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2017年6月6日

こたつぬこ先生の社会見学~3・11後の民主主義 (3)権力とメディア

 新聞社やテレビ局の世論調査は、時々の国民の関心を調査をもとに数値化し、私たちの身近な範囲をこえた全国的な意識動向を知る大切な指針になっています。統計的手法に基づき弾き出す数値ですから、客観的に思えます。もちろんそれを心掛けているメディアもありますが「質問の仕方」を操作して、都合のいい結果を出そうとするところも。最近は「憲法」について、それがやられました。
 5月3日の憲法記念日。憲法擁護を掲げる集会が各地で行われるなか、驚きのニュースが飛び込んできました。安倍総理が読売新聞の紙面と「日本会議」の集会で「2020年のオリンピックにあわせて憲法9条に自衛隊を明記する」と発表したからです。周知の通り改憲は安倍総理の悲願です。でも、どの世論調査をみても「今の憲法を評価する」が8割から9割を占め、「憲法9条を守ったほうがいい」はここ40年間で最高値に達しています。そこで安倍総理は「すでにある自衛隊を憲法に明記するだけ。だから憲法9条にある戦争放棄と戦力不保持の規定は何も変わりませんよ」とごまかすことで、国民を安心させ、隙をついて改憲に踏み出そうとしたわけです。
 読売新聞の憲法調査は、この安倍総理の意図をくんだ質問の仕方をとりました。「第9条の1項、2項はそのままに自衛隊を明記するのに賛成か反対か」とだけ質問したのです。すると「賛成」47%、「反対」38%という結果となり、読売は「安倍総理の改憲案は国民に支持されている」と宣伝しはじめました。これに対し朝日新聞は、安倍総理の意図をくまない質問の仕方をとりました。まず「安倍総理が改憲を提案したことを評価するか」との質問で、「評価」は35%、「評価しない」は47%となり、「2020年までにやるべきか」は「やるべき」は13%、「こだわらない」が52%、「必要ない」が26%に、そしてこれらの質問を踏まえ「9条に自衛隊を明記すべきか」と質問すると「賛成」41%、「反対」44%と、読売とは結果が逆転しています。つまり国民の多数は、「安倍政権の下で拙速に改憲することに反対」と考えていると分かります。両紙の調査からみえてくる国民意識はまったく違います。
 世論調査は誰のためにあるのか。日本最大の発行部数の新聞社が、権力者が望む結果をだすために平然と世論を歪曲(わいきょく)するのがいまのマスコミの現実です。逆に、権力とメディアをフル動員してごまかしを重ねなければならないほど、日本国憲法は国民に定着し、高く評価されているということでもあります。
 私たちは、誇り高き憲法とそれを支持する国民におびえながら嘘八百でしのごうとする情けない総理大臣と大メディアに、もう少しだけ付き合わざるをえないようです。

こたつぬこ:本名は木下ちがや。政治学者。著書に『国家と治安-アメリカ治安法制と自由の歴史』、翻訳:デヴィッド・グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』など Twitterアカウント @sangituyama

(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)

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