティーの再結成が必要。
福島 福島の復興公営住宅、災害公営住宅は、津波・地震で被災した人、原発事故で避難を余儀なくされた人、自主避難した人が帰還するための三種類ある。原発事故で避難した四八九〇戸の訪問をすすめているが、対話が難しい。
新潟 〇四年の中越地震。全国から一〇〇人超が支援。山間地で被害が大きく、点在する集落で木造仮設住宅が作られた。
鳥取 昨年の地震で死者は出なかったが、一部損壊を含めると五割の建物が何らかの被害を受けた。“震災関連死を生ませない”をスローガンに、三〇〇〇人の生協組合員の安否確認。発災から一カ月後、支援行動で要フォローとなった人の訪問を行った。

図

〈講演〉 救えたはずの命―関連死ゼロに

立命館大学特別招聘教授 塩崎賢明さん

 熊本地震から一年。地震の直接死は五〇人、直後の豪雨被害で五人です。関連死は一七〇人でさらに二〇〇人が審査待ちです。三月には仮設住宅で初めての孤独死が発生。みなし仮設での独居の人の死亡は一三人です。
 熊本では、応急仮設住宅四一七九戸に対し借り上げ仮設住宅(みなし)が一万四六二一戸と、これまでと比べて圧倒的に多い。前進でもある一方、従来型の支援は届きにくく、課題です。
 日本の国土面積は世界の〇・二五%ですが、二〇〇〇超の活断層が確認され、世界の地震の二五%は日本で発生しています。いかに被害を最小限に抑えるか。事前予防と緊急対応、復旧復興がカギとなりますが、復興の過程でも被害が出ています。阪神・淡路大震災以降、関連死の比率は増大。主な原因は避難生活にあります。

被災者に予算を使え

 東日本大震災から六年。いまなおプレハブ仮設住宅に暮らす人が三・五万人、みなし仮設は五・五万人です。すでに復興予算は二五兆円を超えていますが、このうち仮設住宅や災害公営住宅、生活再建支援などに投じられたのはわずか二兆一五〇〇億円。一方、「全国防災対策費」の名目で、被災地以外で三兆円も使われています。
 応急仮設住宅は狭く、断熱性など設備が不十分で居住性が悪く、健康被害も発生しています。コミュニティーも破壊しています。
 みなし仮設は恒久的で自分で選択できるなどの利点がある一方、地域で偏りがあり、家賃補助をいつまで行うかという問題があります。一般施策として恒久的な家賃補助の整備などが必要です。

遅れている日本の施策

 震災のたびに「創造的復興」のかけ声で巨大事業が繰り返されており、危険です。被災者の生活・営業再建に打撃を与えます。
 日本の避難所は世界の中でも劣悪です。体育館での雑魚寝、おにぎり一個に何時間も並ぶ、トイレは不十分など、人道上の問題として即刻改善する必要があります。
 アメリカでは災害避難所環境アセスメントがあり、イタリアの仮設住宅では衣食住が権利として保障されています(資料)。
 日本でも(1)「防災・復興省」の常設、復興法・体制の改革、(2)既存の法制度に合わせるのではなく被災者の実際のニーズに対処、(3)自分たちの生活を取り戻すことへのこだわり、執念、が重要です。
 「関連死、孤独死をゼロにする」。震災ではこれを目標とすべきです。医療・福祉の現場から声をあげてほしいと思います。

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(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)

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