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2017年6月6日

政府の新提案は、東電や原発事業者の救済策 ―――龍谷大学教授・大島堅一さん

 政府は昨年12月、福島原発事故を起こした東京電力の経営計画などを検討し、「事故処理費用は21.5兆円」との試算を公表しました。2013年の想定の11兆円から一気に倍増。さらに東電や原発事業者の負担を税金や電気料金で肩代わりする新しい提案もしています。原発のコストに詳しい大島堅一さん(龍谷大学教授)が、原発をなくす全国連絡会で行った講演(2月)から紹介します。(丸山聡子記者)

原発は安い電力ではない

 昨年末、経産省「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会=非公開)」は事故処理費用が二一・五兆円との試算を出しました。ここには帰還困難地域の除染費用は含まれていません。損害賠償費用も増大すると見られます。原子炉格納容器内で確認された、高線量の核燃料(デブリ)と思われる物質の処理費用も、政府の試算には盛り込まれていません。二五兆円を超えると見ています。
 さらに政府は原発政策を撤回せず、各地で再稼働をすすめています。使用済み核燃料の再処理費用など核燃料サイクル費用も増大するでしょう。すでに、事故費用は一五兆円を超えたとみられます。「原発は安くて安全」ではなく、「原発こそが不経済」なのです。
 事故費用を負担すべきは、言うまでもなく事故を起こした東京電力です。純資産は二兆円で、長期に及ぶ膨大な費用は払いきれないはずです。しかし、事故から約三カ月後の六月一四日、当時の菅内閣は「東京電力支援の考え方」を閣議決定し、上限を設けずに何度でも援助し、東電を債務超過にさせないことを決めました。
 東電は損害賠償を支払っていますが、原子力損害賠償機構から資金が交付されているため、実質的には負担していません。除染費用や中間貯蔵施設の費用、事故収束、廃炉費用などは全て電気料金と税金に上乗せしています。
 環境を破壊したり汚染した際には、「汚染者負担原則(PPP)」というルールがあります。今回の原発事故では汚染者である東電が賠償、除染、放射性廃棄物処分などの費用を支払うのが当然です。現状では汚染の加害者が責任をとらないモラルハザード状態です。

新電力利用者にも負担

 そんな中、政府は電力自由化という新しい情勢のもとでも東電と原子力事業者を救済し、利益の確保をめざす提案をしました。
 ひとつは、東電が担っている事故炉廃炉費用については新たな制度をつくり、東電の送電部門の利潤の一部をあてるというもの。東電を利用していない人の電気料金からも廃炉費用をとる計画です。
 電気料金はこれまで、電力にかかる全てのコストを電気料金に転嫁できる総括原価方式で決まっていました。事故費用と廃炉関連費用はこれを利用し、電気料金にのせ国民に負担させてきたのです。
 しかし、二〇一六年四月に電力が自由化。二〇年をめどに総括原価方式に基づく電気料金がなくなり、事故費用は転嫁できなくなります。ただし送電線は全ての電力事業者が利用するため、託送料金(送配電使用料金)の部分は総括原価方式が存続します。ここに目をつけ、原発を持たない新電力にも事故費用を負担させるというのです。
 経産省は損害賠償費用について、「事故前は賠償への備えを算入すべき電気料金に算入しておらず、その分安い料金で利用した過去の消費者からさかのぼって徴収する(過去分)のが妥当だが不可能なので、新電力も含めて一律に負担させる」としています。しかし、賠償責任は東電にあるはず。
政府が説明する「過去分」の額は三・六兆円。一方、東電を除く原発事業者が原子力損害賠償機構に支払う一般負担金は三・七兆円です。電力自由化で機構に支払う負担金を電気料金にのせられなくなるので、その分を肩代わりするために考えた方策が「過去分」だった―。私はそう見ています。

原発廃棄が正しい道

 政府の提案は原発再稼働ありきです。これが制度化されれば、あらゆる費用が送電部門や託送料金でまかなえます。裏を返せば、原発事業者は、原発を持っていても損ではなくなるわけです。
 原発を廃棄すれば、原子力開発や立地対策の費用など年間約三〇〇〇億円を事故費用に回すこともできます。政府は、原子力政策を推進し事故を起こした誤りを認め、原発廃棄を決定すべきです。

図

(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)

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